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【暑い夏15】 C-1「『ダンス』と『私』は切り離せない。」
2015年07月1日
私はダンサーではありませんが、踊りが一体どのように創られるのか、それを知りたいと思って参加しました。わずか2日間の受講でしたが、なぜ形式を作るのかといったことや、動きはどうやってダンスになるのか、など、ダンスについてたくさんの考察を得たように感じました。
ワークショップが始まる一週間ほど前、バッハの「BWV1067 ボロネーズ 管弦楽組曲第2番ロ短調」という曲を覚えてくるようにとの課題が出されました。ソナタ形式を持つこの音楽を分析するところから、ダンスを創作することを学ぶクラスでした。
クラス初日は参加できませんでしたが、宿題が出ていました。それは1,2,3,4,1,2,1,2,3…と自分の思う拍子で曲を区切っていくもので、何通りにもできる楽しい作業でした。私はクラスの2日目から参加しましたが、その日は区切った拍に振り付けをあてるという課題があらたに出されました。そしてルールとして以下のようなことが提示されました。
アンシンメトリーであること。普通にターンするだけや、ただ立っているだけでは駄目で、少しのデザインを加えること。反復はこれに少しの変化を加えること。声や感情、演技は排除し、純粋な動きで勝負すること。
また、動きのスタートポイントとエンドポイントを明確にすることも付け加えられました。これは発音がクリアでないと何を喋っているのかが伝わらないのと同じで、動きがあいまいだと観客には伝わらないことと、もうひとつ、コンディションは日々同じとは限らないので自分の助けにもなるということでした。
さらにチームに分けられ、2m四方の中、ストレートラインのみを使う、前か後ろか横かつねに一つの方向だけを使う、直線の上だけで、など、空間の使い方のルールがチームごとに加えられました。
制約(ルール)をいくつも挙げられ、まるで暗いトンネルの中に入り込んだ気分でしたが、正面から課題を受け止めて実践すれば、確実に成長するということはわかりました。けれど、それを約一週間という短期間のうちに実行していくのは、至難の業のように思われました。
クラス3日目。チョン先生は、動きのエネルギーが90~100%の力んだ表現になっているので、もっと音楽のニュアンスを体に通すこと、拍と拍の間の動きにアクセントを入れること、などを課題として挙げていきました。そして、観客が印象に残る動き、キーとなる動きは何か、という問いを投げかけられました。ダンスで何を見せたいか。観客はただ振り付けを見るのではなく、「ダンス」と踊っている「私」を見るのだ、ということでした。
クラス4日目は見学でした。この日は各自出来ているところまでを発表しました。チョン先生は、1つの動きで完結するのではなく、動きをどうやって繋げるか、また音楽の中に閉じ込められず、どうやったら音楽と親しくなれるか、などの改善点を挙げていきました。さらに「自分の未来のために簡単な方法は選ばないでください」と。昨日まで一緒に受講していた私からは、いっぱいいっぱいで、もうやるしかない状況に受講生が追い込まれているように見えました。そこで、野田さんと川上さん二人の受講生に今の感想を聞いてみることにしました。
二人とも昨年のクラスも受講していて、昨年と比較すると「音楽があってルールがあることで、ゴールが見えているから創作する作業が苦痛ではない」と意外な答えが返ってきました。昨年はA・B・C・Dと振りを作り、様々な組み合わせを考えてダンスを創作したそうです。野田さんは、ビジョンなく作ってしまった振りを最後まで使わなければならず、行き先が見えず制作が難しかったようですが、今年はその人の基準で踊りながら創っていけるので、やりたい踊りやあるべき作業が見えていて、一手一手積み重ねていく感じだと言っていました。川上さんは、チョン先生が出したルールの上にさらに「ナンバ歩き」というルールを組み込んでダンスを創りこんでいる様子でした。自分の基準が説明できるようになってきた、と言っていました。
また二人は、体を純粋に動かすだけの、他のクラスを受けているからこそある刺激も影響していると言っていました。頭だけで考えるのではなく、身体を通すことで生まれてくる動き。観客の目に留まる動きは、どれだけその人の中でクリアか、とイコールではないだろうか、と。あいまいさをひとつひとつ確かめ、形を知り、身につけ、ブラッシュアップし、ダンスが生まれていく。二人の話を聞いていて、知りたかったことの答えが、見えてきたように思えました。
そしてショーイングの日、発表を前にして受講生の大藪さんに声を掛けてみたところ、また違う答えが返ってきました。「ルールがあって、振りを決めてしまわないといけないところが苦痛で我慢がいった」と。参加した理由を尋ねると「苦手なものを克服するために参加した」ということでした。でも途中でやめないでよかったとも。その姿は達成感に満ちていて、とても羨ましく映りました。
ショーイングでは、発表者22名と5グループの計27回も同じ曲が流され、この一週間の濃密な時間とは裏腹に、流れるように過ぎ去っていきました。観客の印象に残るという一点においては、ダンスの上手下手はあまり問題ではなかったように思います。チョン先生が課題に出したひとつひとつが、いかに重要であるかが垣間見えたように思えました。観客にどこまで「ダンス」と「私」を残せたか。受講生の皆が暗いトンネルを抜けた瞬間を目撃しましたが、ここが目的地ではなく、いかに課題に向き合ったか、それぞれの通過地点のようなクラスでした。
チョン・ヨンドゥ(韓国/ソウル)JUNG YOUNG-DOO 西洋的で高度なダンスメソッドと明確なコンセプ トを併せ持つと同時に、東洋的に抑制された繊細 な動きが彼の才能を裏付けている。Doo Dance Theater 主宰。韓国新進気鋭の振付家であり、韓国 を拠点に世界各地で活躍する。韓国でも多くの賞 に輝く他、「横浜ダンスコレクション・ソロ&デュオ コンペティション」にて、「横浜文化財団大賞」「駐日 フランス大使館特別賞」を受賞、フランス国立トゥ ルーズ振付センターにて研修する。’ 14 年は JCDN 国際ダンス・イン・レジデンス・エクスチェンジ・ プロジェクトにて福岡に滞在。現在、立教大学 現代 心理学部映像身体学科特任准教授。http://cp.rikkyo.ac.jp/support/prof/jung.html(KIDFホームページより)
菱川裕子(ひしかわ・ゆうこ)大阪府出身。2012年にコンタクトインプロビゼーションのワークショップに参加したことからダンスに興味を持ち、京都国際ダンスワークショップフェスティバルへの参加は今年で3年目になる。
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