【暑い夏11】ダイアローグ 室伏鴻 × チョン・ヨンドゥ
2011年07月31日
通訳・翻訳・インタビュー編集:高山祥子・中村まや 翻訳補佐:ケイトリン・クーカー 通訳補助:ベ・スヒョン
室伏鴻 むろぶし・こう (日本/東京) 舞踏における身体のエッジを模索する稀有な存在として、熱い注目を集めている。’69年土方巽に師事、’72年「大駱駝艦」の旗揚げに参加。’78年パリで「最後の楽園―彼方の門」を公演し、舞踏が世界のBUTOHとして認知されるきっかけとなる。’00年から『Edge』シリーズで欧・南米を中心に意欲的に活動。’03年Ko&Edge Co.を立ち上げ『美貌の青空』を発表、新しい舞踏を切り拓く作品として多くの批評家から絶賛を浴びる。 ’06年ヴェネチア・ビエンナーレにて「quick silver」を上演。IMPULSE TANZ(ウィーン)やアンジェ国立振付センターなど指導者としても世界各地で活躍している。
JUNG YOUNG-DOO チョン・ヨンドゥ (韓国/ソウル) 西洋的で高度なダンスメソッドと明確なコンセプトを併せ持つと同時に、東洋的に抑制された繊細な動きが彼の才能を裏付けている。Doo Dance Theater主宰。韓国新進気鋭の振付家である。韓国を拠点に世界各地で活躍する。’04年にはリトル・アジア・ネットワークでアジア各地を巡回。韓国でも多くの賞に輝く他、「横浜ダンスコレクション・ソロ&デュオコンペティション」にて、「横浜文化財団大賞」ならびに「駐日フランス大使館特別賞」を受賞、フランス国立トゥルーズ振付センターにて研修する。「踊りにいくぜ!」(’08年)『Hiroshima-Happchon』(’10年 松田正隆構成・演出)など来日多数。
「暑い夏」ではリピーターの多い人気講師の室伏氏とチョン氏。生まれた国や世代は違えど、ワールドワイドに活動しているダンサーであるお二人に、対談をお願いしました。ちなみにチョン氏は、室伏氏のワークショップをフランスで受けたことがあるそうですが、お互いに話すのは今回が初めて。さらに母国語の安定圏の外部で、ディスコミュニケーションやミスコミュニケーションもまた豊かと思える時間を紡ぎ出してくれました。この時間がどういうかたちだと伝わるだろう? と、編集会議の末、日本語はダイジェスト版にとどめ、映像をフルで掲載することにしました。 英語スクリプトはコチラ>>> お話は、まずは日韓ということで、編集チームから出した”東アジア”というキーワードから始めてもらい、締めくくりにダンサーやダンスに関わる人たちにメッセージをいただきました。
参照 2008年の室伏鴻インタビュー 2006年のチョン・ヨンドゥ アンケート
日 本 語 版 ダ イ ジ ェ ス ト
◆ 東アジア? 室伏:私は土方巽という人に出会って、踊りをはじめた。そして、70年代からヨーロッパに行き、とても考え方が変化していったわけです。なので、私もこれまでに韓国、中国、インド、タイ、フィリピンなどアジア諸国は訪れているけれど、今、実際に何か起こっているのか状況はわかりません。東アジアっていう問題は、むしろチョンさんなんかの方がよく知っているのではないかと思います。 チョン:私もそれほど知っているわけではありません。もちろん、韓国やアジアの文化に対しての理解はいくらかありますよ。ただ、作品を作る上でアジアの人で韓国人であるということは、あまり考えないようにしています。それは、自分が、韓国人であってアジア人であると思って作品を創ると、そこにこだわってしまうからです。しかし、自分は韓国出身で、アジア人として、どんな影響を伝えることになるか、ということについては意識して作品を創っています。 不思議なのは、ヨーロッパなどに行くと、西洋の方がむしろ東洋的なことをしていたりします。同じ様に、私は、韓国という伝統的なところより、西洋の影響を受けることが多いです。 私はこどもの時、アジア人と西洋人の違いは何か、ということを考えていました。でも、今は逆に、何が似ているかということを考えています。 ◆ 自分のダンスとは? 〜動けなくなった時〜 チョン:自分が何者か、ということに、私は悩んできました。自分を知らないと踊りが生まれないと思うので、自分を知ろうと、探そうとしています。 10年前に、自分が何者かが解らなくて、全く踊れなくなったことがありました。今思えば、学校で西洋文化などを学び、頭が混乱して、思考停止してしまったのではないかと思います。私は自分にどういう影響が西洋文化から与えられたかを考えました。 踊りながら考えるんです。それで、踊るのが難しくなってしまった。この動きはどこから来たのか? この踊りは私の踊りか? これは西洋文化の踊りかもしれない・・・。これは、どこかで観た踊りかもしれない・・・。一体、私の踊りは何なんだ? と、思って、止まってしまいました。
