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【暑い夏15】C-2「LINE_2」

2015年07月9日

 まず講堂の両端に分かれた片側のグループから、次の振り付けが始まる。前半とは打って変わって動きが速い振り付けとなり、似た2種類の振り付けを2つのグループがそれぞれ1回ずつ計4回行った。
 あっという間に私たちの番になる。先のグループが終わり舞台から駆け出すと入れ違いに舞台上の定位置に駆け込み、そこからは電光石火。あらかじめ決めた方向へ3歩前に進み、その場で回転し、何者かに後ろに引っ張られるようにして床に仰向けになる。左足が前方に引っ張られながら膝を立てて、腕では床を押しつつ右に回転してそのまま床に横たわり、足を巻き込み時計回りに回転しながら立ち上がっていく、回転が止まった瞬間に右足を後ろにめいっぱい引き、同時に両手のひらが床につき、短距離走のクラウチングスタートに似た姿になる。右手に重心を移動させ右手をコマの軸のように回転して再び床に仰向けになり、起きると同時に両手のひらを床に付けて体の方向を約180度回転させ再び仰向けになる。腕で床を押し、腰を持ち上げる勢いを使いながら再び右側に回転して床に横たわり、足を起点に後ろに投げ出して丸まっていき再びクラウチングスタートの姿になり、3歩進んで回転し進行方向と反対側に進みながらスライディングして一旦止まり、そのまま掛け出して舞台の外へ出る。と入れ替わりで最初のグループが次の振り付けを始める。
 あっという間に彼らの振り付けは終わり、再び私のグループは舞台上に駆け込んだ。あらかじめ決めた方向へ3歩進んで引っ返してスライディング、再び決めた方向へ1歩進んで引き返してスライディングして起きあがる時に足をからめて一回転して、再び決めた方向へ進み右回転し、左回転し方向が変わったところで再びスライディングして、、、このあたりで私は振り付けを忘れてしまい他のダンサーを見て動きを合わせるだけで精一杯になってしまった。やっとのことで最後のスライディングからの次のペアでの振り付けを行う位置へと駆けだしていった。 
 

撮影:溝口奈央
撮影:溝口奈央

 
 次のペアでの振り付けはエリックの短い作品が元になっており、新たにオリジナルの動きを加えて出来た振り付けだった。元の作品を観て私は二人の男女が出会って関係が生まれていくのを表しているように感じた。横に並んだ男女の内女性から肩に手を回して引き寄せてお互いのポジションが入れ替わる動きを基本として、相手に触れるまでの時間から生まれてくる感情の部分も動きに影響していて、初めは怖々と繊細に触れていたのに触れる回数を重ねると大胆に強く触れていき、両者の関係にも変化が生まれ、基本の動き自体にも変化が生まれていく様子が興味深かった。
 Showingで私達のペアは動きを極力シンプルにして且つ繊細に相手を感じながら行った。始まりはスローモーションのように相手にじっくり時間を掛けて触れることから始まり、後半部分では、初めに繊細に触れていた関係から、相手を運んだりと大胆な動きが加わると明確に”流れ”が生まれて、同時に互いの関係にも変化が生まれそれぞれのペア特有の関係、動きへとなって行った。ペアとの間で生まれた流れを利用すると、瞬間瞬間でポジションが交差し合い加わるエネルギーが均等な状態になると、2人が1つのコマかのようにグルグルと回り出し加速して行った。ちょうどピークを迎えようとした時に会場の照明が落とされた。
 

撮影:溝口奈央
撮影:溝口奈央

 
 次の振り付けへのキッカケが訪れた。ここからはエリックが持参した透明で樹脂製の細い2メートルほどの棒を使っての振り付けとなる。エリックは”バゲット”と呼んでいた。
 会場は薄暗く、グラウンド側のガラス窓から差し込む蛍光灯の白い光と反対側の窓から差し込む淡い赤色の光が会場を照らす中、ダンサーたちは決めらた3箇所に散らばって行き1つ7~8人で小さな円を作り、1人がバゲットを配って行く。配られたバゲットを円の中心に向かって互いに交差させていき、交差した部分を上へ上へと上げていき、円は互いに腕が触れるぐらいに小さくなる。曲のキッカケで円は広がり、連動して交差した部分は徐々に引き下げられて最後には床へと消えていく。それぞれがバゲットの端を持ち自分の右側へ優しく床をなでながら開いていくと隣のメンバーの左側へとちょうど先端がたどり着き、メンバーたちが端を持ちバゲットで繋がれた大きな円が現れる。
 メンバーそれぞれは隣り合うメンバーから伝わる微細な動きを、自身の体を通して両手に持つバゲットを通じて左右のメンバーへと伝えていく。初めは繊細に他者の動きを感じ受け入れて再び伝えることに集中する。この時私はバゲットを動かす感覚は自分自身が意識的に動かしている感覚よりは伝わってきた動きによって自身の体が動かされて生まれた動きが他者と影響し合い円全体の動きが生まれていくように感じた。
 円の動きは曲の盛り上がりと共に大きな動きも生まれていき全体へと広がっていった。円は繋がったまま、新たな動き、多様な形が生まれて行った。更に曲のキッカケが訪れると円は移動を始めた。講堂には大きな3つの円が存在し、それぞれの円が場所を移動すると空間に変化を与え、影響を受けた円たちは更に予想も出来ない動き、形を生んみ空間に変化を与え続けた。
 講堂、3つの円たちが互いに影響し合う空間。差し込んだ明かりがバゲットを輝かせ、光の線が空間を行き交う幻想的な瞬間が幾度も訪れていた。更に3つの円たちはPINK FREUDの曲に合わせて激しく他者に影響を与え続けていた。やがて曲が静まると共に3つの円たちは静かに静止し数秒間の無音、静止が続いた。唐突に明かりがつき、同時に全てのバゲットはダンサーの指から解き放たれ床へと落ちていった。

