「なんだ、なんだ。この人は僕と考え方が全然違う！」と人が言う時、考え方という言葉の意味には、辞書によると２つの選択肢があるらしく、考え方という言葉を、考える「傾向」という意味で用いる場合と、それを考える「筋道」という意味で用いる場合とがあって、僕がチョンさんのワークショップを受けた直後のひとりごちは、もちろん後者のほうだ。うん。でも、なんだか釈前としないんだけどなあ。なんで？

　なんかダンスっていうと、ビートやカウントにのって、華麗にぐるぐるまわったり飛び跳ねたりする凄さとか、複雑な動きを素早くキレキレにやるパフォーマンス的な、視覚的

な魅力もあるんだけど、それとはまたちょっと違って、なんかあんまり聞いたことのない類の音楽でゆっくり動いてるコンテンポラリーダンスのほうが、なにか言葉に形容しがたい良さを僕はすごく感じて、っていうか、めちゃくちゃシンプルに楽しそうだと思ったので、やってみたいと思い、このワークショップに参加して、チョンさんの話を聞いているわけだ。それで、その日、チョンさんのいう通り体を動かしてみたり、感じてみたり、アフタートークなんかで話を聞いて、冒頭のようなことを思ったのだ。

　それで、まあ、その考え方っていうのが、つまり、「自分の体で考える」、ということなのだ。このワークショップでチョンさんが繰り返し強調していたことがあって、それが「重力を感じよう」と「呼吸を意識する」だ。そして、どちらもそれは「体で考える」ためには必須なことだ。

　だって、重力を感じるって、物理学のように方程式をこねくりまわしてうんぬんってかんじで、概念で、重力に対する性質とかを明らかにしていくタイプの「考える」とは全然ちがう。まったく。うん、そうそう。全然そんなことじゃなくて、もっと単純に、シンプルに。自分で実際に動かないと、体がないと、重力はかんじられないっていうことなんだ。もっというと、そこに集中するぞと意識をむけないと、体のどの部分がどう重力にひっぱれるかっていう解像度を高めることもできないわけだし、もちろん、呼吸も同じで、実際に呼吸して、動いて、自分の体を観察していかなければならないのだ。

　頭をつかって考えること、言語をつかって考えること。それって、動かなくても対象の分析ができて、けっこう癖になっちゃうやつで、あんまりやりすぎると、あれ、重力って本当にあるのか？みたいな禅問答チックなものになるんだろうけど、体で考える場合は動いたら、もう確実に重力、エネルギーの流れみたいなのがそこに「ある」わけで、呼吸で体が、なにかが、かわるわけで、それは確実なことなのだ。ちらっと、チョンさんが言っていたダンスを言葉で伝えることの危うさみたいなものもそれに関係あるんじゃないかなあ。

　･･･あれ、ちょっと待って。ああ、そうか。最初の違和感に気づきました。今、違い、に。

まさに、今この瞬間は、文章を書きながら、言語で考えているわけで、つまり「言語で”言語と体”について考えた」わけです。それって、私が「私とあなたの考え方の違い」について考えるってことに似てない？

　そう、僕がいくら「あなたの考え」を考えたって、それは僕の考えだよね。僕の考えが、あなたの考えになんて成りはしない。根本的に違うから。それは筋道が異なるわけじゃない。そもそもの立脚点が違うのだ。まさしく、その存在、方法自体が違うのだ。なるほど。つまり、第３の選択肢のようだ。方法それ自体。言葉と体もそうなんじゃないかな。言葉で理解をしたのか、体で感じたのかっていうその根本的な違い。うん。そんな気がする。

チョン・ヨンドゥ（韓国/ソウル）JUNG YOUNG-DOO 西洋的で高度なダンスメソッドと明確なコンセプ トを併せ持つと同時に、東洋的に抑制された繊細 な動きが彼の才能を裏付けている。Doo Dance Theater 主宰。韓国新進気鋭の振付家であり、韓国 を拠点に世界各地で活躍する。韓国でも多くの賞 に輝く他、「横浜ダンスコレクション・ソロ&デュオ コンペティション」にて、「横浜文化財団大賞」「駐日 フランス大使館特別賞」を受賞、フランス国立トゥ ルーズ振付センターにて研修する。’ 14 年は JCDN 国際ダンス・イン・レジデンス・エクスチェンジ・ プロジェクトにて福岡に滞在。現在、立教大学 現代 心理学部映像身体学科特任准教授。http://cp.rikkyo.ac.jp/support/prof/jung.html（KIDFホームページより）

中西一史（なかにし・かずふみ）普通の京大理学部６年生。Juggling Unit ピントクルに所属。舞台でジャグリングをする。芸名は中西みみず。お笑いとか、ホラー映画とか、卵を使った料理とか、好き。大好き。今回のワークショップで、ダンスにはまりつつあります。