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【暑い夏15】 C-2「Dance philosophy from Eric/エリックからのダンスフィロソフィー」
2015年07月1日
京都の暑い夏ダンスフェスティバル(京都国際ダンスワークショップフェスティバル)では、講師が惜しみなくダンステクニックや踊ることに対するフィロソフィーを伝えてくれると聞いていた。エリック・ラムルーのクリエイションクラスでは、ショーイングでの発表のために、講師から振りの提案がなされる。参加者はフェスティバルの10日間で動きを理解、発見しつつ作品を作り上げていく。エリックからは知覚へ集中する、ステップという規則を守り身体の持つエネルギーを力へうまく変換する、他者との関わりを感じ、そこから動きへとつなげるといったテクニックがどんどん伝授される。それとともに、彼はささやき声で指示を出したり、ペアで動きをあわせるために歌うことを要求したり、「La-la-la-laah!」と叫びながらステップを踏み、飛び跳ね、床を転がり、踊る。文字だけでは無茶苦茶でふざけているようだが、エリックの創作、動きの源はそこにある。彼の踊りのフィロソフィーはそういう形で私たちに共有される。エリックの開発する感覚、空間、身体の感じ方が共有できないと彼の求めるものが踊れないので、訓練されたダンサーも、彼が叫ぶリズムを口にしながら、必死でエリックのような身体の質を追いかける。
今回のショーイング作品では、振付や、タイミング、音楽と動きの連動は定められている。しかしそれだけでなく、身体に起ること、つまり自分の身体、他者の身体との関係性に目を向けることが重要になってくる。空間の中で上半身をねじってゆき、自然にバランスが崩れ、次の一歩が踏みだされる瞬間を待つ。ぎりぎりまで身体の変化を観察していると、踊っている自分が時間の流れを引き伸ばす感覚になる。身体構造、周りの環境の変化を感じ、次の反応につなげるダンスの美しさをエリックは自分の身体と言葉で伝え、気づかせてくれる。
弾力感のある透明な2メートルほどの長細い棒を持って6、7人がグループで円になるところから始まる場面がある。まさに身体の内と外を意識して動かなければ、棒自体が壊れてしまう。呼吸をして、視界を広げ、両手の棒で相手とつながっていることに意識が向き始める。手の握る力加減や手のまわりの空気が感じられてくる。どこからかやってきたゆれが私にも伝わり、腕が揺れる。一方の腕に起った反応が身体の中を通り抜けていき、もう一方の棒にも伝わっていく。腕から胴体、ひざへと緩みと緊張のバランスがとれた身体に自然に動きが生まれてくる。揺れるなかでバランスが崩れそうになるときに足が一歩を踏む。踏み出した一歩が次の一歩につながって、空間の探索が始まる。空いている空間を埋めるために走っていったり、棒のつながりに導かれて空間を横切らなければいけないときもある。走っている瞬間、視界はぼやけるが身体に受ける風が感じられて、棒がつっぱる具合にとても敏感になっている。棒を気にしていたのに、足が止まると急に、つながっている相手が見えてくることもあり、お互いがつながっている棒とまわりの空間に集中していることを感じることもある。
ショーイングのあと、観客と感想をシェアする時間で、棒でつながれている場面がライフヒストリーのようだと言った人がいた。初めは個々のつながりが均等で、グループが家族のように見える。グループが動き出し、つながりは保ったまま絡み合う。そのつながりが外からは見えなくなるくらいに混ざり合って、最後には個々がより大きなまとまりになっていく人生(Life)のように見えたという。踊っているときはそのような意識はなく、身体に起ることに正直にあろうとしただけだが、道具や展開、ダンサーが身体に向かう態度から観客は意味を読み取っていく。踊る側と見る側の違いが自然に発生していた。こういうことが振付の規則からはみ出してくる身体性を重視するコンテンポラリーの面白さなのだろう。
私が哲学をやっていて、おもしろい言葉に出会った。フィロソフィー(philosophy)のphilo-はギリシア語で愛、-sophyは知識、学を意味するという。哲学は愛の学なのだ。まさにエリックのフィロソフィーは、ダンス、身体、そして私たちダンサーへの愛をもって伝えられた学だった。クラスで誰よりも元気なエリックのエネルギーをもらうおかげで、毎日クラスが終了して家に帰ってもしんどさを感じず、エリックの踊る姿を想い起こしては自分のステップを確認していた。暑い10日間が終わって、日常が戻ってきても、エリックがわけてくれたフィロソフィーは生き生きと私の中に残っている。
エリック・ラムルー (フランス/カーン)ERIC LAMOUREUX カーン国立振付センター芸術監督。カンパニー ファトゥミラムルーをエラ・ファトゥミと主宰。た身体能力に裏付けられた大胆なムーヴメントと、高い音楽性に支えられたロマンティシズム、実験精 神に富んだオリジナリティーの高い振付で、’ 90 年 バニョレ振付家コンクールをはじめ 、アヴィニヨン 演劇祭、リヨンビエンナーレなどで注目を浴びる。 ’99 年フランス政府派遣アーティストとしてヴィラ 九条山に滞在。「芸術祭典・京(」‘99)「コーチング・ プロジェクト(」’04 京都芸術センター)の他、本フェ スティバルでオーディションを行った日、仏、コンゴ 3カ国共同製作作品『just to dance』など日本にも 縁が深い。フェスティバルやレジデンス活動を通じ て、アフリカやアジアの若手育成も行っている。(KIDFホームページより)CCN de CAEN http://www.ccncbn.com/
小泉朝未(こいずみ・あさみ)
大学院で身体表現について哲学研究をしています。コンテンポラリーだけでなく、アフリカンダンス、即興で踊るのが好き。踊ること、表現すること、知覚することをどう言葉にできるか考えています。
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