2009年08月30日
う ダンスって、踊る場所や空間によって、ずいぶん変わるよね。そりゃ音楽でも演劇でも何でもそうだろうけど、からだ一つ、ってところがあるからかな。演劇なら、たいていセットで空間を作りこむけど、ダンスだと素の舞台を使うことが多いよね。
く 「ダンスの時間」をやってるロクソドンタブラックでよく思うんだけど、ダンスの時はたいてい黒い壁をそのまま見せて、はしごや柱型まで、場所の形をはっきりと見せるでしょ。でも、演劇の時は、舞台の向きさえ違うことが多いし、吊り幕(おおぐろ)やセットで壁を覆っちゃうから、壁や建物の形がわからないよね。劇場によって、もちろん大きさは違うから、全く同じ空間ってことは無理にしても、設定しようとするのは同じ時間、空間なんだろうね。
う ダンスにはそういう時間や空間の設定はないの?
く まずは半分冗談だけど、予算の問題が大きいかな。バレエなら立派なセットが設えてあるし、単独公演で、必要があって経済的事情さえ許せば、適切なセットは作り込むと思うよ。ただ、特にコンテンポラリーダンスは「抽象的空間」「抽象的時間」を背景にすることが多いのかもしれない。「1869年、ロンドンの裏町……」なんていうダンス作品はあまりないよね。その会場の、場所としてのあるがまま加減と、身体の「素」加減が照応する、みたいなことが多いんじゃないかな。それに、そういうことだけじゃなくて、場所を活かすというか、場所が作品にどんどん影響していくというのは、ダンスの面白さだと思う。
う 交感というか、即興的というか。
く たとえば、布谷佐和子さんたちの連続企画「しずかなこえプロジェクト」だけど、最初は2009年1月にロクソドンタブラック、3月の2回目(奈良・旧大塔村大塔小中学校体育館)は見れなかったけど、3回目『LOVE practice vol.3』は旧グッゲンハイム邸(神戸・塩屋、5月17日。以下、グ邸)、そして次は古い造り酒屋の倉庫の2階だそうだよ(10月3日、灘泉(泉勇之介商店)木造酒蔵)。というふうに、いろんな性質というか趣きの場所でやることで、作品の趣きも変わってくるし、一言でいうと、場所の力を吸い込むことで作品の力が大きくなってるんじゃないかな。
う 『LOVE practice』という全体タイトルがあって、ロクソドンタでやった時には、男女の愛の行為のお稽古? みたいな、エロティックで激しく生々しい感じだったけど、グ邸では100年の歴史のある洋館のリビングと応接間らしい2部屋で、丸テーブルをたくさん並べて、お茶を出し、クッキーを盛ってと、ティーパーティーのような設定にしました。
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く 令嬢たちと1人の女中という設定が何だか古めかしいし、ヨーロッパの近代劇とかシュルレアリスム小説の序章みたいで、ちょっとドキドキした。何か大変なことが始まるんじゃないかっていう感じ。
う 令嬢たちがテーブルの上のクッキーを猛烈に頬張るのなんて、序の口だったね。見ようによってはドラマティックな、つまり劇的な展開なんだけど、物語自体より、物語の予感、空気、が充満しているのが面白かったね。こういう場所だったから、観客もただの観客じゃなくて、当事者としての目撃者みたいだったし、円形舞台じゃないけど、向こう側にお客さんの姿が見えるのも面白かった。
く 円形舞台といえば、精華小劇場の「精華演劇祭vol.12 DIVE演劇祭〜中島陸郎没後10年に捧ぐ」がそうだったし、『NINAGAWA十二夜』は舞台奥に鏡をしつらえて、客席の姿を写し出したでしょ。他人が見えるのと自分が見えるのとでは、随分意味合いが違うけど、観客の存在を強調するということでは同じといえるかな。この世界には、外部から見る者が存在する、ということをいつも認識させられるわけで。
う このグ邸で面白かったのは、見えにくかったら移動してくださいねって言われてて、ほんとにお客さんがぞろぞろ動いたことだよね。
く 2つの部屋が前方後円っていうか、ピアノのあるほうが円形だったかな。その部屋のバルコニーから庭に出られると、四角いほうの部屋からは全然見えないから、部屋を移ったり、玄関からベランダに出たり、結構大変だったよね。
う それに、雨が降ってきて。
く そうそう。
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う ダンサーの皆さんが庭に出て、地面の上を泳ぐほどの激しい動きになっていくと、それにつられるように雨が激しくなって、こういう時って、天の配剤、って思っちゃうよね。
く うん。もちろん、そのことだけにあんまり注目して言い立てる必要はないと思うんだけど、物語ではないドラマ性が増幅したのは確かだよね。
う 強度っていうこと?
く 物語的に言葉を追って感動のようなものが与えられるんじゃなくて、泥にまみれる白い服、身体の冷えがダイレクトに伝わってきたんだけど、あそこで雨があんなに降らなければ、あんなには伝わってこなかったと思う。そういう意味では、言葉の物語としての線的な強度と、言葉にできない拍としての強度の、両方が味わえたということになったね。
う 今回は男性抜きで、女性だけだったけど、愛ってことでは、どうだったんだろう?