撮影:溝口奈央
撮影:溝口奈央

 
 ダンサーたちは床に落ちたバゲットをゆっくりと拾い上げ各自、体の一部分でヤジロベエのようにバゲットのバランスを取りながら舞台端へと去って行く。
 この時バゲットの1つが偶然にも床に落ちずに私の肩に乗っていた。ものであるバゲットは自らは動けない。でも私は空気の流れ、自らの鼓動や呼吸などからの振動、重力がバゲットに動きを与えたように感じた。
 私はバゲットの動きを受け入れて動こうとバゲットに動きを委ねてみた。生まれた体の動きは自分自身が意図的に動かしたものではなく、動かされた意識の方が強かった。動かされることで想像できない、体の形、動き、速さ、リズムが生まれていた。まるでバゲットと会話をしているような感覚に近いのかもしれない。自分が話したいことを1人で話しているわけではなく、相手の話したいことを聞いて新たに自分が話したいことが生まれて、会話が成立して心躍らすような瞬間に似ていると思った。心躍らす会話に夢中になっていると、気がつけば舞台端にたどり着いていた。この瞬間10日間に及ぶクリエイションクラスが幕を閉じた。

 私は今年の暑い夏(京都国際ダンスワークショップフェスティバル2015)のShowingクラスは失敗しても挑みたいと思っていた。普段おこなっている役者としての作品創りは、1年間で1つの作品を創るというペースで活動しているので、10日間という短期間で一定の形に仕上げることは可能なのかという挑戦だった。
 前年に続いての参加で自分自身、体で表現する、コミュニケーションするための言語というか、動きが少しは増えたように感じた。しかし例えば英語で単語を少し知ったからといって会話ができないように、会話で言うところの流れが”ぷつん””ぷつん”と途切れていることに気がついた。話したいけど話せないような悔しさが湧いた。この経験が新たな思い出として自らが歩んで来た道に刻まれた。そう今回のShowingの中にあった直線は、人生を表していたのだと私はやはり実感した。人生において様々な人との出会いがあり、コミュニケーションが交わされ思い出となって人生を彩っていくのではないだろうか。
 今年の暑い夏のテーマである”Passing Through”とも私の中で繋がりが見えてきたように感じる。暑い夏は様々な人生歩んで来た人達が世代、年代、性別、国籍、地域、立場を越えて出会いコミュニケーションをし交差して、互いに影響を与え合う時間と空間なのではないだろうか。フェスが幕を下ろすと再び皆はそれぞれの歩む道へと帰って行く。そう、先が見えない歩みは続いていくのだ。でも再び訪れられる、時間と空間として今後も暑い夏が続いていくように願っている。

 

prof_ericエリック・ラムルー (フランス/カーン)ERIC LAMOUREUX   カーン国立振付センター芸術監督。カンパニー ファトゥミラムルーをエラ・ファトゥミと主宰。た身体能力に裏付けられた大胆なムーヴメントと、高い音楽性に支えられたロマンティシズム、実験精 神に富んだオリジナリティーの高い振付で、’ 90 年 バニョレ振付家コンクールをはじめ 、アヴィニヨン 演劇祭、リヨンビエンナーレなどで注目を浴びる。 ’99 年フランス政府派遣アーティストとしてヴィラ 九条山に滞在。「芸術祭典・京(」‘99)「コーチング・ プロジェクト(」’04 京都芸術センター)の他、本フェ スティバルでオーディションを行った日、仏、コンゴ 3カ国共同製作作品『just to dance』など日本にも 縁が深い。フェスティバルやレジデンス活動を通じ て、アフリカやアジアの若手育成も行っている。(KIDFホームページより)CCN de CAEN http://www.ccncbn.com/

1_ys下野優希(しもの・ゆうき)劇研アクターズラボ公演クラスで初舞台を踏む。その後「アクターズラボ+正直者の会」に参加。その間、体からの演技に興味を持ち、2010年より京都の暑い夏事務局主催の定期コンタクト・レッスン受講中、暑い夏は今年で5年目。現在京都の「正直者の会.lab」で活動中。http://syoujikimononokai-lab.jimdo.com/

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