2010年01月28日

チラシを手にする暇もなくチケット完売。コンドルズアートコンプレックス1928 公演がそんなえらいことになりだしたのは、某国営放送で彼らの姿を目にするまだ前だったかと思う。ようようチケットを工面すれば、寒中行列、客席でのお尻合戦。そうした多少の不便をおして舞台にかぶりつく人々の熱気の中、杮落とし公演の記憶がまざまざと蘇る。変わらない…。いやいや、変わっていないはずがない。でもこの不思議な感覚は何だろう。祭りのように待ち望まれ、繰り返されるコンドルズのアートコンプレックス公演が異次元に思われるのは、ひょっとすると、私たちの日常と同じに、“変わらない”ものを求めにくいような時間の流れに、アートというものづくりものっかっているからかも知れない。さておき特集第二弾。超多忙な公演の合間に、みかんと煙草を手に語らってくれたコンドルズ×アートコンプレックス1928のゆったり座談会をお楽しみください。

協力:ART COMPLEX 1928/THE CONDORS
構成:古後奈緒子

宣伝美術:柳沼博雅(GOAT)
宣伝美術:柳沼博雅(GOAT)

 コンドルズがアートコンプレックスでしかできないことって何でしょう?

近藤:なんだろう。ここでしかできないことはいっぱいあるよね。実際ここみたいな場所って、ないですよ。地方にもよく行くけど、東京でもギャラリーはあっても、劇場がメインでこういうところはないですね。

勝山:だって天井が「丸」ですからね(笑)。

近藤:すごいっすよ。本当は一度、隣のビルから登場とかやりたかったのね。あそこかっこいいからね。

勝山:窓を開けると向こうのビルにいる。

近藤:そうそう。そういう感じのことが、こういう場所ではやりたかったよね。

古賀:私は一度、劇中、外までコーヒーを買いに行かされました。

勝山:罰ゲームみたいな設定でね。

古賀:お客さんをかき分けてゆくような感じは、ちょっと楽しかったな。衣裳のまま外に出て行ったりするのも。

近藤:独特にくだけていい雰囲気はある。

小原:お客さんの側からしたら、コンドルズは最近大きいところでやるから、こんなに近くで見られる機会って少ないでしょう。お客さんとの絡みや舞台との一体感、そういうものをここでは楽しんでもらってるんじゃないかな。

勝山:圧倒的に近い距離だから、いつもやっている700人規模の劇場と比べると、一体感は全然違いますよね。それはでかい。

近藤:劇場との共同作業みたいなところもあるね。初期の照明なんか小原さんがやってたんだよ。不思議なムービングをまわして。

01勝山:「斬新なんだ、これが斬新なんだ!」って(笑)。

近藤:「アートコンプレックスて、こういうとこなんだ!?」って。

勝山:何せ初の地方公演ですからね。「地方公演て、こういうことなんだ」って。あと日程もすばらしいですよね。その年最後の踊り納め公演で、それにぴったりの場所。ちょっとした忘年会ですよね。お客さんも含めて。

近藤:本当はこの裏で鍋とかやってて、出番が来たら出てくるとか、それくらいのゆるさでやりたいの。

古賀:いいね、それ、忘年会公演(笑)。

 では、アートコンプレックスから見て、コンドルズにしかできないことは?

小原:まずいろんなものがミックスされたバランス感覚が、何とも言えないね。アートコンプレックスの「コンプレックス」の部分は言葉でいろいろ言うけど、コンドルズを見たら「これやねん」の一言で済む。まさに自分がやりたかったことの具現化されたもの。それは最初に見たときに感じました。例えば空間の使い方一つとっても、何かを飾り付けたりするわけじゃなく完全に使い切るでしょう。

近藤:これ(前舞台の吊り下げ)なんかも使います? 他のカンパニーとか。

03小原:まあ、これくらいは使うけど、どうしても飾るパターンになる。これだけ素の状態で使い切っているところはなかなかない。

古賀:今度の作品でジャングルみたいな場面があるじゃないですか。ボートがこう来てこっちに落ちる。あそこで次元が変わるんですよね。この段差があるから、お客さんから見てカメラの位置がどんどん変わる映画みたいなことがやり易いんじゃないかな。

小原:でもね、客席からはわからないだろうけど、ここ、舞台の後ろとか通じてないのよ。それなのに、まるで縦横無尽に出入りしているように見えるでしょう。あれって、考えられないくらい大変なの。

近藤:この裏、一回通ってごらん。あのデブがよく通れると思うよ。

小原:狭い狭い。

古賀:ある意味すごく不便なんだけど、その不便さが面白い。

小原:そのへんを面白がれるクリエイティビティを持っていて、逆に使っちゃうんだってところの違いですよね。

勝山:昔、自分の連載で、良平さんのことを書いてくれって言われたことがあるんだけど、そのときのキーワードが「サバイバル」だったんですよ。良平さんは、例えば無人島に行ったら行ったで、あるものだけで生活できる。だから劇場がこれしかないんだったらこれでやる。練習に3人しか来ないんだったら3人でやる。そういうところに関しては、天才的な能力を持っている。

