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【暑い夏10】講師インタビューVol.18 イニャーキ・アズピラーガ
2010年07月4日
聞き手・翻訳・インタビュー構成:中村まや
IÑAKI AZPILLAGA イニャーキ・アズピラーガ (ベルギー/ブリュッセル)
身体と身体が限界において対峙する際に生まれる測り知れないエネルギー。その未知のエネルギーを循環させその渦に人を巻き込む彼のクラスで、動くことへの衝動を抑えることはできない。ベルギーを代表するカンパニー、ウルティマ・ヴェスの振付アシスタントをつとめる。ニード・カンパニーやIMPULS TANZなど多くのヨーロッパのカンパニーやフェスティバルにレッスンを提供している。パフォーマー、講師として数々の経験に裏打ちされた魅力溢れるレッスンが好評。
インタビュー・ウィズ・ミスター・イニャーキ
撮影:津田英理子 |
ワークショップを見学しました。終わってから、感想と、どんな人がイニャーキのクラスで伸びるかについて話しました。伸びる人というのは、直観で動ける人、とのこと。日本人は体の接触が日常的に少ないので、昔はクラスで「さぁ、やって」と言っても、みんなこわごわだったそうです。今、みんな自然とやってくれるようになってきて、これは良い兆候だと感じているそうです。では、日本人のダンスの長所と短所ってなんだろう? と思い、と聞いてみました。
イニャーキ(以下、イニャ) (日本人のダンスは)とても正確です。
+ とても正確というと?
イニャ とてもコピーするのがうまい。勤勉です。これは日本人だけの短所ではないですが。ダンスの中で、その人がどんな人かを知っていきます。ダンス、人、生きること。時によくわからないこともありますが、そんなことを、ワークショップでは見ています。
ダンスでは、動きに付随する感情や感傷が、曖昧です。人と人との関係が難しい。これは日本人についてのみ特に言えることです。日本人は、尊敬をとても大切にしています。尊敬の念というのは美しく、すばらしいものです。しかし、私のクラスで、時に人と接触することを求めるときに、この他人への尊敬のために、「接触しません」と言う人もいます」
+ たくさんの種類のダンスを経験されてきたと聞きます。バスク地方の民族舞踏、バレー、コンテンポラリーダンスなど様々ですが、踊られる時は何を考えますか? 何を感じますか?
イニャ 何が頭の中を通り過ぎていくか? その時々です。言葉では何と言ったらよいかわかりません。それは、生きているように感じます。どのように説明したらいいかはわかりませんが……、とにかく生きていると感じます。一方では、どんどん進めていく力がはたらき、もう一方では、もし私一人であれば、私は何を感じているでしょう……、空間か、音楽か……。私は音楽が好きです。私の中で、動きには音があります。歌ではなくて、音。「フシュー」、「フー」、「ティック、ティック」といったような音。私は動く時、音と一緒に動くことが多いです。私にとって、とても大切な要素です。
+ 音……、それはクラスでかけていたような音楽ではなくて、内なる音ということですね?
イニャ そうです。シンボルのように、ショーを見ると、まず私の中に音が残ります。音楽です。人によっては、色が残る人、言葉が残る人、空間が残る人もいます。私にとっては、それは音楽です。音楽は、生きているものです。私の内面に最初に届くものです。音楽が、私に最初に届き、それと一緒に動いていきたいと思います。
+ クラスの最初にストレッチをしていた時、話す、というか、むしろ歌っていましたね。それは、受講生にあなたがどんな体勢でいるかを示すのにとても良い方法だと思いました。
イニャ それは“moaning”(うめき声)ですね。ささやくというか、何というか……、それは私の頭の中の音なんです。それが私が言った音なんです。多くの場合、そんな感じです。
+ 音楽をかけたときも、内なる音は出てくるのですか?
イニャ はい。
+ それは外側の音との関連はありますか?
