2017年08月2日

C1 チョン・ヨンドゥ

 

 京都国際ダンスワークショップフェスティバル(以下京都の暑い夏)のプレ・プログラムとして開催されたこの8日間の集中ワークショップは、ダンサー向けのアドバンスクラスでした。チョンさんのクラスをどうしても受けたかった私は、ほとんどダンス経験がないにも関わらず、まさに体当たりで参加しました。

 チョンさんは穏やかで優しい方ですが、ダンスを創る上では“静かな鬼”と称されるほど集中してダンサーを追い込みます。例年、受講したダンサーが一様に悲鳴をあげている姿を見ては、何か怖いことがそのクラスでは行われているのでは?と想像していました。無事に受講が終わった後、このクラスで体験したことについて、大藪ももさんと相互にインタビューすることにしました。

 



 

<ダンスを続けるなら音楽を勉強した方がいい>

 

「体育が面白くないのは、運動が出来る人が先生をやっているから」だと思っていた。出来ない子が出来るようになるためには、身体に関する知識とか教え方次第で、運動音痴はコツを掴めば解決できるんじゃないか。だから体育教師になりたくて大学はその道に進んだ。ダンスとの出会いは、大学の先輩から精神科でのボディーワークを頼まれた時、「ボディーワークって何?」ってなって、そんな時にタイミングよく明倫ワークショップでやっていた「森裕子のボディーワーク」に目が止まった。それが始まり。

※インタビューした大藪ももさん

 

チョンさんのクラスを初めて受講した記憶は2007年で、今回のワークショップの毎朝2時間ウォーミングアップでやっていたようなメニューをするボディ・コンディショニングのクラスだった。この頃は、ダンスを続けていくにはダンサーになるしかないと考えていた。2009年に受講したクリエーション&リサーチクラスは、ア行からワ行までの歌とフレーズをチョンさんが作ってきて、フレーズを割り振られて踊った。「あ~い~、あいうえお~」という節まわしは今でも覚えている。このクラスはオーディションも兼ねていて、私もエントリーしたけど、結局自分にはダンサーは無理だと思って諦めた。でも「ダンスを続けるなら音楽を勉強した方がいい」とチョンさんが仰ったので、そのあとなぜか三味線を始めた。どうして三味線かというのは、知り合いに三味線の先生を紹介してもらう機会があって、その時にその場で三味線を弾いてくれた姿がとにかく恰好よかったから。そんなことがあって、2015年はバッハの『ボロネーズ 管弦楽組曲第2番ロ短調』、そして今年とクラシック音楽を課題としたチョンさんのクラスを立て続けに受けたことで「カウントを分ける」ということが最初は解からなかったものの、解らないなりに何度も曲を聴いていると音の予測がつくようになった。三味線の先生がもともとエレクトーンも教えていて西洋音楽の理論も教えてくれたことも影響したと思う。「ここは休符が来る」「次のタイミングではこの音が来る」といった“音楽の地図”が見えるようになってきたことが嬉しかった。

※初日に渡されたカウントが記された譜面

 

 チョンさんのクラスを受け始めた10年前は、ダンスが一番楽しくて“踊ること”と“感情”が今よりも近くにあって「いま踊らなかったらいつ踊るんだ」という切迫感があった。今は「踊りたいと思えば踊れる」というように自分と踊りとの距離を持てるようになった。今回、当初は朝のウォーミングアップだけの参加にしようと考えていたのに、チョンさんや他の受講生から引き止められたから、もう腹をくくって「やるしかない」「できることはやろう」「せっかくやるなら自分なりに楽しもう」と考えて取り組んだ。集中して打ち込める環境や、皆と一緒に踊れたことは、結果的にとてもよかったと思っている。

 



 

 「自分が一番下手」と言いながら、ももさんは、とても冷静に、みんなの邪魔にならないように、と自分の役割をきっちり見極めた上でその場所に立っていました。気力も体力も集中力もいるハードなクラスでしたが、通過した人間にしか得られないものがあるのがチョンさんのクラスの魅力だと思います。

