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【暑い夏11】内なる環境を整える大切さ
2011年06月13日
F マタン・エシュカー コンテンポラリー・ダンスって何?どんなことするの?そんな疑問に応える、毎年大好評の通称「サラダ・ボール・プログラム」。ダンスに興味ある方へのイントロダクション・クラスです。世界で活躍する講師による様々なスタイル、考え方のダンスに触れることができます。
MATAN ESHKAR マタン・エシュカー (イスラエル/テルアビブ) ヨガ指導者。ニューヨークのDNA(Dance New Amsterdam)やNew York Yogaにて講師として活躍。現在はイスラエルで、インバル・ピントダンス・カンパニーや、バッドシェバなどのプロフェッショナル・ダンサーへの指導を行っている。彼のヨガは古くからあるヨガの知恵を現代生活に適応する言語に置き換えた革新的で独創的なもので、ヨガ指導者のための指導も行い、アメリカ、ヨーロッパ、メキシコなど世界各地で指導を行っている。ダンスやスポーツでの負傷や再訓練、痛みのケアなどに特化したクリニックも行っている。昨年来京し、その的確な指導が評判を呼び今回の招聘につながる。
京都国際ダンスワークショプフェスティバル、通称『京都の暑い夏』では、ダンスに関してさまざまな切り口からワークショップのプログラムが組まれています。例えば「A.ダンスメソッド」では身体の構造、空間、時間、エネルギー、創造性などダンサーとしての総合力を養うようなプログラムが、「B.ボディー・コンディショニング」では身体への気づき、構造の理解から身体と意識を繋いでいくこと、「C.クリエイション&リサーチ」では国際的に活躍している振付家が創作のキーとなる考えやプロセスを参加者とともに探求するプログラムなどが設定されています。他には「D.コンタクト/インプロビゼーション」ではダンサーのみならず、コミュニティ・アートやカウンセリングなどにも影響を与えているコミュニケーション手段としても注目されているメソッドですが、「自分と他者」を身体ムーブメントから考えていく興味深いプログラムや「E.メディアとダンス」「G.こどもとおとな」など、ダンスに近接した新しい側面にも触れられるプログラムが設定されています。こうした一連のプログラムの中でも、もっとも『暑い夏』らしいプログラムが「F.ビギナークラス」だと思います。このクラスは日替わりで(時には2日間連続で)、AからDの講師が初心者向けのプログラムを提供してくれます。さまざまな視点で展開されるダンスプログラムは、色とりどりの新鮮な野菜が盛りつけられた「サラダ」に似ているとから「サラダボウル・プログラム」とも呼ばれています。私は毎年、この「F.ビギナークラス」に参加しているのですが、今年はワークの見学とアフタートークのナビゲーションで参加しました。アフタートークというのは、ワークショップ参加者がワーク終了後に講師を囲んでワイワイ話をするというもの。これも新たな『暑い夏らしさ』として、定着しつつあるコーナーですね。
撮影:庵雅美
私が『暑い夏』に関わりはじめたのは2007年のアンケート解析からですが、その当時アンケートの回答者のほとんどが「ビギナークラス」の受講者でした。さらに、ビギナークラスの方がワークショップに参加したきっかけとしてあげていた理由の大半は「ヨガに関心があって」「身体そのものへの関心が高まって」というものでした。ダンスに興味を持ちはじめた方が身体そのものへ興味を深めていったり、身体を深く見つめるヨガに興味を持つ方がダンスの起点に立つということは、興味深いことだと思います。ダンスをするにあたって(というよりも、人が生きていく中でも)身体を見つめる作業は、とても本質的な部分だと思うからです。 私が担当したアフタートークの1日目は、イスラエルから来日したマタン・エシュカーさんのクラス。マタンさんはアメリカやヨーロッパ、メキシコなど世界各地でヨガの指導を行っておられますが、イスラエルではインバル・ピント・ダンス・カンパニーやバットシェバ舞踊団などのプロダンサーにヨガの指導をされているそうです。『暑い夏』では、「B.ボディー・コンディショニング」クラスで指導をされました。 ビギナークラスでのマタンさんのワーク、スタートにあたって通訳を務めた坂本公成さんは、こんな質問を参加者に投げかけました。「ヨガは初めてという方はいらっしゃいますか?」すると、8割くらいの方が挙手。