イニャ いいえ。また違った要素です。時に、音楽と関連性を持たせることもありますが、動きにはまた別のリズムがあります。民族舞踊を踊っていた時は、動きと音楽の結びつきは強いものでした。語りのようでした。バレエもそうです。バレエも、多くの場合、とても語りの要素が多いです。ステップ、音楽のメロディー、それらはダンスのストーリーを示しているかのようです。しかし、ここではそれと同じ関係性はありません。より調和を求めます。
すべての要素はひとつの調和のかたちを作り上げるためにあります。たとえば、オーケストラでは、すべての楽器が同じ拍子で演奏されているわけではありません。いろいろ違った拍子で演奏されます。しかし、すべてを一緒に聞くと、ひとつの……、意味を持ちます。ひとつの意味、もしくは一つの意味に対して、もう一つの意味。バイオリンがパーカッションに対して異なっていたり、もしくはすべてが一緒になったり。みんな同じことを演奏しているのではありません。しかし、調和を持って関係しあっているのです。
ダンスでも同じことをしようとしています。音楽があり、動きがあり、衣装があり。すべてが同じことを言っているわけではありません。皆が、同じメッセージを伝えているわけではありません。しかし、それぞれが違ったメッセージを持っていて、それをすべて合わせると、とても情報量の豊かな絵となるのです。
+ これが最後の質問です。暑い夏15周年について、コメントをお願いできませんか? このフェスティバルがどのようになっていってほしいと思われますか?
イニャ そうですね……。現在どんどん成長している。この調子で、どんどん発展していってほしいと思います。
このフェスティバルはとても成長しました。自発的に、たくさんの人が参加しています。振付師、新たな興味を持った人など。そして、新たな芽が出るように、彼らが育っていってほしいと思います。大きな木があるだけではありません。その周りに、たくさんの小さな木が育っていっているのです。
これらが日本のほかの地域でも行われ続けていくとよいなと思います。様々な地方から人が来ているし、フィリピン、韓国、フィンランドから来た少女もいます。
+ 日本で教えるのは好きですか?
イニャ はい。日本で教えられることに、とても感謝しています。私はここにいる人たちをとても尊敬しています。日本人にとっては、国の支えなしに、お金と時間を投資するのは大変だと思います。
日本の文化は日本の国家的補助を受けていません。とても私的なものです。ダンサーがほぼアマチュアのようにして踊り続けていくには、とても努力が必要です。お金も補助もなく、これだけの努力をする日本人を尊敬します。
+ そうなんですね。ヨーロッパには、国家的援助がたくさんあるのですか?
イニャ はい。ヨーロッパには、おそらくフランスの考え方の影響で。そして、良きにしろ、悪しきにしろ、国家によっては文化のあり方に非常に介入してきます。そして権力をもって修正を求めてきたり、誰も国家に反対するようなことはできないようにします。もし国家に批判的であれば、お金や援助は受け取れません。もし生計を立てようとすれば、表現に制約をかけなくてはならないことがあります。ただ、制約をかけず、国家の援助なく、国家を批判しながら続けていくやり方もあります。「国家」と言っているのは、たいてい経済的援助をするのは国だからです。国か、市か。ほかの芸術活動で、絵画などもありますが、それは商材化されています。
+ 商売になっているということですか?
イニャ はい、商売です。絵画は売買できます。こう言っていいかはわかりませんが。絵画は芸術表現として評価されます。その価値によって売買されます。しかしダンスは、あまり売ることはできません。ダンスを所有することはできません。誰も、家に所蔵しておくようなことはできません。映像にはできますが、舞台は過ぎていって、終わります。ただ、記憶にとどめるだけです。
+ ゆえに舞台芸術は美しいのでしょうか。時が過ぎて、消えていくから?
イニャ そうですね。
+ 自分の作品をビデオか、何か永遠に残るような方法で保管したいと思われますか?
イニャ おや。誰でも記念をとっておきたいと思います。でも、すべてを取っておくことはできないことも知っています。ビデオワークもあります。ダンス、劇、音楽などです。でもそれらは、新しい作品を作るためのものです。ビデオ……、しかし表現活動を記録しておくものとしては、とても難しいものです。
+ とても興味深いですね。ご協力、どうもありがとうございました。
イニャ ドウイタシマシテ。オツカレサマデシタ!
(2010年5月1日)
撮影:津田英理子 |
中村まや(なかむら・まや)
2005年ペルー留学中、たまたま暗黒舞踏に出会い、コンテンポラリーダンスに興味を持つ。現在は商社で働きながら、ダンスのWSに参加したり、バレエでよく動く体づくりを試みる。サルサ、ブラジル音楽なども趣味とする。
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