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【暑い夏12】講師インタビュー Vol. 24 ノアム・カルメリ

2012年08月1日

聞き手:翻訳・インタビュー構成:小林三悠

撮影:秋山義太郎

prof_noamノアム・カルメリ NOAM CARMELI (イスラエル/テルアビブ)

コンタクト・インプロヴァイザー、武術家(合気道)、ボディーワーカー、そして建築家としても活動している。イスラエルの即興グループ“Oktet ” の創設メンバーで、北アイルランド“Echo Echo dancecompany” でも踊る他、ヨーロッパでの活動も精力的に行っている。現在イスラエルのCI アソシエーションの総監督、及びイスラエルコンタクト・インプロヴィゼーションフェスティバルのオーガナイザーを務める。CI、合気道、GAGA を学び続けるなか、ムーブメントの探求と融合、そしてコミュニティーの形成に積極的に臨んでいる。

「ボディケアとパフォーマンス」のボーダーライン

小林(以下、K):今回のCatching Waveというクラスタイトルにもなっている波のアイディアというのは、どこから来たのですか?

ノアム(以下、N)イラン・レヴ・メソッドや合気道から来ています。イラン・レヴでの”揺れる”や”揺らす”という感覚、合気道での”合わせ(エナジーに沿う)”の感覚をさらにシンプルにした時、まるで波に乗るような感覚になると自分では思っています。

合気道でいう技の中で起きる相手の動きとの協調性です。たとえば、相手が来たときにそのエナジーを捉えたり(catch)、相手の動きと自分の動きを混ぜていく作業というのがコンタクトの練習にも共通する部分です。それが、自然現象の波のようなもので、その原理をもっとクリアにお伝えするためにこのタイトルを付けました。

K:私はコンタクトは初心者ですが、受講中にノアムさんがよく言われる「波に乗れ」「波を感じるまで待て」という表現が気になりました。確かに相手の波を感じることを練習するうちに、どの波にどのタイミングでのると楽にキャッチできるのか、感じることが可能になりました。しかしその後、稽古を進めていくうちに興味を持ち始めたアイディアが、自分も相手に対して波を作るという作業が必要なのでは?ということです。

N:いい質問ですね。どこから、波が来るのか?どこから、動きが作られるのか?という質問ですよね。動き自体が、どこから来るかというのは・・・いや、実際は全ては、動き続け止まることがないのです。重力というもの自体が動きの基盤と考えます。その動きにどうやって自分自身を沿わせていくか。床を押すことでどう重力に結合するか。重力が動きを生むエネルギーの原点なのではないかと思います。ただ、日常生活では、重力に気づいたり、感じたりするという事がありませんから、その感じていない重力に沿わせる、結合するという感覚を習得するまでに時間がかかるのかもしれません。

K:初心者の生徒たちに向けて、波の捉え方、作り方等のアドバイスをお願いできますか。

N:先ずは、練習を続けることです。そして、リリースするという感覚を磨いてほしいと思います。日常では、何かを維持しようと努力したり、これが欲しいと握りしめたりといったリリースとは真逆の行為である“保つ”という行為が多く思えます。それらの感覚をいかに解放するか。という事が波を作ることも波をつかまえる上でも重要になるのです。

K:それは、ちょっとおもしろい見解ですね。“解放の練習“という言葉を聞いて今思いついたのは、人との言葉を通したコミュニケーションでした。特に日本では、自分自身の意見や想いを周囲の人の目を気にせずに伝えるということをあまり好まないように感じます。言葉を動きに当てはめられるかどうかはわかりませんが、自分の感覚を相手にリリースすることがもっと素直にできたら相手の言葉も感じやすいのかもしれないなと考えさせられました。

 何か、言葉も動きも応答能力(response-ability)をもって解放するという思考回路を作っておくことが、いかなる表現媒体でも大切なのかな〜。
こういった、コンタクトをコミュニケーション力アップの稽古の一つだと考えると面白いですね。何か、そういった視点で現在ノアムさんが取り組まれている活動や将来的に行ってみたいプロジェクトなどありますか。

N:はい。大きな視点から言えば、稽古で得られた感覚をダンススタジオの中のみのこととはせず、別の環境で物事に接する際も大事にして欲しい。このことは常日頃から伝えていきたいと思っています。

単純に自分自身が社会や都心で暮らしている際に、コンタクトの稽古から習得した“柔らかい物腰でいる” “互いに親切にしあうこと” “リリース”することで社会や都心で暮らす際でも利益を得ることが多くなります。ソフトになったりリリースし続けるという事は、言い換えると自分自身がよりさらけ出された状態に置かれるという事です。外からの刺激に対してより影響を受けやすい状態ともいえますし、あらゆるリスクも高くなるといえるでしょう。でも、そこで自分を完全に防御する体勢に入るのではなく、まわりはソフトなままいかに中心軸をいかに保っておくかというバランスが大切なのであるように思えます。

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「パフォーマンスとボディーケアの境界線は、あるのか?」

K:こういった感覚というのは、コンタクトの稽古からのみ得たのではなく、イラン・レヴ・テクニックからももちろん得られたもののように感じられますが、いつもセラピストとして活動されてきたのですか。

