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【暑い夏17】Attack the dance

2017年08月9日

 仕事を終えて、電車に駆け込み、電車を乗り継いで京都四条にある京都芸術センターに到着する。この瞬間から私の京都国際ダンスワークショップフェスティバル2017、通称京都の暑い夏が私に訪れた。

 私は門をくぐり制作室8へと歩みを進める。会場に到着するとそこには無心に踊り続けるベージュの綿パンツにブルーの綿シャツを着た男性がいた。その男性が石井丈雄だった。私は彼が昨年フランチェスコ・スカベッタのサプライズボディに出演し、同フェスに参加していたのを記憶していた。

 彼の姿で印象的だったのが、フランチェスコクラス最終日のShowingを全力で踊る姿だった。そんな彼が今年クラスを担当すると知り、どのような内容になるのか興味が湧き彼のクラスを受講しようと決めた。

撮影:下野優希

 会場にぞくぞくと受講者達が集まり始めた。しかし石井丈雄は黙々と踊り続けていた。激しく躍動する彼の体から発せられる呼吸や動きの音が耳と目に届いた。そして始まりの時刻になると彼は簡単に名前を名乗り、挨拶をし、クラスが始まった。まず彼は「全員とハグして下さい。」と自ら受講者や見学者、芸術センターの担当者とハグをしていく。淡々と時は進んでゆく。次に彼はホワイトボードの前に立ち、ホワイトボードの真ん中に人の絵を描き、右側に太陽、左側に月を書き始めた。両サイドの絵から中央の人間を貫くように1本の線が描かれた。彼は言葉を続ける「このように1本の線が体を通っているイメージで踊って見て下さい。」と。私は始まって今までの簡素で言葉少ない説明と指示に少し驚く。他の受講者たちも同様に驚いていた様に私は感じた。

 私は指示された「体の中に1本の線が貫いているイメージ」を自らの体の中に探し始めた。体の中の左右に線が通っているイメージを持つと生まれる動きがあることに気がついた。何もイメージしないと自分自身の中心をイメージ出来ずに手先や足先などからの動きになるのだと自問した。体の中心に線が貫くイメージを持つとおのずと体の中心からの動きになり、同時に重心も体の中心から意識され、重心が動くと連動して他の体も動く。動きは腰、腹へと伝わり、手先、足先と中心から各部の先端へと伝わって行く。シンプルだが動きの起点を体のどの部分にイメージを持つかで動きの質が明らかに違ってくる体験ができた。

 そして次に「上下に線が貫いているイメージ」「お腹を中心としたイメージ」「巨大な胃の中に入ってるイメージ」「胃の中で解けていく様なイメージ」「消化されて排出されるイメージ」次々にイメージを使って踊るように簡素な説明と指示が続く。次々に出される指示に私は自然と考えて動くより、イメージに対して直感的には反応して動いている感覚が体に訪れていった。  ワークが進んでゆくと2つのグループに分かれるように指示がでた。はじめのグループに会場の中心で円になるように指示がでる。円になっている受講者たちに次の指示が出る「歌を歌ってください。」と。明らかに戸惑っている様に私には見えた受講者たち。私自身も戸惑っていた。人前で歌を歌うこと自体なかなか行わないし、恥ずかしさを強く感じていた。そんな状況に石井丈雄は戸惑いもせずに淡々とデモンストレーションで歌を全力で歌を歌い始める。その姿に受講者たちもそれぞれ歌を歌い始めた。私は今まで多くの人と共にそれぞれ違う歌を歌う経験など今まで一度もなかった。初体験を体感していくと現在の状況になれ始めている自分に気がつく。どんどん視界も、聴覚も開けていくのを感じたのだ。結構全力で歌っている自分自身や音程が取れて凄く上手い歌が聞こえてきたりと、慣れから現在の状況が面白いと感じ始めたのである。

 このように石井丈雄のワークは「全力で歌う」など動きだけの枠に囚われずに行われていた。そしてこの日最後のワークもまた動きだけの枠を越えるものだった。彼は淡々と言う「今思っていることを主張してください」彼はそのまま自分が思っている想いを受講者全員の前で全力で主張してみせた。

 一人づつ順番に行うのだが、なかなか受講者たちは自ら進んで出て行くことが出来ない様子だった。会場の中に言いようのない緊張が広がってゆく。

 私自身も同様に緊張に包まれる。緊張に包まれた空間に飛び込んでゆくのは想像以上に勇気がいるものだった。目の前で自分の想いを主張している人を見ながら、飛び込む機会を探り、やっと出て行けそうな機会が巡る。実際自分が大勢の受講者の前に立つとやはり緊張は大いに増した。他者に対して自分の想いをぶつける行為のために、まずは自分の主張を自らの体から絞り出す必要がある。しかし思いの他に私の体は緊張して固まってしまい言葉が絞り出せなかった。

 終わってみて、自分が思うよりも出来ない、言うことを聞いてくれていない自分の体が状況によって存在しているのだと気がつく。年齢を重ねると自分が思うように振る舞えたり、行動できる機会が増えてくる。私は”慣れ”が最大の要因だと思っている。今回のような状況はまだまだ慣れないのだと私は気がつけた。自分が思う以上に慣れない状況はまだ身の回りに存在しているのかもしれない。でも私は自分で慣れた状況に遭遇するように日々を送っているのかもしれないとも気がついた。自然な自己防衛かもしれないが新たな経験を得る機会をも避けているとも言えるのではないだろうかと私は思った。

 この日のワークで多くの初体験を経験した私は帰路につきながら「今まで私が受けたことがない内容に次回のクラスが楽しみだ」と嬉しい気分になっていた。

2日目は仕事の都合でお休みして、最終日に再びクラスを受講した。

 この日一番印象に残ったワークはやはり最後におこなった「課題曲、一曲分全力で踊る」というもの。ワークはシンプルそのもので石井丈雄がかけた曲をグループごとに全力で踊るだけだった。

