最初に言わなければならないことは、トムのワークショップの後に、これをやってみて、という課題がでたわけでもなく、ましてや、トム個人からこれやってみれば、なんて言われたわけでもない。全然そういうことじゃなくて、トムがワークの間にいった「ひとつの課題」が、僕の探究心に火をつけ、知りたい、知りたい！！と僕の知的好奇心を爆発させたので、いてもたってもいられなくなって、自主的にお家でやってみたので、それについて、今回は書きたいと思ったのだ。
　さて、その一言というのが、これだ。「どこか４点を使って、体を支えて！」
この発言はStructive Imagination（構成的な想像力）というワークのなかでのものである。床に寝転がって、体から砂を落とさないようにイメージをしながら徐々に体を解放していく。それをまるで生物の進化の過程のように、徐々に大きく、高く、体を動かしていくのである。

　
　さて、この指示を聞いたとき、僕は手や足や肘とか頭とかで体を支えていた。しかし、どうだろう、まわりの人々は腰骨のあたりであったり、肩甲骨のちょっと下であったり名前のないような体の部位を繊細につかっているのである。すごい。なるほど、そうか。僕の知らない部分が僕の体にはまだいっぱいあるんだ。そして、指示が聞こえる。もっと体のいろんな場所を探して！
　というわけで、一目散にお家に帰り、その熱い興奮に身を任せて、もう一度実際にやってみた。
　探してみるとたしかに、「腕」という場所だけでもかなりの支えられる部位が存在するし、あれ、手を交差させても良いのかとか、足は交差させると辛い、なんてことが分かり、とても楽しく続けていたんだけど、しばらくすると、全然思いつかなくなる。頭の中がごちゃごちゃしてくる。さきに進まない。あれ、なんで？次の日もやってみるが、あまりしっくりこない。なんでだろう？でも、別の日のアビのワークショップを受けている時に、えっと、このときは床に寝転がって、お腹を液体のように動かしている時に、急に、全然関係ないのに、見つかったりする。膝の外側のあたり。なんでかなあ。
　まあ、でも、そういうのって、偶々なのかなあ、なんて思いつつ、執筆のためにとっていたトムのワークショップのメモを読んでいて、そうか、これって、想像力のワークなのかと思う。ふと、トムの言葉を思い出す。「体から砂を落とさないように。」
　ああ、そうか。イメージ、想像力が大事なんだ。なんで砂や海をイメージするのだろうと若干疑問に思っていたけれど、踊るとき、特に体の感覚を掘り下げていく時って、その時の心の状態ってのが大事なんだってことに気づいた。
というわけで、早速僕は森にでかけてみた。もちろん想像の中だけれど。そうすると、地面が木の葉で敷き詰められているから、手、足、背中なんかが地面にあたる時の感触がちがう。動きもかわってきた。同じ部位を地面につけることでも、移行の仕方が全然違う。おお、すごい。なるほど。
　そうやって、お家で何回か課題をやるうちに、僕の「知らない」体の部分を僕は「知ること」ができた。大きな達成感を得たのだった。ありがとう、トム。トムのワークショップは、いくつかの部門（ウォームアップ、テクニカル、プレイ）にわかれて、緻密に構成されていて、１回だけじゃ物足りない。もっともっと知りたい、踊ってみたいと興味を掻き立てられた。よし、僕の体の知らない部分を、また探してみよう。

トム・ヴェクスレール（イスラエル / ハイファ）TOM WEKSLER 　野生的だが抑制の良くきいたフロアワークが魅力 のイスラエル新鋭のダンサー・コレオグラファー。 幼 少 の 頃 か ら カ ポ エ イ ラ 、武 道 、様 々 な ア ク ロ バ テ ィ ッ ク の 分 野 を 経 て 、 ダ ン ス を 始 め る 。’ 1 0 年 か ら インバル・ピント・ダンスカンパニーに所属、世 界中の多くの劇場やフェスティバルに参加。’ 14 年 退団後Jozef Fruek and Linda Kapetneaによる『R ootressroot』と『DOT504』という新作に参加。また WS 講師としてロンドンやアムステルダムなどに招 待され各国で定員オーバーになるほどの話題を呼 び今後もカリフォルニア、メキシコなど世界中での WS を予定している。
http://youtu.be/E5tXV77t0pk
http://youtu.be/yiDd3t5gEc4
（KIDFホームページより）

中西一史（なかにし・かずふみ）普通の京大理学部６年生。Juggling Unit ピントクルに所属。舞台でジャグリングをする。芸名は中西みみず。お笑いとか、ホラー映画とか、卵を使った料理とか、好き。大好き。今回のワークショップで、ダンスにはまりつつあります。