参加者の多くが、こらから正に初めてのヨガ体験をするという場になりました。マタンさんは「今日はヨガで大切にしている基礎をお伝えしたいと思います。」と話され、「解放すること/関係性を開いていくもの」「これからのワークは、自分のために自分の声を聴くことを大切にする」といったことをキーワードにあげていました。 ワークは床に寝そべった姿からスタートし、常に呼吸と動きが連動するように意識するよう促されます。同じ動作をゆっくりから徐々にスピードUPするなど、途切れない呼吸と動きとリズムが大切にされていきます。ワーク全体では、寝た姿から四つん這いを通して立位、寝た姿で終息へ・・・という流れがありました。また、ポーズの1つ1つには名前があって(太陽礼拝のポーズ、立ち木のポーズなど)、名前からイメージ出来るような動きが型になっていました。例えば、立ち木のポーズでは、腰から下は木が根を張るように重心を降ろすようにイメージし、腰から上は青空を見上げるように意識を上へと昇らせるというように。動きの1つ1つを覚えるのが苦手はビギナーの方は、ポーズの名前からイメージを膨らませることも有効かも知れません。マタンさんにも確認してみたのですが、ビギナーにはそういったアプローチでも問題ないでしょうとのことでした。
撮影:庵雅美
ワークでは終始、参加者のみなさんの呼吸の音が静かに聴こえるような静けさがあり、さらにマタンさんのお人柄もあって、和やかで心が落ち着くような場でした。アフタートークでは、こうした場の心地よさを崩さないようにしながら、深い感覚の中にある参加者それぞれの体験を言葉に出来るように場をつくっていきました。 アフタートークにあたって、マタンさんからのリクエストは「ヨガについての参加者の認識」を知ることと、今回のフェスティバルのテーマである「Dance&Environment/ダンスと環境」から、「人は自然やオフィスの快適さといった“外”の環境には敏感だけど、精神の穏やかさや静けさを保つための“内”なる環境には鈍感だと思う。」といった投げかけから参加者とディスカッションしたいということでした。 マタンさんを囲んでトークはスタート。先ずヨガに対する認識を聞いてみると「日本ではヨガはダイエットに効果があると思われているのではいか?」「セレブなイメージ(笑)!」という反応がありました。これにはマタンさんも笑顔でレスポンス。あとは「身体が柔軟な人がするもの」という反応もあり、これについてマタンさんはワークの中で「ヨガをする人によって、身体の柔軟さは違う。大切なのは、ポーズが行おうとすること=例えば腕を上げるということを意識して、出来る精いっぱいのことを行うことに意味がある。」とおっしゃっていました。別の参加者からは「ヨガをしている友人から、ヨガの大切な考えは“捨てること”だと言われたが、よく分からない。」というものがありました。これに対してマタンさんは「日々暮らしていると、家の中にはゴミが出ますよね。ゴミを捨てないと、やがて家の中はゴミだらけになってしまいます。フルートも詰まっていると音が出ません。それらは、新しく入れるために捨てるものです。身体でいえば、緊張を取り除くことが捨てるといえるのではないでしょうか。余分な緊張が身体にあると、新たに動きはじめることが難しい。」ということが語られます。さまざまなことを抱え込み、もっともっと、さらにさらにという日々の暮らしが私自身の中にふとよぎって、ちょっと心がピリリとしてしまいました。 マタンさんはトークの最後に、“内なる環境”にテーマを移し、人が生きていく中で身体と向き合い、きちんとケアやメンテナンスすることの大切さ、環境に責任を持つ能力(レスポンサビリティ)が、これからの時代には重要になってくるのではないかとお話されました。内なる環境に敏感になることで、自然や社会といった外に広がる環境にも繊細にコンタクト出来るのかも知れません。ヨガのワークが、こうした一連の好循環に寄与してくれるのではないか・・・マタンさんのワークとアフタートークを通して、そんなことを感じました。うーん、私の中では、きちんとゴミ出し出来ているかしら?
(見学日:4月29日)
亀田恵子(かめだ・けいこ) 大阪府出身。2005年日本ダンス評論賞第1席受賞、評論活動をスタート。2007年京都造形芸術大学の鑑賞者研究PJT.に参加、Arts&Theatre→Literacyを発足。会社員を続けながらアートやダンスを社会とリンクすべく模索する日々。
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