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【暑い夏17】“重さ”を意識して仮想空間を体感する ‐感覚と論理のダンスメソッド‐
2017年08月2日
ビギナークラス 5月1日/アビゲイル・イェイガー
アビゲイル・イェーガーさんのクラスは想像力を駆使して、自分の身体と空間との関係を感じながら動くワークでした。感覚的でありながら、とても論理的に構築されたその一連の流れは、彼女のダンスがどうつくられていくのかを追体験するようなワクワク感でいっぱい。
「ダンスのワークショップでは、“軽さ”を感じながら動くクラスも多いのですが、今日は“重さ”を意識してやってみましょう。」クラスの冒頭、アビゲイルさんはそう話しました。具体的には“骨盤と頭が重い”ということを意識し、“四肢はこれにぶら下がっている”と意識して動くことで“やわらかさが生まれる”というのです。私の中では“重いもの(骨盤や頭)=硬いもの”というイメージが強かったので、これは意外なことでした。でも、動いてみて『ああ、そういうことだったのか』と、すぐに納得しました。
先ずは骨盤の重さを感じながら動いてみました。足を投げ出してフロアに座り、重い骨盤をゆらゆらと揺らしていくと、反動で背骨が追従して上半身にも揺れが伝わっていきます。さらに揺れを大きくしていくと肩も追従し、ある時点まで揺れが大きくなるとゴロン、と身体全体が回転(笑)。まるでマジックですが、自然と出来ていきます。次に骨盤と頭の両方の重さを意識して動いていきました。頭を風船のようにイメージし、身体の中=頭と骨盤の間に空間があると意識して立つ(この時、手や足は頭と骨盤にぶら下がっていると意識)という練習をしました。
次に自分の皮膚をさすってみようとアビゲイルさん。片方ずつ、自分の腕をゆっくりなでて、このやわらかな感触を確かめます。今度は自分の周囲の空間を拭いていきます(ワイピングという言い方でした)。先ずは腕の表面で、次は腕の裏面で、というように身体のいろいろな場所で空間を拭いていきます。ここでは、空間と自分の身体がコンタクトする感覚を練習していたのだと思います。
次にトライしたのは、パートナーと行う身体構造や、コンタクトするやわらかな感覚を体感するワーク。参加者同士、ペアになる相手を見つけますが、先ずは“気楽に身体を動かせる”という感覚をつかむため、各自で手や足を片方ずつシェイク(振る)する動き。すごくシンプルなので誰でもすぐ出来ますし、参加者の表情も自然と笑顔に(動くことは基本的に楽しいんだなって実感できる瞬間です)。これが出来たら、今度は片足に重心を置いてシェイク。バランス感覚が必要なので、少し難易度があがりますが、楽しんでついていけました。そしてパートナーとのワークへ。1人が前を向いて立ち、その背後にもう1人が立ちます。背後の人が前の人の肩、背中、腰とトントンと叩いていくのに合わせ、前の人は背中をゆっくり前へと曲げていき(ロールダウン)したり、伸ばしたり(ロールアップ)します。仕上げは背中をパタパタと軽く叩き、両掌を背骨の中心から外側に向かってスッスとなでる。背中の真ん中くらいから両掌を上下にスーッとなでる・・・これが気持ちよくてうっとりなのですが、自分の身体が他者とコンタクトするやわらかな感覚を確かめ、身体の構造を確認する時間になっていました。ここで充分にリラックスした状態にもなっていました。
次は、全身は水をたっぷり含ませたンクをつけた筆とイメージして、自分を取り巻く空間の中にラインを描くように動いてみるというワーク。アビゲイルさんによると、緊張した身体はカサカサの筆と同じで、インクを吸い込んでしまってうまく描けないとのこと。リラックスした状態=水を含ませた筆という例えが興味深いと感じましたし、先ほどまでのワークがこのワークに繋がっている(論理的に展開されている)のだと実感もしました。
ワークの最後の仕上げは、ここまでのワークの集大成。自分を取り巻くキューブ状の空間に27のポイントがあると想定し、このポイントに身体のいろいろな部分でアクセスしていきます。27点というのは、自分がキューブの中央に立っているとイメージし、そこを起点とした27点。大きな面でいうと上面と下面、ここに自分のおへそ辺りに中間面があるとしているようです。方向でいうと前後左右上、そこに左斜め前、左斜め後ろ、右斜め前、右斜め後ろ。まとめると「3つの面にそれぞれ9つの方向点がある」となるでしょうか。
はじめの動きは右斜め前のポイントに右腕の表面でコンタクト、左腕の表面でコンタクト、というようにシンプルな動きですが、そこから先はパターンとリズム、速度といった要素が加わり、いよいよダンスの動きになっていきます。私はここまでくると少し追い付けなくなるので、動きを止めて周りを観察。頭で考えているうちは、こんな状態になってしまいますね(苦笑)。でも、楽しそうに動いている参加者を見ているのも、とても楽しいものです。
ワークの後に行われたアフタートークで、私はアビゲイルさんに「重さを意識することでやわらかさが生まれることが興味深かった。このメソッドを考えてきっかけがあれば教えて下さい。」と質問しました。アビゲイルさんは以前、トリシャブラウンカンパニーで踊っていたそうですが、トリシャブラウンでは重力の探求を行っていたとのこと(トリシャブラウンカンパニーの『マン・ウォーキング・ダウン・ザ・サイド・オブ・ビルディング』(1970)という初期作品は、ダンサーが命綱をつけて高いビルの側面を降りていくという作品だそうです!)。私たちは日ごろ、重力とともに暮らしていますが、その力と自身の身体がどのように関わっているのかは意識していないですね。ワークでは「意識して動く」「イメージして動く」ということを重ねていたように思います。この感覚で、日常を眺めてみたら…ヤバイ、踊りたくなってしまいますね(笑)。
亀田恵子
大阪府出身。工業デザインやビジュアルデザインの基礎を学び、愛知県内の企業に就職。2005年、日本ダンス評論賞で第1席を受賞したことをきっかけにダンス、アートに関する評論活動をスタート。2007年に京都造形芸術大学の鑑賞者研究プロジェクトに参加(現在の活動母体であるArts&Theatre→Literacyの活動理念はこのプロジェクト参加に起因)。会社員を続けながら、アートやダンスを社会とリンクしたいと模索する日々。
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