2018年07月9日

〈C-1:チョン・ヨンドゥ〉見学&インタビュー

 見学日5/5

チョンさんのクラスに見学に伺ったのは、ショーイングが予定される最終日の前日でした。 私はそれまで別のクラスに参加していたため、着替えに行く時に何度もチョンさんクラスの部屋の前を通りました。そしたら、何度も廊下で疲労感があふれる受講者たちの姿を目撃しました。「かなりハードなワークショップのようだな」と思い、その内容が無性に気になっていました。 翌日のショーイングのために、今日はどのようなワークを用意されるかを楽しみにして、チョンさんクラスの部屋にお邪魔しました。

この日のワークショップは、「リズムの共有」から始まりました。伝言ゲームのようなワークを通して、自分のリズムを人に教えたり、人の動きを見て鼻歌でリズムを作ったりして、一つの輪で同じリズムで動くことを試みました。 チョンさんによると、このようなワークは原始的なダンスの形を研究する実験です。古典的なダンスは、リズムが必須です。ダンサーは、動きだけではなく、動きから読み解くリズムを大事にしなければならないと。リズムをつくることによって、力のコントロールもできるようになる。そうすると、動きに抑揚ができ、他人とリズムを共有することもできると、チョンさんが受講者のみんなに向けて自分のダンス哲学を述べました。 さらに、動きには雰囲気があり、気分と感情があると、チョンさんは言いました。ダンサーは、形にひそむ内面を感じて自分のものにすること、そして、動きをもって人に自分の歴史を見せること、どちらも大事だと。

次に、チョンさんは、一冊の本を取り出し、作品の基となったストーリーをもう一度受講者に紹介しました。本に書かれた国境を超える労働者のストーリーに加え、チョンさん自身のリサーチでの発見も。リサーチから作品づくりに移る際に、説明できない動きを想像で膨らませる重要性を強調しました。

身体を動かすだけでなく、作品に関する思考を大事にするチョンさんのクラス。翌日のショーイングを楽しみにしがなら、受講者とチョンさんからお話を伺いました。

(撮影:周 思敏)

◆受講者インタビュー
(二組になって、計5名にインタビューに答えてもらいました)
Q1. チョンさんのクラスを受講しようと思った理由は?
A: たまたまの機会でチョンさんの作品を観て、チョンさんの振り付けを踊ってみたいと思って、今回はこのクラスを選びました。
B: 私は単にショーイングに出ることを目指して、(作品を)作っていく作業に参加したくて、このクラスにしました。
C: 私は大学で、ヨンドゥ先生のゼミ生です。このワークショップは初めて参加したんですけど、先生の振り付けがすごく好きなので、このクラスにしました。
D: ワークショップの進行時間が一番長いからです。いっぱい練習して、テクニックを身につけたいからです。
E: (作品の)コンセプトにすごく惹かれたからです。元々大学で演劇をやっていて、コンセプトがしっかりしていた作品に参加したかったです。そういうクリエイションの場に入ってみたいなと思って、このクラスを受講することにしました。

Q2. このクラスで一番印象的なことは?
A: 私たちにできそうなことをやるっていう感じじゃないな、ということかな(笑)。
B: 無茶なことが多いですね。
A: この子たちはこれぐらいだろうという、定められた感じはなかったですね。実はこれでもだいぶレベルを下げてくれたと思いますけど、それでも私たちにとってはすごいハイレベルですから……
B: 体育会系ですね(笑)。
E: (チョンさんが)何度も何度も細かいところを繰り返すことですね。
C: 私は、今まで習ってきたことをクラスで振り返ることで、チョンさんの作品をより深く理解できたと思います。みんながチョンさんのパワーに負けないように頑張っている姿がとても印象的です。
D: 痛いことが印象的です(笑)。同じ動きをずっと繰り返すこともあるので、足の同じ部分がずっと摩擦されて、とても痛いです。
C: 特に二曲目は、動きが速くて激しく、体を投げ出すような動きもあって、体力が奪われますね。

Q3. 明日のショーイングで楽しみにしていることは?
A: えええ~楽しみ?!
B: どうか間違いませんようにとしか思ってないですね!今でもまだ合わなかったりしますから。
A: 楽しみにできないです(泣)。

