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【暑い夏11】わらしべ長者的インタビュー/時代の焦点を垣間見る

2011年06月21日

 『暑い夏』では、レポートを書いたり、記録映像を撮影しているメンバーを「ドキュメントチーム」と呼んでいます。このドキュメントチームに、今年はたまり場として京都芸術センターの1部屋が充てられていました。この部屋には他に、ボディーサロンという鍼灸コーナーと『暑い夏』に関連した映像が見られるDVD閲覧コーナーもあって、多種多様な人たちが出入りする空間となっていました。「人が交差するところにはドラマが生まれる」ではありませんが、入って来た人とおしゃべりしているうちに、1つの焦点が私の中に浮かび上がってくるような気がしました。そこで、参加日数2日という短い期間ではありましたが、参加者の方にインタビューをしてみようと思い立ちました。「わらしべ長者」のように、手にした出会いからたぐっていくショート・インタビューは、また新たな視点でこのフェスティバルを切り取ってくれました。

撮影:宇佐美偉丈 
撮影:宇佐美偉丈

 

【DVDコーナー/石原弘恵さん】亀田

 

静岡ダンススペースで企画をされているという石原さんは、ランチ休憩でDVDコーナーに来ていらっしゃいました。声をおかけすると「さっき、ヨガのワークショップを受けて来たんですよ。」とおっしゃったので、感想を伺いました。「ヨガは普段から自分なりにやっているのですが、今日は“内から”教えてもらった気がしました。ダンスは力が入り過ぎていることが多いのですが、余分な緊張があるとしなやかに動けないですよね。」石原さんはマタンさんのクラスに通しで参加されるとのことでした。「わらしべ長者的インタビュー」はこうしてスタートしました。

 

【ボディサロン/長留ひろみさん】亀田

 

古典東洋医学という視点から、鍼灸治療をされている長留さんは、数年前から『暑い夏』でボディサロンを開いています。興味本位もあって、長留さんに診ていただくことにしました。長留さんは生活習慣などを細やかに問診すると、脈診(手首から脈を診る?)をして患者の状態を探ります。私の場合は、文章を書くなど内に籠る作業が多いためか体内循環が滞っているようでした。「内に籠ったら、外に解放することも大切ですよ。」とアドバイスを頂きました(このアドバイスへのレスポンスと感じられるヒントは、マタンさんのワークショップ見学とアフタートークでバッチリ頂いた気がします。もしよろしかったら、マタンさんのレポートもあわせてご一読下さいね)。

 

【芸術センターフリースペース/ナカシマケイスケさん】亀田

スポーツ(野球やラグビー)を続けて来たというナカシマさん。これまでハードに身体を使ってきたそうですが、故障を経験して「身体のために」とマタンさんのヨガクラスを受講。「細かく身体をみていく」ヨガを体験して、歩き方など変えていきたいと感じたそうです。「ダンサーってかっこいいし、キレイ。自分もコンディションが良くなれば踊ってみたいですね。」と話してくれました。ダンス公演なども時々ご覧になるそうですが、フラダンスのように「スローなもの」がいいそうです。スローに惹かれる価値観、こんなに若い方の中にもあるんですね・・・。

撮影:宇佐美偉丈
撮影:宇佐美偉丈

 

【芸術センターフリースペース/玉谷ゆかりさん】亀田

 

名古屋でダンス活動をされている玉谷さんは、マタンさんのクラスの他にもクルト・コーゲルさんとエリック・ラムルーさんのクラスも受講されているとのこと。「単発ではなく、通しで受講することで進歩していける感覚がある。」と話して下さいました。また、こうしていろいろな講師のワークを受けることで、講師それぞれのこだわりを見つけられるそうです。クルトさんのワークは「シンプル・スローでOK」ということを感じるそうですが「スローは退屈にならないですか?」と質問してみました。玉谷さんは「ゆっくりの方が自分の変化に気づけますし、手ごたえもありますよ。」とニッコリ。変化はスローな中で気づくもの・・・これはちょっと発見かも!?