室伏:止まったままの踊りはしなかったの? 「突っ立ったままの死体」という言葉を知っていますか? 舞踏が持っている、問題性っていうのかな、主題、テーマですかね。それは、今チョンさんが喋った状況とすごく似ています。 日本には、伝統的、日本的な身体の動かし方があり、且つ西洋的な影響があった。そして、その中で日本は戦争がありました。韓国にも悪いことをしたし、中国にもやったでしょ? そういうものの後に、どっちにも行けなくなっちゃった身体だと思うんですけど。 突っ立ったままの死体っていうのは、伝統の方にもいけないし、その、西洋からの影響の方にもいけない。けれど日本は負けちゃったから、二本足で立とうとしても立てない。それを死体と言ったんです。だけど、突っ立ったままの死体っていうのは、踊らないでしょ? でも、その死体で踊るぞといったのが土方さんだったの。 土方巽が舞踏としたのは、「突っ立っている死体」なんだよね、それはあなたの問題の状況ととてもよく似ている。伝統とヨーロッパからの影響、それはとても興味深いね。 ◆ 西洋の影響 室伏:私は西洋の影響がなぜ韓国や日本にこれほどまでに強く出てくるのか、わからない。これはとてもとても政治的なことだと思っている。いつも日本を政治的な側面から、文化的な側面から考え続けている。文化は常に政治につながっているからね。 もし、私が政治的な闘争者であったとしたら、80年代も90年代も日本に住んでいただろう。しかし、私は「バイバイ」と言いさって、渡欧したわけです。けれど、自分の政治的な身体のことは考え続けてきたのです。 チョン:韓国の文化とコンテンポラリーアートの現在は西洋の資本主義的な金の力にとても影響を受けています。アーティストは政治的な活動家ではありませんが、政治に働きかけている面はあると思います。身体を使い、文化性の政治化と戦っています。 私はどうやったら世界に向けて、国家に向けて、自分の踊りをつかって働きかけ、闘うことができるのか、と考えています。 ◆ 日韓、ダンスの違い チョン:あまりハッキリとしたことは言えませんが、日本のコンテンポラリーダンスを観て思うのは、即興性(インプロビゼーション)が多い気がします。あくまでも私にとってですが、感情的で情熱的すぎる面があります。韓国とは反対ですね。 これは、教育の違いからだと思います。韓国には大学やダンスを教える教育機関が数多くあり、多くの外国人講師を招聘しています。だから、韓国は技術を学ぶ環境が良く、身体は、どうやって身体でデザインするかを知っています、デザイン性があります。けれど、内にある情熱や感情が見えない、と私は思います。 日本では情熱や感情を多くみることができますね。どうやったらそんなに?と、感動します。多分、韓国に、私たちに必要な部分でしょうね。日本では、多分、その心をどうやったら舞台上に組み入れていくのかが解らないのかも知れません。 日本人アーティストは沢山話すし、コンセプトや意味を沢山盛り込みますね。けれど、ダンサーと空間、距離、時間の間にある関係性が、何をどう構築し、際立たせ、ラインを崩していくかをわかってないですね。
◆ アウトサイダー、そして舞踏 チョン:室伏さんは、日本とヨーロッパの間でどんな発見をしましたか? 室伏:私は自分が何者であるかは考えなかった、けれど、全くもってアウトサイダーだと、あるいは、日本人では無いと感じていた。私が特定の文化の一員となることも、政治的な動きの1つとなることも好まないからね。しかし、踊り、踊っている時は完全に独立していて、身体は私自身に繋がっているんだ、と感じれるんだ。 しかし、ここで大きな問いが私に向かってくる。 身体は私の両親からもらった生まれたものだし、私は歴史的な物語を考え、そしてそれを気にかけたいとも思っている。しかしこの身体は常に他者であり、常に、既に未来へと向かっている。私は日本人だと思っている、しかし、それは既に過去のことだ。 私の身体は過去であり未来でもある。 舞踏の歴史を語るとしよう・・・土方巽は、“異物である”ということから始めた。私もこの考え方を受け入れている。土方は彼独自のスタイルを確立しようと試みた。しかし、土方の後継者たち(私もその世代だが)、彼ら彼女らは、土方のスタイルを信じきり、習ったことや土方のスタイルを真似しているだけだ。舞踏はステレオタイプとなってしまった。