古賀:ここに慣れていないと、というところもあるね。今回初めてだったぎたろー君とか、一度「出られない」ってなっちゃった。

06小原:この劇場が体に入っていないとね。入っているから、大半が東京の稽古で作れちゃうんだろうね。

近藤:今回なんて、来たのは初日の1日前でしたからね。

小原:まあ、今回はちょっと少なかったな。

近藤:うん、今回は少なかった。

勝山:みんな家族もあるので、クリスマスは大変だということで(笑)。

そのコンドルズの時間もとても不思議です。余裕というか、新しいものを求められる業界で変わらないことをされているところなど。

近藤:そういう意味での「コンドルズ時間」ね。

勝山:5時集合で1時に終わるとか、そういうことじゃないのね。うちの得意な。

近藤:そっちかと思っちゃった(笑)。でもそこは、僕たちはダンスだけをやっているわけじゃないから、すでに特殊ですよね。みんなそれぞれに職業を持っているし、たまたまだけど、テレビとかラジオとか他の媒体があるから、それは大きいと思う。つまり、ダンスだけを見せて上がり下がりするっていう世界じゃない。それは最初からそうしたかったの。最初から、そういうやり方でずっと続けるって思っていたの。

02勝山:「変わらない」と言ったけど、もちろん我々の中では変えているつもり。でも大雑把な印象だと変わって見えないように作っている。それは、例えばローリング・ストーンズなんか、始めた時点から何も変わっていないわけですよね。

古賀:変わって見えない。曲が変わっているだけで。

近藤:ベジャールなんかもそうだよね。見たらベジャールってわかる。ずーっと一緒だもんね。

勝山:そう。でも昔の80年代のJ-popとか、もう聴けないわけですよ。要するにその都度の最先端を投入していろいろやっちゃうと、時間が経てばたいがいつまらなくなっちゃう。
小原:僕はものすごくシンプルなものだと思ってるんだけど、シンプルだから飽きがこない。ほんま飽きない。例えば最初にここでやったとき、まだちっちゃかったうちの子供に見せたら、何ヶ月後でもコンドルズのことしゃべってたもんね。「これはいける!」と思いましたよ。

近藤:そういえば、こないだ人形劇をやったときに子供のアンケートがあって、全部絵なの。すごいなと思って。こう「黒んぼ兄弟」とかって書いてあって、お客さんが描いてあって、枠もあって、人形があって…。ありゃ絶対舞台やりますね、あの子は。はまっちゃったね。

勝山:それは何かの本質をつかんでいる団体だからじゃないですか。ずーっと聴けるロックンロール・ミュージックは、たいがいシンプルですよ。シンプルでストレートでストロングなものなんですよね。あとは、たぶん最初の段階であまりに画期的なものを作りすぎたんですよ。うちは最初から無理矢理、映像もやってましたしね。その時点で発明に近い作品を作ってしまったので、例えば文章でいうような得点つけとか、丸つけとかではないレベルに行ってしまった。だから我々は、別にこのスタイルを変える必要はもはやないんですよ。これをやりたいんだし、まだ浸透しきっていないわけですからね。だって、そっくりだと思う団体とか出てきてないでしょう。「これ、おんなじじゃん」ってのが出てきて欲しいんですけどね。まだまだ。

一同+:不思議だねえ。



 最後に、毎年アートコンプレックスの公演で楽しみにしていることは何ですか?

勝山:昨日の夜とか、アンデパンダンで呑んだんですけれど、そこにお客さんが来ていて交流できたり、そういうのも楽しいんですよね。なかなかそういうところってないですからね。

近藤:ないよね。

勝山:ここなら許す、許されるってとこがある。

近藤:綜合的にかっこいい。

勝山:なんかチェ・ゲバラの映画で見た場面みたいに、民衆達がいるところに革命家がさくっとやってくる(笑)。

近藤:そういうのいいよね。ふだんから、お客さんと直に接する内容っていうのは作品に入れようとしていますけれど、ここはさらにっていうところがあるかも知れない。でもさらに入り込まなくても入れるんだよね。そこにいることがほとんどもう一体だから。普通の劇場だと、やっぱ分かれちゃうから。

一同:鎌倉君が楽しみなのはラーメンでしょ?

鎌倉:……。ここの舞台監督のシゲタ君が中国武術が好きで、年に一回教えてるんです。でも昨日寝坊しちゃって、「楽しみにしてたのに…」って。

小原:そりゃ、シゲタが楽しみにしてるんじゃん。

(爆笑)。 

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アートコンプレックス1928/ART COMPLEX 1928
小原氏が統括プロデューサーを務める、アートコンプレックスグループの劇場。1999年に、カフェやギャラリー施設を擁して生まれ変わった元大阪毎日新聞社京都支局ビルにオープンし、コンドルズのこけら落とし公演で話題をさらう。以来、クリエイションに関わる様々な立場の人々が集まる場として、京阪神になくてはならない文化の創造拠点、演劇の流通システムにおける実験場となっている。1928年に建設され、京都市登録有形文化財に登録されているビルそのものも必見。

コンドルズ/THE CONDORS
男性のみ学ラン姿でダンス、生演奏、人形劇、映像、コントを展開するダンスカンパニー。20ヶ国以上で公演し、ニューヨークタイムズ紙で絶賛され、渋谷公会堂公演を即完超満員にするなど数々の伝説を持つ。振付出演にNHK「サラリーマンNEO」、「テレ遊びパフォー」、「からだであそぼ」、舞台NODAMAP『パイパー』など。劇団EXILEへの客演、映画『ヤッターマン』振付担当、『コンドルズ血風録』出版など多方面で活躍する。主宰の近藤は朝日舞台芸術賞寺山修司賞受賞。TBS「情熱大陸」、雑誌「AERA」その他で取りあげられる。バンドプロジェクト・THE CONDORSは日産NOTE、カルピス健茶王TVCMにタイアップし、NHK総合「MUSIC JAPAN」他に出演。現在、NHK「こんどうさんとたいそう」、「みいつけた!」、ラジオ「NG」(インターFM76.1MHz)などにレビュラー出演中。

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