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【暑い夏15】C-2「LINE_1」
2015年07月9日
今私は2015年5月10日曜日の19時を少しすぎた、日本の京都府京都市中京区元立誠小学校の講堂の正面入り口から入って、左側の角にあるグランドピアノを背にしてステージの方向に向かって立っている。正面にはステージが見え、右側の壁には腰の高さに窓が設けられている。左側にも同じ仕様で窓が設けられていて、グランドに面している。そして両側の窓の下には観客が座っているのが見える。ちょうど大きく呼吸を一回したところでステージに設けられたスピーカーから曲が流れ耳に届いた。エリック・ラムルーShowingが始まった。
細く黒い1本の直線。床の木製パネルの合わせ目によって浮かび上がった1本の直線は私の足の指先から向かい側の壁まで伸びている。直線は私の横に並んだダンサーたちの前にも伸びていて、その直線の上1本ずつの両端に交差するようにダンサーがひとりづつ立っている。
私は両方のつま先に力を入る、かかとがじわりと浮き始める。会場に流れたクラッシックにピアノが加わるのをキッカケに直線の上に右足を踏み出した。観客に観られながら直線上を歩くのは、さすがに緊張して小刻みに足が震え、更にバランスを取ろうと集中すると呼吸が弱まって浅くなる。ふと練習中にエリックが言っていた言葉を思い出した。「かかとをつけてやり直してもいい」続けて「ブレスをして」私は深く口から息を吐き、鼻から空気を取り込みながらかかとをゆっくり床に付けると焦りと緊張が和らいでいくように感じた。
周りではすでに5つの振り付けが繰り返されている。再びエリックの言葉を思い出す。「人生の中での様々な思い出を思い出しながらやってみて、楽しかったこと、辛かたったこと」と。エリックの言葉を思い出したと同時に、動画再生のスイッチをクリックしたように、私が今ここ、現在に至るまでの思い出が溢れ感情を刺激した。感情は会場に響く曲、自らの動き、他のダンサーの動きによって刺激を受けて過去から現在へと溢れ流れていった。聞こえてくるクラッシックの曲調に誘われ悲しい思い出が浮かぶ。しかし悲しみ徐々に消えて行き、今この場にたどり着けた嬉しさが強くなっていった
直線上で行う振り付けは5つある。それぞれが私には人生で経験した数多くの思い出と繋がって行った。1つ目は立ち止まり、両手をツタ植物が絡むように交差し手のひらを合わせて頭上に引き上げ伸ばしていき、限界に達した瞬間に絡まった腕は左右に開いて肩の高さに下りてくる。同時に右足を後ろに大きく引き、体を半回転し左足を大きく横に開き、床の直線に対して横向きに立つ。残った右足を直線をなでるように繊細に左足まで引き寄せてくる。右足は左足の甲に重ねられ、両膝を少し曲げていき骨盤を少し下げる姿になる振り付け。私には懸命に頑張って取り組んだ物事の結果が報われずに後退してしまった不安感を思い出し、でも再び気を取り直して腰を据え物事に取り組んだ時の思い出と繋がっていった。
2つ目の振り付けは片側の足に重心を移動させて一本足で立ち、上体を前に倒していく。同時に反対側の腕は前の斜め下に伸ばされて、重心の乗った足の方へと近づくように並行に動かしていく。顔は反対側を見るようにして上半身がねじれるようにし、バランスの限界を迎えたら、前へと一瞬崩れ込む勢いを活かして進む振り付け。この振り付けは私はあまり思い出と繋がらなかった。
3つ目の振り付けはかかとを付けた状態で片足で立ち、同時にバランスをとるように両手を自然に肩の高さぐらいに上げていく。片足立ちの上半身は更に前方に倒れ込みバランスが崩れる限界を迎え、深くお辞儀をするように倒れ込みむ。倒れまいとバランスを取ろうとして生まれたエネルギーにより大きく前に進む振り付け。私には1つの物事に不安を抱えながらも挑戦し成功して躍進した瞬間の思い出と繋がっていた。
4つ目は直線上で方向転換する振り付け。私には危機回避で引き返したり、あるいは迷いから歩んで来た道を再び確かめるため振り向いたり、気ままに進む方向を決めて引き返したりといった複数の思い出と繋がった。
最後の5つ目は、立ち止まり全身の力がすっと真下に抜けるようにしゃがみ、自分が向いている方向の右側に倒れ込みながら伸びて床に横たわる。横たわった姿は直線上を歩いていた時の姿そのままにパタンと倒れた状態。数秒してから床の直線に引き寄せられるよう体を縮ませ起きていきながら、直線に対してタテに添う姿で床に両手がつき、左足が一歩前で深く曲げられ右足は一直線に後ろに伸ばされた姿になる。深く曲げられた左足に重心を移動して上体を起こしていく。最後に残った右足は直線上をなぞりながら引き寄せられて、両足が床に揃い直立する振り付け。私はこの振り付けは困難によって倒れて込んでしまった姿から一気に挽回して、新たな可能性を見出し立ち上がった思い出と繋がり、動作を終えた時に困難を乗り越えた時のような達成感を味わっていた。
これらのダンサー自身の思い出と繋がる可能性のある5つの振り付けが、講堂のダンサーそれぞれのタイミング、他のダンサーの影響を受けてのタイミングで同時多発的に各直線上で踊られていた。私の目に映る光景はまるで、人生そのものだと想いも巡らせていると次の構成への曲のキッカケが訪れる。
全員が振り付けの1つ目のように床に横たわる。そして一斉に直線に引き寄せられるように上体を起こしつつ床に左足を膝から曲げ、右足が後ろに引かれて、両手は床をしっかりと捉えた姿になる、次に左足に重心を移動して上体を起こしていき、再び歩き始める。数十秒後、直線に対して横向きになり、左足の甲に右足を重ねて、尾てい骨を少し下げ重心を下げ安定させ、両手をツタ植物が絡むように交差し手のひらを合わせて頭上に引き上げていく。絡まった両手は一斉に限界を迎えて真横に解き放たれ、まるで花びらが開くように繊細に開いていった。
続いて繊細さが漂った会場をダンサーたちは再び両端へと分かれていく。
「LINE_2」へと続く・・・
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