◆ ダンスのDNA チョン:私は普段は、自分が韓国人であるとか、男であるとか、年齢だとかは気にしません。でも、他の国から来た人たちは、わたしのアイデンティティを尋ねてきます、それで、自分が何者か、どこから来たのか? と考え直すのです。 動くことができないとき、ゆっくりゆっくりと「ああ、この動きは既に自分の一部となっているんだ、これは私自身なのだ」と、受け入れていきます。この形は西洋からきたものだ、けれど、自分の一部となっている。恐らく、引き離すことはできないもの。だから、私はそれを受け入れます。それより私にとってもっと重要なことは、このテクニックをどうやって使うのか、どうやって自分自身のテクニックに変化させるか、ということです。 海外にいくと、“あなたはアジア人だ。だからアジアのことを教えてくれ”と言われることがあります。それで、私はアジア人、韓国人で、田舎で育ち、私の家族、私の家族がもたらしたもの・・・と考えはじめます。恐らく、それはDNAのことなのでしょう。 私は韓国の歴史や韓国料理、環境といったDNAを引き継ぎ、影響を受けています。そして外国からの教育も私に影響を与えています。 ◆ コンテンポラリーダンスとテクノロジー チョン:なぜアーティストの歴史とテクノロジーの歴史はこうも違うのかと思います。多くの批評や多くのコンテンポラリーダンスはモダンダンスよりも良しとされていて、モダンはロマン主義のダンスよりも良しとされて、ロマン主義はクラシックダンスよりも良しとされている。この事は特に批評やジャーナリズムの側で起こっています。 私はそうは思いません。科学とテクノロジーは別ですね。20世紀のそれは19世紀よりもより良いものであったし、19世紀は18世紀よりも。しかし、今、多くの人は混乱しているのはないでしょうか? 今の芸術が過去のアートよりもただ良いものだとは限りません。コンテンポラリーダンスがモダンダンスよりも良いと思わないけれど、テクノロジーや科学は違うということです。私はいまでもモダンダンスやモダンミュージックを楽しみますし、クラシック音楽もダンスもね。それは趣向や質によると思うのです。 ◆ 未来へ向けて 室伏:私はどんなシステムにも、イデオロギーにも所属したくない。しかし、アーティストのビジョンや闘争とは何か、このことについて話したかったんだな。自分の身体の言語を使った政治的な闘争は終わりがない。 自分の人生が終わるまで、私はファイターであり続けていると思う。これが、日本の若いダンサーや学んでいる人たちへのメッセージだな。 ぜひ、日本と闘ってください。今、日本の若い世代や全国民が大震災の惨事のことで東北へ行きたがっているね、彼らは“1つの日本”になろうとしている、そして、何かしら助けなくてはならないと思っている。もちろん、それは良いことでもある、が、しかし、それだけじゃないだろ?と思う。私は別の感覚をもっている。なすがままに、と。 日本がどんどん落ちぶれていって、外に出て行って、私はそれを見ている。“悪いけど、サヨナラ、ニッポン”とても悲しいよって。ってね。
チョン:どうやったら、イデオロギーから、主義から、私の身体から、自分のテーマから逃げることができるのか、どうやって自分の国や国籍から離れることができるかと、考えています。同時に私は自分が何なのか、を探しています。アーティストは政治的な、資本主義的な闘争者ではない。しかし、私たちは終わりまで、永遠に、闘わなくてはならない。 答えはないのです。解決策も。ただ、終わりまで問いがあるだけ。だから、ダンサーのみなさん、終わりまで続けてください、そして他人とどこが似ているか、他の言葉と何が似ているのかを探してください。 何が私と他のダンサーが似ているか、私と他の先生が似ているのか。そして何が違うのか。どうか、考えてみてください。 室伏:コミュニケーションにとって何が一番大切かという大きなメッセージだね。どうやって、コミュニケートし、そしてどうやって違いをミックスするのかということもね。
(2011年5月5日@京都芸術センター)
高山しょうこ(たかやま・しょうこ) 東の都から西の都にきて4年。ずっと踊ることなぞできないと思っていた、自分のこの身体。このWSで身体への意識がちょっと変わったかも!? 見るのでもするのでも、踊りがある人生って楽しいですね。
中村まや(なかむら・まや) 大阪府出身。2005年ペルー留学中、たまたま暗黒舞踏に出会い、コンテンポラリーダンスに興味を持つ。現在商社で働きながら、暑い夏のワークショップやサルサを通じ、よく動く体づくりを試みる。
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