 

<今、自分にどの季節が訪れているのか?>

 

 ワークショップの期間中、二十四節気のことや作曲家、曲について調べてくるように課題が出され、調べたことや思ったことを皆でシェアする時間も設けられていました。クラスを紹介する文章には「自然には四季があり、人生にも四季がある」「今、自分にどの季節が訪れているのか?」という言葉が投げ掛けられていました。この8日間は、振付の型やカウントを覚えるだけで精一杯で、音楽をじっくり聴いたり、踊りのニュアンスを深める余裕はありませんでしたが、終わってみて初めて、それぞれの季節を、それぞれの想いを持って踊る、ことを求められた作品だったのではなかったか、と感じています。もちろんレパートリーを踊りこなすことは大前提ですが・・・。私は、踊りが下手なことや振りを覚えるのが遅いことで苦労したり迷惑を掛けたりするだろうなと思いつつ、それでもエイやと飛び込みました。それはいろんなことがあって、いろんな想いが積み重なってのことでした。他の受講生はどんなことを想って踊っていたんだろうか、聞いてみたかったと思いました。ダンスの、作品のことだけ考えた、二度とない8日間でした。



参考資料:4月27日開催のショーイング時に配布された資料より

チョン・ヨンドゥ クラス成果発表

2017年4月27日(木)19:00–20:30

会場:京都芸術センター(フリースペース)

 

「東の風が吹くとき」(2016)

<Music : Gorecki Strings Quartet #1>

振付:Jung Young Doo

出演:ワークショップ参加者

大藪もも、小倉笑、松倉祐希、山田知世、永井彩子、菱川裕子、福森ちえみ、米澤百奈(五十音順)

 

作品のコンセプトは、旧暦の7つの季節に基づいています。冬至、大寒、春分、梅雨、啓蟄などの季節に応じて着想されたここの動きを、単に音楽と同調するだけでなく、緊密な関係を維持し、構築していきます。

 

「自然には四季があります。人生にも季節があります。東風は季節の変わり目を意味します。身体が変化すると、心も変化します。今、あなたにはどの季節が訪れているのでしょうか?どこでどのような風が吹いているか、感じていますか?たとえば、子供と大人の間に訪れる季節。この作品は、季節が変わる瞬間のように、生活と体が変化する瞬間のための作品です。」

 

この作品の音楽は、ポーランドの作曲家Henryk GoreckiのStrings Quartet #1”Already it is Dusk”を使用しています。



 

1_JUNG YOUNG-DOOチョン・ヨンドゥ(韓国/ソウル)JUNG YOUNG-DOO

Doo Dance Theater 主宰。俳優としての活動を経て、韓国芸術総合学院で舞踊を学ぶ。2004年の「横浜ダンスコレクション・ソロ&デュオコンペティション」にて「横浜文化財団大賞」「駐日フランス大使館特別賞」を受賞。西洋的で高度なダンスメソッドと明確なコンセプトを併せ持つ中に、東洋的に抑制された繊細な動きを加えることで、新たな時間と空間を創造している。マレビトの会や青森県立美術館「祝/言」への出演、京都国際ダンスワークショップフェスティバルの講師、福岡での共同製作作品『baram 033°37’22”N 130°25’31”E』(2013)、『カラスとカササギ』、Dance New Air2014「Project Pinwheel」『報復』(2014)、横浜ダンスコレクション2016 のオープニングプログラム『無・音・花』の振付など、日本でも多くの支持を集める。現在、立教大学現代心理学部映像身体学科特任准教授。

菱川裕子

大阪府出身。大学時代は京都で過ごしました。暑い夏は5年目。江之子島文化芸術創造センターで催されたMonochrome Circusのワークショップに飛び込んだのがダンスとの出会い。踊っている人を観たり、撮ったり、話を聞いたりするのが好きです。

 

 

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