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【暑い夏12】「リリース・・・体も心も」

2012年06月2日

E ビギナークラス Beginner class

コンテンポラリー・ダンスって何? どんなことするの? そんな疑問に応える、毎年大好評の通称「サラダ・ボール・プログラム」。ダンスに興味ある方へのイントロダクション・クラスです。世界で活躍する講師による様々なスタイル、考え方のダンスに触れることができます。



prof_abigailアビゲイル・イェーガー ABIGAIL YAGER (台湾/台北)

アビーの小柄で知的な雰囲気とウィットに富んだムーブメントには誰もが魅了される。NY ポストモダンダンスを代表するトリシャ・ブラウン・ダンス・カンパニー(TBDC)にて’95 年~’02 年ダンサーと音楽アシスタントを務める。また、トリシャ作品の振付・再構成をリヨンオペラバレエなどの国際的なカンパニーで務める他、アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルの主宰するP.A.R.T.S.(ベルギー)や、アメリカンダンスフェスティバルなど、名だたるアカデミーで同様のプロジェクトをディレクションしてきた。また、韓国国立芸術大学、フランス国立振付センター(CCN)などワールドワイドに活躍している。

 ビギナークラス最終日はアビゲイル・イェーガーさん。

 まずはアビーさんが「参加者みんなの声が聞いてみたい」というので円になっての自己紹介から始まった。

 ビギナークラスでのアビーさんは、このフェスティバルに参加した講師の方から学んだことを少しずつ採り入れて、今回のクラスの中で共有しようと試みているかのように思われた。

 まずはノアムさんの床を押して体を揺らすワークを共有。体の中を「ウェーブ」が通るように調整、あるいは調律する作業。そこからアビーさんの「リリーステクニック」へと続くのだが、彼女のリリーステクニックも重心に対しての意識が強くて、ノアムさんのコンタクト・インプロヴィゼーションと共通点が多いように感じた。

 まず床を押しての両足からの動きを上半身、腕へと繋げてリリース。この時にアビーさんの動きを拝見していると体の中心ラインはしっかりと保持されて、それ以外の部分がリリースされているのだと気が付いた。その他のリリースでも中心のラインはぶれずにしっかりと保持されていた。この部分がもしかするとポイントなのかも知れない。

 リリースする、とは脱力することで、それは完全に床に寝そべって寝てしまえば目的を達せられる。しかし、動きを生むためのリリースは生まれた動きを次へと繋げなければ動けない。そこで体の中心ラインを保持することで、次への動きに体が反応しやすい状態にするのではないだろうか。私自身の役者の経験でも「脱力し必要な力で立っている状態」を常に意識していて、この状態をベースに芝居をすることを心掛けているが、この辺りはでダンスと共通点があるのではないかと思った。

撮影:下野優希
撮影:下野優希

 次に空間へ知覚と意識で「キューブ・ワーク」を行った。

まず自分の周りに立方体を思い描き、そのひつの面に対して4つの角とその中間と中心を合わせて9個の点があり、六方全ての面にそれらの点があると意識して動いて行くワークだった。まず、自分の六方に9個の点を意識するだけで動きのバリエーションが数多く生まれることに驚いた。これらの点に対して「体の一部が通過したり」「指をさしたり」「息を吹きかけたり」「触れてみたり」と様々な働き掛けができると気付かされ、さらに動きのバリエーションが無限に広がるイメージを持った。

 でもこれらの「無限の広がり」がただ完全な自由な状態に陥ることはない。それは、空間に「点」の存在を意識して動くことで、自分が何を意識して動いたか、自分の体がどのように変化し動きが生まれたかを、自分自身で確認しやすいからではないだろうか。

 やがて、キューブの意識が薄れていき、他の参加者や他の場所にも意識が向けられて全体を感じながら動き続けた。時には1人で再びキューブの点を意識した動きをしてみたり、何か感じる参加者の動きや動きから生まれた状況を感じたら、その動きにリンクして動くなど様々な動きの可能性が生まれていた。と同時に、私自身も動きが自由になって、他の参加者やその人の動き、そして動きが生まれた状況に反応できていた。

 なぜこういった可能性が生まれたのか少し考えてみると、ひとつには体自体がリリースされて動きやすい状態だったからと、もうひとつは呼吸の状態が関係していたのではないかと思う。ワークでの呼吸は、息を詰めずにスムーズに行われ、かつ少し息が上がった状態の呼吸ができていた。それは感覚を開いて自分と他者を感じるのに適している呼吸の状態に似ている。こういった呼吸をすれば、感覚が開かれ上手く動けるとは、芝居での経験からわかったことだ。

 別の言い方をすると、呼吸を通じて自らの体の状態に気が付けるのではないだろうか。呼吸がスムーズに行える状態は、上半身に余分な力が入らず程良く脱力された状態だと気が付け、息が上がった状態は興奮した状態と冷静な状態が程良くバランスが取れ、集中しやすい状態であると気が付けるのではないか。

 このように呼吸と体の状態が相関関係にあるのだとしたら、今回脱力を目指し、体を動かすワークを経て、自然と体の状態と呼吸が同時に調整されていったのではないかと私は察している。最終的にクラスの受講を終える頃には、体も心もリリースされた状態になっていたのではないだろうかと思う。

撮影:下野優希
撮影:下野優希

(2012年5月5日参加)

下野優希(しもの・ゆうき)

2008年劇研アクターズラボ、公演クラスに参加し初舞台を踏む。その後「アクターズラボ+正直者の会」に参加し3作品に出演。その間、体からの演技に興味を持ち、2010年より京都の暑い夏事務局主催の定期コンタクト・レッスン受講中、その他に京都国際ダンスワークショップフェスティバル、CIMJを受講。現在は「正直者の会.lab」の企画に参加中。

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