N:私は、パフォーマーであり、インストラクターであり、セラピストでした。今は、指導者とセラピストの活動が大半を占めます。今は、パフォーマンスをこれといって差し迫ってする必要に駆られていません。活動に向けるウエイトは、いつも移行しています。もっと、指導者よりの時もあるし、指導することよりもパフォーマーとしてダンスをすることが多くなったりといった調子です。

K:私は、自分自身パフォーマーですし、フェルデンクライスというアプローチをベースにしたボディーワーカとしても活動しているので、同じような状況にいらっしゃるノアムさんに是非来てみたかったことがあります。それは、パフォーマンスと体をケアするということの境界線についてです。どちらも自分自身を全うするために応答能力をもって行われる行為だと思うのですが行為の根源というものは、二つとも同じ所からきているのか、それとも似て非なるものと言い切れるのか。ノアムさんは、ご自身がパフォーマンスしているとき、ボディーワークを施しているときの精神的、肉体的な境地、なんというかモードは、同じところにあると思いますか。

N:この二つの境地に、もうひとつ指導するという要素もいれて話を進めたいと思います。

先ず、それぞれの行為の質は、当然変わってきます。ぼく自身、パフォーマンスするときは、困難に感じます。なぜなら、ボディーワークをしている際は、感じるという事を主体に行いますが、パフォーマンスのときには、それにつけ加え何かを伝えるという事が入ってくるからです。いかなる現場でも、その行為をコミュニケーションだと捉えるのなら、無理することや、力ずくで押し切るという事があってはならないのです。ボディーワークは、ここら辺で起こる(自分と相手のとの身の距離を指で示す)、コンタクト/パフォーマンスでは(自分、相手、空間を手で示す)ここで起こる、指導することは、自分1人対20人と空間で行われます。何に対して、どんな環境に向けて自分の情報を伝えようとしているのかによって行為の質感が変化してくるのだと思います。だから、同じものの異なったレベルで行われているもの。

K:私は、フェルデンクライス・アプローチをダンサーたちと行っているときに、気づいたことがあったんです。パフォーマンスもケアする境地も体に関わるといった基本は、同じ。ただ、私が作ろうとしている動きには、感情やモチベーションは含まれておらず、あくまでも、動きを使って自分が繋がりたいものとのアクセスを良くする方法を探しているのだと・・・。アプローチ中には、動き方の機能性を上げることに集中し、(ダンサーたちが)その機能性の高い動きを持ってパフォーマンスに臨めるチャンスを上げてほしいと願っています。

N:そうですね。ぼくのコンタクトのクラスでも、基本は、肉体的な機能性を上げることにフォーカスしています。その土台を使って、パフォーマンスの際には、ダンサーは動きに感情や物語性を付け加えていったらよいのではと考えています。ムーブメントというのは、とても肉体的なものだと思うんです。重力に関わる、エネルギーの流れを掴む等。

K:動きの上に感情や物語、イメージを加えたものがパフォーマンスということでしょうか。

N:そうですね。僕のクラスでは、肉体的な機能にフォーカスしているのであまり感情やイメージについては話さないし、治療においては、全く感情については触れないといってもいいかもしれないですね。

K:動きの発展の過程とでもいうのでしょうか。肉体レベルといった体育のようなプロセスの次に、感情レベルを加えたパフォーマンスという境地がある、、、興味深いアイディアです。

では、こういった動きについての理解度向上も含めダンサーには、ノアムさんからボディーワーカーになることをお勧めしますか。

N:ボディーワーカーになることは、必須とは考えませんが、絶対に勉強すべきものだと思います。あるボディーワークの実践者であることは、大切なことです。

私の周りにいる多くのダンサーが、ボディーワークのトレーにングを仕事にするためではなく、動きをより深く理解するために学んでいます。私自身もムーバー(mover動く人)として、動きの指導者として学び続けることで指導法や動き方に影響を受けていると感じています。

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K:では、最後に私がdance+インタビューで恒例にしている連想ゲーム式の質問をしたいと思います。次の語のあとに思い浮かんだ言葉をお聞かせください。踊ることは Dancing is ?

N:人生the life.

K:身体はBody is ?

N:銀河 a galaxy.

K:心は Mind is ?

N:複雑なものcomplex thing.

K:即興/コンタクトは Contact improvisation is ?

N:私の偉大な先生 great teacher.

K:ノアム先生、貴重な時間をありがとうございました。

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小林三悠(こばやし・みゆ)

2002年アメリカ留学中にBODY WEATHER LABORATORY(身体気象研究所)に出会う。その後、フェルデンクライス・メソッドに出会い、環境と身体の関係に興味を持つ。現在は、『身体とコミュニケーション』をテーマにしたフェルデンクライス・カフェ京都を主宰。ダンサー、演奏家、スポーツ選手、リハビリに関わる方、知的しょうがいや学習しょうがいを持つ方々と動きや身体表現のワークショップを企画。動きをきっかけによりよいコミュニケーションについて考える日々。

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