撮影:下野優希

 彼はデモンストレーションを行うために。iPadを操作してはじめの曲をかける。私に衝撃が走る。いま興味があり欠かず見ているアニメ「進撃の巨人」のメインテーマ曲だったのだ。ハイテンポな曲が自然と気持ちを高ぶらせる。彼は曲の響きわたる会場へ飛び込んで行った。曲を全身で感じて、いや浴びているかのように全身が躍動し、曲と共に踊り続ける姿は全力で宿敵に向かって進撃するがごとく気迫を身に纏い踊り続けた。彼のデモンストレーションが終了しはじめのグループの曲がかけられる。再びアニメ「進撃の巨人」のテーマ曲だった。私に再び衝撃が走る。自然と「この曲で踊りたい!」と強く思う自分がいた。曲に誘われて気持ちが更に高ぶる。しかし惜しくも私は3番目のグループだった。全力で踊り続ける受講者を見ながらアニメのシーンと被るようなイメージが湧いてきた。音楽が持つイメージへの強さを感じた瞬間だった。そして曲も終盤に差しかかると石井丈雄も乱舞の輪に飛び込んでいった。曲が終わると踊っていた受講者は全員息を切らせて床に倒れ込んだ。石井丈雄も同様に倒れ込むが、息も絶え絶えに起き上がり次の曲をかけに行く。2組目のグループの曲も「進撃の巨人」のテーマ曲だった。「もうこれは自分のグループも進撃や!」と嬉しさと期待が膨らむ。そしていよいよ3組目のグループとなる。いよいよくるかのかと想像を膨らませる。しかし予想が覆され別の曲がかかる。正直にこんなにも特定の曲で踊りたいと思ったことが無かったのでガッカリとする。気持ちを整えている暇は無かった。自分と巡り合った曲と全力で踊るために集中する。実は全受講者はこの時点で約2時間にわたって全力でワークをこなして踊りに踊っていたのだ。当然踊り倒した体には疲労が溜まっていた。全力を出しているにも関わらず”賢い動き”とでもいうのか重心や体の重さを利用してアクションは大きいものの動力は節約している状態で踊っている自分に気がつく。同時に「動けない!」「限界!」との声が自身の頭の中にこだまし始める。でも体はまだ動いていた。頭の中で限界を超えていても実際の体はまだまだ動き続けている体。やっと曲が終わりを迎えた。そのまま床に倒れ込んだ私は呼吸でが激しく上下する胸と爆発するのではないだろうかと思うぐらいに脈打つ心臓の鼓動を聴きながら「自分が思う以上に体はこんなことでは潰れないんや」思う。

撮影:下野優希

 全てのグループが踊り終えた時に全員が疲労困憊ではあるが清々しい表情をしていたのが最後に印象に深くのこった。

 最後に今回のワークを通じて石井丈雄は「馬鹿になる」を伝えたかったそうだ。

不思議なワークを全力で馬鹿になりおこなう、全力で曲に乗って馬鹿になり踊り狂う。

「全力で馬鹿になる。」

 私自身、踊りに対して夢中になって踊り倒した経験は久しぶりだった。踊り以外でも幼少のころに夢中でで田んぼのあぜ道を走り回ったり、ザリガニを捕ったり夢中で徹夜をしてテレビゲームをしたりと今考えると「本当に馬鹿なことしていたなぁと」と思う経験があった。今の私は好きなことを行えている人生だと思うが、夢中になってやれているかと問われると、「馬鹿にはなれていない」のだと思う。

 理由は今回の石井丈雄のワークを通じて、簡素に説明された事への戸惑いから推測してみた。簡素な説明で十分なのに関わらず、説明が簡素だと感じるのは「考えて理解しようとしているから情報を頭で多く求めている」のではないだろか。情報過多の社会の中で育まれてしまった価値観/生活習慣なのかもしれない。情報過多の社会でどの様にしてこの状況を・・・あ。

 まさに現在レポートに仕上げている状態は受けたワークの内容を思い出してイメージを再び頭の中で巡らせて、自身体験や知識と組み合わせて文章にして他者に伝えようと夢中でパソコンのキーボードを打っている姿もまた馬鹿なのかもしれないとふと気がつく。

 最後に私は思う。夢中になれる瞬間を多く持ち清々しい表情になるためには、興味を持ち日々の出来事と向き合う意識が大切ではないだろうかと。夢中になれる出来事の機会を逃していないか、夢中になって日々の生活を見直そうと思う。そんなキッカケを貰えた石井丈雄のクラスだった。

 

ISMAERA(TAKEO ISHII)イスマエラ(石井 丈雄)France/フランス 

2012年からフランスに移住し、ヨーロッパで活動を始める。現在はキャロリン・カールソン、デヴィッド・ザンブラーノ、フランチェスコ・スカベッタ、ディディエ・テロン等の振付師のカンパニーでダンサーとして活動している。個人でもワークショップ・パフォーマンス等を世界各地で開催・発表している。踊りはアフリカン、ヒップホップ、コンテンポラリー、暗黒舞踏等の経験があり、独自の世界を模索中。

1_ys下野優希(しもの・ゆうき)

劇研アクターズラボ公演クラスで初舞台を踏む。その後「アクターズラボ+正直者の会」に参加。その間、体からの演技に興味を持ち、2010年より京都の暑い夏事務局主催の定期コンタクト・レッスン受講中、暑い夏は今年で5年目。現在京都の「正直者の会.lab」で活動中。http://syoujikimononokai-lab.jimdo.com/

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