 

【芸術センターフリースペース/ナガイさん】亀田

 

マタンさんのワークを終えて、次のワークを見学するというナガイさんは大学で演劇をされている女性。演劇をされる方がなぜダンスのワークショップに参加したのかを質問してみました。「演劇をしていますが、舞台上できちんと立っている人とそうではない人がいることに気付いたんです。きちんと立っていると感じる人はとても魅力的。そういう人たちに聞いてみると、ダンスをしていたりします。」ナガイさんはダンスにヒントがあるように感じて、このフェスに参加されたそうです。「ダンスも演劇も同じだと思うのですが“出そう・表現しよう”とする人には魅力を感じない。逆に“周囲を大切にしたり、周りから受け止めよう”としている人の方が魅力的だと感じるんです。」そう語るナガイさん。照れくさそうにされていましたが、芯のしっかりした方だと感じました。とっても魅力的!

撮影:宇佐美偉丈
撮影:宇佐美偉丈

【芸術センターフリースペース/匿名希望の20代女性】中村

 

クルト・コーゲルさんのレッスンを待っている女性とお話しました。インタビューなんて!と恐縮されていましたが、ぽつぽつ喋ってみると、かなり深い経験をされている様子。 10年ほど前にコンタクト・インプロビゼーションのことを知り、5年ほど前からコンタクトのワークショップに参加されているそうです。

 

 普段は普通の会社員をしている、という彼女ですが、毎年ゴールデンウィークはコンテンポラリーダンスを楽しまれているそう。去年はイニャーキ・アスピラガ氏のレッスンを通しで、今年はクルト・コーゲル氏のレッスンを通しで受けておられます。かなり、本格的に好きな方のセレクションではないでしょうか? ダンスが日常生活の役に立ったことはありますか?という質問を投げかけてみると、面白い経験を話してくれました。

コンタクト・インプロビゼーションでは、自分の力と相手の力をうまく合わせていきます。そのおかげで、職場の対人関係が、少しスムーズにいくようになったそうなのです。 以前、彼女は自分の主張を前に、前に押し出そうとしていたそうです。でも、周りに主張を受け入れてもらえなかったりと、うまく協力体制を作るのが難しい。そんな中で、コンタクトの「自分の力と相手の力と合わせる」経験をされました。その感覚をとおして、職場でも相手と自分の力を合わせることができるようになってきた、とのこと。自分の主張と相手の主張を合わせ、ひとつの形になるように積み重ねていくことができるようになってきているそうです。 ダンス=非日常の経験を通じて、日常を変える。ダンスの新しい可能性を感じました。 たった6人のわらしべ長者的インタビューでしたが、焦点のようなものを掬い取れたように感じました。
 ・内側にフォーカスすることと、解放すること
 ・継続すること
 ・スローな状態が発見を促すということ
 ・周りを受け止め、大切にすることで生み出される魅力

 

撮影:宇佐美偉丈
撮影:宇佐美偉丈

時代は休むことなく進歩と発展を続けてきましたが、その動きにも陰りや限界が見えてきています。そんな中で、こうした価値観が浮かび上がってくることは、ごく自然なことなのかも知れません。ダンスという身体メディアを通じて、健全な方向に時代がシフトしていく流れが生まれている・・・そう考えてもいいのではないでしょうか。停滞ではなく、新たな“はじまり”を予感出来ました。 インタビューにご協力下さったみなさまに、心からの感謝を申し上げます。ありがとうございました!

 

亀田恵子(かめだ・けいこ) 大阪府出身。2005年日本ダンス評論賞第1席受賞、評論活動をスタート。2007年京都造形芸術大学の鑑賞者研究PJT.に参加、Arts&Theatre→Literacyを発足。会社員を続けながらアートやダンスを社会とリンクすべく模索する日々。

中村まや(なかむら・まや) 大阪府出身。2005年ペルー留学中、たまたま暗黒舞踏に出会い、コンテンポラリーダンスに興味を持つ。現在商社で働きながら、暑い夏のワークショップやサルサを通じ、よく動く体づくりを試みる。

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