く テーマですか? 愛のための準備ということで、もう態勢は整ってるわよと、その程度にしときませんか。
う はい。愛といえば、ジャンルでいえば演劇だけど、今回はセリフがほとんどなくて、踊りや動きが中心だった、東京デスロック『LOVE 2009 Kobe ver.〜愛のハネムーン』(神戸アートビレッジセンター、7月4日)は、問題作だったといっていいかな。「演劇LOVE」! です。
く 埼玉県富士見市のキラリ☆ふじみという公共ホールを拠点として、東京公演は行わないと宣言している若手で、去年の神戸公演『3人いる』がすごく面白かった。上念さんが「イマージュ」43号に書いてます。今回のは、集団心理のグロテスクさというものを、ものすごくうまく抉り出していたと思うんだけど、アフタートークの話などを聞くと、主宰で作・演出の多田淳之介は、それを全く強調しないんだね。むしろ、イノセンスを強調してる。
う 始まりは、座る―立つのゲームみたいな感じ。数人の集団で、徐々にみんなが立ち始めると最後の一人も渋々のように立って、するとまた一人二人と座り始める。そこへ新顔が来て、中途半端な笑顔のうちにそのゲームみたいなものの輪の中に入っていくわけね。中途半端な表情のうまさが、単調になったかもしれないゲームもどきをすごくスリリングなものにしてて、「ホントはぼく、別に他の人と同じようにしたいわけじゃないんですけど、マ、とりあえず」っていう感じがすごく出てて、強烈でした。
く インフルエンザのマスクみたいな感じね。
う それから、’80年代にディスコではやった感じのチープな曲や、YMOの有名な曲をわざわざ薄っぺらに編曲しなおした曲に乗って、踊りまくるんだけど、まあそのダンスのいい加減さが面白かった。
く 当時のディスコもそんな感じだったんじゃないの? いつからかみんな同じ振りで踊るようになったけど、最初はわりとてんでんばらばらだったんじゃないかな。もしこの東京デスロックの人たちが、すごくうまいダンスを見せたら、この作品は違うでしょ。
う 明らかな素人らしさがよかったんだろうね。若い子たちがノリのいい音楽をきっかけに、何となく盛り上がって盛り上がって、いつの間にか熱狂になって、それがいつの間にかごく自然に殴り合いの惨劇になっている。
く この展開はみごとだったね。ホントにぞっとするような展開を、非常に滑らかに見せて。
う でも、そういう恐ろしさについて、何も語らない。
く これだけみごとにはっきりと展開できたら、もう語る必要はないだろうね。むしろ韜晦の姿勢のように見えたんだけどね。
う テーマが愛っていうのがよくわからないんだけど。
く 作品の中で愛が語られているとは、言ってないよね。読売巨人軍じゃないけど、演劇に対する愛が生れれば、と強調してるわけで、この作品から受け止めた強さ、恐ろしさ、気持ち悪さについて、演劇ってこれほどのことができるんだ、と思えれば、それが愛なんでしょう。もう一度東京デスロックを見たい、って思えればいいんじゃない?
う でも、セリフはほとんどなかったし、これは演劇じゃない! っていえるかもしれないよ。
く セリフはないけど、すべてのシーンをほぼ完全に言葉で説明したり、言葉を振り当てたりできるし、しぐさや表情や立ち位置のフォーメーションがすごく多くのことを語っていた。身体言語による演劇といっていいんじゃないかな。
う ダンスはそうじゃないの?
く ダンスの身体は、言語じゃないでしょ。
う そうか。ごろっと転がってるだけの、何ものかそのものだったね。
『LOVE practice vol.3』 2009年5月17日 旧グッゲンハイム邸
振付・演出・出演:布谷佐和子
出演:大崎美穂 桐子カヲル 小谷麻優子 関原綾乃
音:在里佳余子 田島隆
『LOVE 2009 Kobe ver.〜愛のハネムーン』 2009年7月4日 神戸アートビレッジセンター
LOVE director:多田淳之介
LOVE actor:夏目慎也 佐山和泉 坂本絢 佐藤誠 髙橋智子 堀井秀子 山本雅幸 井坂浩
うーちゃん:演劇や宝塚歌劇が好きな、ウサギ系生命体。くまさんに付き合って、ダンスも見始めた。感性派。小柄。
くまさん:コンテンポラリーダンスが好きなクマ系生命体。最近、古典芸能にも興味を持ち始めている。理論派。大柄。
produced by 上念省三(じょうねん・しょうぞう)
演劇、宝塚歌劇、舞踊評論。「ダンスの時間プロジェクト」代表。神戸学院大学、近畿大学非常勤講師(芸術享受論実習、舞台芸術論、等)。http://homepage3.nifty.com/kansai-dnp/
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