2018年06月25日

〈C-3:川口隆夫〉クラス見学&インタビュー

 見学=4/27-5/6 インタビュー=4/30

 

 土方巽とともに舞踏を築いた故・大野一雄の踊りは、先行する魂に体がついていくという。頭で考えず魂で踊る彼の動きを、あえて完コピするというのが川口隆夫氏の『大野一雄について』だ。このワークショップでは、受講者も大野一雄氏の動きをコピーする。ワークショップが折りかえし地点に入ったころ、川口さんに今回のワークショップの目的をうかがうと、この作品はコピーする以外はなにもないし、決まったレシピはないと川口さんは言う。このワークショップでは、受講者とどうすればコピーが生き生きとするかを共有したり、コピーから得たものをもとに新しいものを作りだすような方向性を見つけられたりすればよい。コピー自体はミーハーなアプローチだが、やっていくうちにかんたんではないことがわかるし、そこを受講者にたのしんでもらえればいちばん、と話してくださった。

(撮影:菱川裕子)

最終日、講堂内はうす暗く、広い講堂はたくさんのガラクタと人でごちゃついていて、時空がつぎはぎになっているようだった。ショーイングを観ようと観客が集まり、ガラクタを囲むように壁ぎわに座っている。受講生たちは、映像を見ながら大野一雄の動きをコピーしたり、ただ座っていたりする。いつなにをするかは受講生たちに委ねられていた。言葉もなく、だれかの動きがべつのだれかに影響したり、交流したり、なんの意図もなく人と人が関わるような動きが生まれては消えを繰りかえす。あるところでは、ゆっくりと歩いている人に造花を渡し、別の場所では、脚立に座ってじっとしている人がいる。あらぬ方向に首を傾げ、いまにも膝から崩れそうな立ち方をする男性と彼に向かって風車を吹く女性は照明の当たり方や、男性は全身白い服で女性が全身黒い服を着ていて色が対比していることなど、いろんな偶然が味方しており、物語が切りとられこの場所にはめこまれたようだった。ガラクタで溢れる広い講堂で、床に座っている観客の目線から見えるものは限られている。きっとべつの場所に座っている人はべつの奇跡を見ているのだろう。パフォーマンスは二部構成に分けられ、川口さんの合図で一度休憩が入り、後半の即興のあと受講生同士が感想を言いあった。「自分の行動の取捨選択がクリアになった」「他者との関わりが自分の選択肢を変えるのがおもしろかった」など、受講生はどこかすっきりしたようすだ。受講生にとってガラクタを使い、自由に即興で動くワークはこのショーイングで3回目だった。最終日である緊張感とは裏腹に、このワークに対して慣れてきたようすもうかがえた。このワークをするにあたって決まっていたことは、けがをしたり壊してはいけない物を壊したりしないようにすることと、9日間で学んだことを生かすことだ。

(撮影:菱川裕子)

この9日間の学びで個人的に印象的だったのは、皮膚の感覚の捉え方と、他者との関係性を考えることだった。映像を見ながら大野一雄氏の動きをコピーしているとき、川口さんは受講生にたびたび「皮がパリっと揚がるように」や「皮膚が乾燥し浮いて剥がれてくるような」と声をかけていた。ウォーミングアップ中も肌に触れている部分を徹底的に意識するようなものが多く、じっくり自分に触れている部分の感触を味わったり、ぎゃくに激しくさすったりする。「体の細胞をひとつひとつ動かすように」と言われ、はじめ苦戦していた受講生たちは、しだいにゾンビのような動きをするようになった。首がまだ座っていない子どものようにうなだれ、不安定に揺れながら体をびくっと震わせる。映像と同じ動きではないのに、大野氏のように見えたのは不思議だ。またゴムを使ったワークで、他者の存在により動きが変化することを学んだ。長いゴムをみんなで動かすと、ゴムが複雑に絡まり、行き場がなくなる人が出てくる。そのとき川口さんは「全体との関係も考えて、もし問題が起きていたら、改善する動きをして」と声をかける。ぎくしゃくしていた動きに緊張感が加わり、さらにすこし動きがにぶる。このワークショップの感想を言いあっているとき「やっぱり他人のことも考えないとダメなんだなと思った」という意見が出た。川口さんは「他者や社会に制約されるということではなく、他者やルールのなかで自分の動きがどう変化していくか、ということを考えてみてほしい」と言う。そして迎えた最終日、他者の存在がどんどん個人の動きを促したり、関係性ができて物語のように見えたりと、あちこちで化学反応が起きた。川口さんのワークショップはつねに自由であったが、なにかに対するイメージや考え方が変わることで、よりみんなの動きが自由になった気がする。

(撮影:菱川裕子)

 

川口隆夫(東京/日本)
TAKAO KAWAGUCHI(Japan/Tokyo)

1962年生まれ、佐賀県出身。上智大学イスパニア語学科を卒業後、パントマイムを基礎にしたムーブメントシアター「ミーム」を学ぶ。1年間のスペイン留学から帰国して1990年、吉福敦子らとともにコンテンポラリーダンスカンパニー「ATA DANCE」を旗揚げ。96年からは「ダムタイプ」に参加。2000年以降はソロを中心に、演劇・ダンス・映像・美術をまたぎ、「演劇でもダンスでもない、まさにパフォーマンスとしか言いようのない」(朝日新聞・石井達朗)作品群を発表。他ジャンルのアーティストとのコラボレーションも多い。08年より「自分について語る」をテーマに『a perfect life』シリーズを展開。その Vol. 06「沖縄から東京へ」で第5回恵比寿映像祭(東京都写真美術館、2013)に参加。近年は舞踏に関するパフォーマンス作品『ザ・シック・ダンサー』(2012)、『大野一雄について』(2013)を発表。後者は16年秋の公演でニューヨーク・ベッシー賞にノミネートされ、18年現在も世界各地をツアーしている。最新作は『TOUCH OF THE OTHER – 他者の手』(2015 ロサンゼルス、2016 東京)、そして『BLACKOUT』(2018 東京)。
 その他、1996〜98年まで東京国際レズビアン&ゲイ映画祭(現・レインボーリール東京)のディレクター。英国映画監督デレク・ジャーマンの色についてのエッセイ集『クロマ』を共同翻訳(2002年、アップリンク)。

和田 華月(わだ かづき)

大学の卒業制作で小劇場演劇の観劇エッセイを執筆しました。コンテンポラリーダンスはときどきなにを観ているのかわからなくなるのがおもしろいです。

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