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【暑い夏11】ダンスを伝えることの意味

2011年06月13日

D-3 クルト・コーゲル 空間における身体の知覚、感覚を探求する/場と関係性を創造する/流動する/開き続ける/場を区切る。他者と触れ合う中で動きがどのように変わっていくのかを体験します。空間と関係性に耳を澄ましながら、より豊かな気づきを得ていきましょう。そして、空間での共振を深めるためにシンプルな選択をすることによって状態を変容させていきます。ストラテジーやツールを理解し使いこなすことで、構成されたかのような即興的なパフォーマンスが現出するでしょう。
plof_kurtKURT KOEGEL クルト・コーゲル (ドイツ/フランクフルト) 分析的かつ丁寧な彼のコンタクト & インプロヴィゼーションの指導は、あらゆる受講者に好評を博している。ニューヨークでダンスと建築を10年間学んだ後、拠点をヨーロッパに移し、パフォーマー、振付家そして指導者として活動している。ウルティマ・ヴェス、ローザス、ガロッタ、PARTSなどヨーロッパの一流カンパニーなどで指導を行っている。ヨガ、フェルデンクライス、ボディ・マインド・センタリング、ロック・クライミングなどの知識を活かし、より効果的な指導を探求し続けている。目標とするところは、自然と社会環境に対する理解を踏まえた、より効果的なコンテンポラリーダンスの享受方法を探求すること。フランクフルト音楽・舞台芸術大学教授兼コンテンポラリー・ダンス教育学研究科学科長。

 「ダンスを言葉にすることの意味」って何でしょうか?そもそも「言葉では表現出来ないこと」がダンスとして生み出されているとも言えるわけです。それをわざわざ言葉にして、いったいどんな意味があるのか・・・。今年の「京都の暑い夏」の初日、私はこんなことを考えながら会場に到着しました。もちろん「ダンスを言葉にする」といっても、それはさまざまな事柄を含んでいますから、到底ひとことでは言えるはずもないことです。でも、例えばこうしたワークショップの場において講師の方がダンスを伝えるために使う言葉にはどんな意味があるのかを探ってみることは可能ではないでしょうか。 Kurt Koegel_0429_ihori_01

撮影:庵雅美

 今年の「暑い夏」には、ドキュメントチーム(こうしてレポートを書いたり写真や記録映像を撮影しています)が溜まっている部屋がありました。ここには編集作業をするための机やパソコン、映像が見られるDVDプレイヤーなどが置かれている他、ボディケアが出来るブースもあったので、常にドキュメントメンバーやダンサーなどさまざまな人が出入りしている場所になっていました。私はそこでスタッフの方とおしゃべりをしていたのですが、ある時この部屋にクルト・コーゲルさんが入っていらっしゃいました。穏やかな笑顔で「こんにちは」と声をかけて下さったクルトさんですが、実はフランクフルト音楽・舞台芸術大学で教授兼コンテンポラリー・ダンス教育学研究科の学科長を務めるというすごい方。直接お話する機会は少なかったのですが「ダンスを教える上で、言葉にしていくことはとても大切」ということをおっしゃっていて、彼のワークを拝見すれば「ダンスを伝えるために使う言葉の意味」についてヒントを得られるような気がしました。

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撮影:庵雅美

 クルトさんのワークショップは、フロアの中央に参加者を集めることから始まりました。参加者の輪の中でクルトさんは「昨日のテーマは何でしたか?」等、日本語で語りかけますが、時々言い間違えて照れ笑い。彼のナチュラルさが場を和やかにしていくのがじんわり伝わってきます。英語圏の彼が日本語を使ってコンタクトワークを行おうとしている姿を見ていると、近づこうとする気持ちが相手(この場合は参加者)との距離を縮めていくのだと感じました。和やかな笑い声と心地よい集中力がこのクラスにはあふれていて、クルトさんと参加者の間にはとても強い信頼感があることがわかりました。  彼の指導はヨガやフェルデンクライス、ボディ・マインド・センタリング、ロック・クライミングなどの知識の集積から生み出されたもので、他のダンサーと視点が異なる点は「ダンスの教授法の探求」に彼の想いが最も強く注がれているところ。「踊るためにどうすればより伝えられるか」に心が砕かれているワークショップなんて「世界一受けたい授業」に推薦したいくらいです(笑)。クルトさんは、ワークショップ参加者のみならず、見学していた人たちもフロアに集めて説明をして下さいました。彼の温かな人柄がさらに場の質を高めていたと感じましたが、ここには配慮と戦略の両方の意味があったのではないかと思います。  残念ながら、クルトさんのワークを最後まで拝見することは出来なかったのですが、印象的だったシーンをご紹介したいと思います。それは、参加者がペアになってのワークで、互いに腕と腕を合わせ、一方が相手をそっと押し、押された方は同じ力で押し返す(=均衡を保って静止する)というもの。これをさまざまな伝え方で試していきますが、ここでは相手の力を感じ取れるように繊細に行うことがポイント。あるペアの場合は、片方の人がさまざまな動きにトライしようとしているのですが、相手が受け止めきれずに戸惑っている様子でした。するとクルトさんは、参加者を集めてあるペアの動きを見るように促しました。そのペアは片方の人が指先1本で相手に力を伝えていましたが、とても自然に動きが生まれていきます。繊細な作業の中にも落ち着きがあって、とてもきれいな動き。クルトさんは「たくさんのアイデアを持っていると、つい強要してしまいがちですが、シンプルに。止まった瞬間を味わいましょう。音楽家は99%を聴いています。」とコメント。私は彼の鋭い観察力と適切なファシリテーションに大感激してしまいました。

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撮影:庵雅美

 ダンスを言葉にすることの意味・・・そこには、伝えようとする人の豊かな経験と細やかな配慮、未来に向かって育とうとする人たちの限りない可能性があるのだと感じました。言葉だけで伝えられないこともたくさんあるけど、言葉にしないと伝えられない大切なことも同じくらいたくさんあるんですね。

(見学日:5月1日)

亀田恵子(かめだ・けいこ) 大阪府出身。2005年日本ダンス評論賞第1席受賞、評論活動をスタート。2007年京都造形芸術大学の鑑賞者研究PJT.に参加、Arts&Theatre→Literacyを発足。会社員を続けながらアートやダンスを社会とリンクすべく模索する日々。
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