Q4. 言い換えると、明日のショーイングで気を付けたいことは?
A: きょどらないこと。
B: 間違えても間違いないようにすること。
C: 振り付けに追われないで、先生の言っていたリズムとか、みんなのリズムに乗れるようにできればいいなと思います。
E: たぶん、いや、ぜったいテンションがあがってしまうから、そことのバランスというか、魅せることと落ち着くことを大事にして、自分を信じたいです。
D: 集中することを大事にしたいです。

(撮影:周 思敏)

◆チョンさんインタビュー
Q1. 今年のテーマとコンセプトは?
答:チラシに書いてあるように、70年代の南ヨーロッパの労働者のドキュメンタリー本を基にした作品です。2012年に作った作品のレパートリーです。もちろん、昔とまったく同じものを使うのではなく、半分ぐらい変えました。(参加者が自らリサーチをして、自分たちで動きを作って、新しい構成にする作業をしました。 作品を通して、焦点をあてたいことが二つあります。一つは、人間はなぜ移住をするのか。それが自然なのか、自然ではないのか。もちろん自然なこともありますけど、戦争や経済など、やむを得ない事情もあるでしょう。その移住労働者たちのストーリーを深掘りしたいです。 もう一つは、その労働者たちの身体です。人体工学は、人間のために機械をつくるように研究をしている。工場の中の機械は、技術の発達につれ、だんだん使いやすくなっていきますが、実は使いやすい機械で大量生産を求めることは労働力をどんどん搾取することにもつながります。人間のためというよりは、お金、経済、資本主義のための人体工学です。

Q2. この作品を日本のワークショップでやるのと、最初に韓国で公演する時に違いは?
答:韓国の時は、半分以上が私の知り合いで、しかも全部プロのダンサーでした。今回は、ぜんぜん知らない方も多く、プロダンサーの割合もすくないので、動きに慣れるまで少し時間がかかりました。オリジナルの動きができない方も多いです。そして、空気、呼吸の重さはまだ共有できていない感じがします。 今日のリズムのワークなどを経て、最初よりはだいぶよくなりました。

Q3. ダンスワークショップフェスティバルには何回目のご参加ですか?
答:もうわからないです。8、9回目?

Q4. なにか変化を感じましたか?
答:やっぱり世代が変わった。新しい人が多いです。今年はニューフェイスが増えましたね。毎年違いますけどね。

Q5. 振り付けの中で、出演者の近い距離感は元々の作品と変わりがないですか?
答:そうですね。場所が狭いということもありますけど。特に、終盤に近い部分は、狭いことがとても大事です。ダンサー同士がぶつかっても、狭い場所でぎゅっと集まるほうがいいです。

Q6. 最後の場面は、チャーリー・チャップリンの映画を観るような感じもしますね。
答:そうそうそう。本当にそうです。二曲目の場面は、考えずに身体が動き出すように、本当に「モダン・タイムズ」のように、ずっとこうやっていたから、考えずに動いてしまうような、そのシーンですね。

(撮影:菱川裕子)

 

チョン・ヨンドゥ(韓国/ソウル)
JUNG YOUNG-DOO(South Korea/Seoul)

Doo Dance Theater 主宰。俳優としての活動を経て、韓国芸術総合学院で舞踊を学ぶ。2004年の「横浜ダンスコレクション・ソロ&デュオコンペティション」にて「横浜文化財団大賞」「駐日フランス大使館特別賞」を受賞。西洋的で高度なダンスメソッドと明確なコンセプトを併せ持つ中に、東洋的に抑制された繊細な動きを加えることで、新たな時間と空間を創造している。マレビトの会や青森県立美術館「祝/言」への出演、福岡での共同製作作品『baram 033°37’22”N 130°25’31”E』(2013)、『カラスとカササギ』、Dance New Air2014「Project Pinwheel」『報復』(2014)、横浜ダンスコレクション2016 のオープニングプログラム『無・音・花』の振付など、日本でも多くの支持を集める。

周 思敏(しゅう すみん)

「訳者(communicator)」と自称している。本業は、博物館に訪れる異文化背景の観覧者のために日本美術と文化歴史を紹介することだが、同時に、多様な表現方法とコミュニケーション法を実験している。「暑い夏」に興味を持つようになったのも、ダンスを通じて、言葉だけに頼らないコミュニケーション法を探るためであった。

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