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【暑い夏11】風をみつけましょう
2011年06月13日
A-1 チョン・ヨンドゥ 呼吸と重心そしてフロアへの認識を深め、より効果的にエネルギーの流れをとらえ、動きを自由に、独創的にさせるためのトレーニング。振付家として世界各地で高い評価を受けている彼の、東洋と西洋の要素を併せ持つ希有(けう)なクオリティーとは何か?
JUNG YOUNG-DOO チョン・ヨンドゥ (韓国/ソウル) 西洋的で高度なダンスメソッドと明確なコンセプトを併せ持つと同時に、東洋的に抑制された繊細な動きが彼の才能を裏付けている。Doo Dance Theater主宰。韓国新進気鋭の振付家である。韓国を拠点に世界各地で活躍する。’04年にはリトル・アジア・ネットワークでアジア各地を巡回。韓国でも多くの賞に輝く他、「横浜ダンスコレクション・ソロ&デュオコンペティション」にて、「横浜文化財団大賞」ならびに「駐日フランス大使館特別賞」を受賞、フランス国立トゥルーズ振付センターにて研修する。「踊りにいくぜ!」(’08年)『Hiroshima-Happchon』(’10年 松田正隆構成・演出)など来日多数。
昨年、一昨年と、暑い夏のオープニングでは、チョン・ヨンドゥの作品が、披露されている。昨年は、リハーサルを少し見たり、クラスも少し見たりして、チョンさんの体の使い方、何より呼吸の使い方がすごく気になっていた。チョンさんの身体性と言うか、立ち姿にしても、動いて、踊っている姿も、柔らかで、美しい。そこに、惚れ込み今回は受講。 基本的には、フロアワークが主体となっていて、寝転んだ状態や座った状態で、体を伸ばしたり、縮めたりしてコントロールする。立姿でのワークもあり、ジャンプしたり、走ったり(滑るに近い)する。それらを、混ぜ合わせたエクササイズなどをやった。 私は、チョンさんの呼吸の使い方はすごくおもしろいと思う。だいたいは、息を吐くときに縮み、吸うときに伸びて行き、呼吸と体を連動させる。チョンさんの場合には、先に呼吸がある。息を吐き始めてから動き出し、吸い始めてから動き出す。吐息にちり紙をのせるような、そんな感じ。風を起こして、その流れに乗って行くイメージ。
撮影:庵雅美
ワークの中では、カウントも大事にされている。最初は、8カウントでゆっくりとリズムを取っていって、1カウント目では、息を吐きながらここまで動いて、次では、息を吸いながらここまでと考えながら動くことができる。各自ゆっくりとワークに集中できるので、教室内はとっても静か。同じ動きを何度か繰り返して形になってくると、リズムを倍速にされる。倍速く動かなきゃいけなくなる。動きは荒くなるし、呼吸もずれる。動きの流れが頭では追えなくなってくる。床と体がぶつかって、ごつごつ音がするし、隣の人とぶつかって、声が上がり、息も少しずつあがってきて、教室内が少し騒がしくなってくる。さらに、倍速になると、ぐちゃぐちゃ、ぐでぐでになるが、チョンさんが「ワーン、ツー」「ワーン、ツー」というのは、平坦に響いている。床はごつごつ、どんどん鳴るし、受講者の声も、「あー」「わー」「はははは」と、色んな声が上がる。息もぜーぜーいってくる。それから、8カウントで2回、4カウントで4回、2カウントで4回のような感じで、一連の動きとして、何度か繰り返していくと、なんとか形になってくる。そしたら、「次は逆向きで」と言われ、また声が上がる。私は、こういう感じで、人が活き活きしてくる時間が大好きだ。 その後は、チョンさんが丁寧に説明しながら教えてくれたり、ペアを作って互いに見合って、意見交換をしたりして、徐々にどうやったらうまく行くかを探して行った。 ゆっくり動いているときには、自分の体の状態と呼吸とを観察する時間がある。たとえば、呼吸とともに体が重くなっていって、床になじんでいくとか、関節が緩んでいくとか、そういうほわっとしたイメージ。リズムが早くなってくると、意識するものが変わってくる。脱力するにしても、スイッチのOn/Offみたいな瞬間的なものになるし、体の感覚や重力や遠心力の感じ方、それらに反発する力をもっと強く感じることになる。あと、考えながら動くような余裕は無くなって、体の動きがどういうものだったかを観察することや、記憶することへと、意識は傾いていくように思う。色んな要素がぴたっとあえば、驚くほど簡単にしゃっと動ける。その時は、本当に気持ちいいもんです。 私たちは、酸素を得るために呼吸しているけど、体を動かすためのパワーとして、吸うに合わせて、吐くに合わせて、呼吸をすることによって生まれるエネルギーっていうのもあるような気がする。踊っているときに、体の周りにふわっとした何かを感じるときとか、意思とは関係なく在らぬ方向に引っ張られたりするときとか、視線、意思、意識、声に宿る力とか、チョンさんの言う「風」というのは、周りにあるものからの助けみたいなものなのかなと思う。
撮影:庵雅美
クラス中、チョンさんは、日本語を使ってくれる。私たちが外国語に弱いというのもあるが、受講する側としては、気が楽だ。あと、ワークに使った曲が面白かった。毎日、同じ動きに、同じ音楽を使うので、その音楽がかかると体が自然と反応してしまうようになったぐらいだ。その辺は、狙ってるのだろうか。チョンさんの力は、はかりきれんです。 期間中盤で、「コンテンポラリーダンスって何ですか。」とか、「なぜテクニックをつけるのか。」など、ダンスにおける、「なんだろう」について話す機会があった。これは宿題にもなって、最終日にみんなで話した。 「おいしい動き、ダンスってなんだろう。」 「コンテンポラリーダンスは、リズムを忘れて行ってはないか。」 「からだは、どうやって動いていくのか。」 「トラディショナルとコンテンポラリー」 最終日には、皆さんしっかりレポートを出しておりました。こういう難しいことは苦手なのですが、言葉にしていけるようにならねばなと思う。
(参加日:全通し)
辻本佳(つじもと・けい) 三重大学在学中にダンスを始める。「京都の暑い夏」主催オーディションに合格し、’08京都×アンジェ交換研修生制度に参加、’09カーン国立振付センター Company Fattoumi Lamoureux 振付作品『Just to Dance』にて、フランス国内ツアーに出演し、9月には日本での上演を予定している。昨年より、京都に居住を移し、ひっそりと活動中。
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