2009年06月5日
う 前のお話で、ピーピング・トムの作品の背景になることを、ポストパフォーマンストークで説明してもらって、腑に落ちたよね、って言ってたけど、やっぱり作品について、少しガイドがあると助かるよね。神戸女学院大学舞踊専攻の第3回公演(2月27日、神戸女学院大学エミリー・ブラウン記念館スタジオA、西宮)で、教授の島崎徹さんがいろいろと楽しくお話してくださった中で、最後の作品『The Triumph of Love』(振付=デヴィッド・アール)の冒頭に出てくる男(グラハム・マケルビー)が十字架に磔になったイエスで、女がマグダラのマリアだ、と説明があって、ずいぶん手助けになった。
く うん。それ以外の見方、解釈ができないものかと考えながら観てみたんだけど、構成的にも表情も、この2人はどう見てもイエスとマグダラのマリア以外の、普通の男女や母子の関係では説明できない、決定的な隔たりの存在をふまえた信頼や畏敬、愛があるように感じられたね。
う ミッションスクールだからということもあるのかな、特にこの作品に出演していた3回生の皆さん、表情がキリリと引き締まって、潔い美しさにあふれてたように思ったよ。
く 丁寧に踊ろう、という気持ちがあふれていたしね。舞台人として、表現者として、成長してきたということじゃないのかな。
う 今回はアトリエ公演ということで、いつも授業で使っている練習室に客席をしつらえて、そこで5日間も公演ができるという恵まれた環境。舞台人は本番で成長する、って言うけど、去年は兵庫県立芸術文化センター、今年はアトリエと、すごい経験をさせてもらってるよね。アトリエ公演は1年おきにするそうだから、来年はまた芸文センターかな。
く 楽しみだね。あと、今回は島崎作品が2つ、他は専任教員の村越直子さん、客員のオーウェン・モンタギュー教授、そしてトロントのマーサ・グラハムが創設したカンパニーから招聘したデヴィッドさんの作品だった。いろんな人の振付で踊れないといけないという考えもあって、こういうメニューになったようだけど、やっぱり島崎作品の強さと深さは、気持ちよかったね。
う 一つ目の『Patch work』は、元は島崎さんがベルギー王立バレエ団に振付けたもので、それを1、2回生がみごとにやり遂げてしまって、島崎さん自身びっくりしたと言ってたね。ミクスカルチャーの中の、盆踊りを創りたい、ということだったそうです。
く 爪で地面をコツコツ叩くモチーフが印象的で、ゆったりたっぷり、生き生きと踊ろうと懸命だったのがよかった。光と薄闇のコントラスト、6人のダンサーが2つに3つに分かれるフォーメーションの美しさ……群舞の面白さが満載で祝祭的な喜びが感じられたね。何より楽しそうだったのがいい。新田博衛先生の、何よりもダンスを観るということは楽しいことなんだ、という声が聞こえてきそうだった。一人ひとりのダンサーを見ると、もう一段、腕を肩から出すとか、しっかり伸ばすことができたら、もっとダイナミックになるのに、と思ったところもありました。
う まだ1、2回生だから……。
く そうなんだけど、そういう留保を感じさせないレベルだったんだから! 学生だからこんなものかな、っていうふうに観る感じじゃなかったんだよ。
う 祝祭的っていえば、きたまりさんを中心としたKIKIKIKIKIKIの『OMEDETOU』(3月3日、京都文化博物館別館ホール)がよかったね。
く 旧日本銀行京都支店という会場もすばらしかったんだけど、きたさんはたくさんの見せ場を次々と作るのがうまいね。それでいて散漫にならず、一つひとつの場面を十分に楽しめる。
う 次々と展開する場面に気を取られて見入っていたから、全体の流れはよくつかめてないんだけど、きたさんの印象的なソロ、4人のダンサーの激しい取っ組み合いみたいな動き、黒い衣裳から1人だけウェディングドレスに着替えた女性の男性ダンサーとの絡み、チェリストのソロ、ちゃぶ台を舞台に仕立てて次々と全員がインプロっぽいソロ、と流れるような組み立てで、ほんとに楽しかったよ。
く うん。冒頭から速度のある大きな動きでお客さんを引きつけたことと、流れるような組立てにしたのが、よかったよね。そういう、お客さんを飽きさせずに自分のやりたいことをガンガン提出していくサービス精神を基にした貪欲さというか、ずうずうしさというか、もちろんいい意味で言ってるんだよ、そういうものが見えるから、すごい爽快感があると思うんだ。また観たいね。
う ライブの音楽もちょうどいい上品な感じでした。
く 演奏の質は高かったし、これまた楽しかったね。ただ、横長の舞台で、音楽家がシモ手にいたのに、スピーカーを普通に左右両端に置いたものだから、カミ手に座っていたぼくたちには、シモ手で演奏している音がカミ手から聞こえてきて、違和感があったね。
う 最初、録音かと思っちゃった。せっかくの生音だったのに。
く あと、お互いあんまり得意じゃないというか、専門的なことを知らないからあまりふれたくないんだけど、バレエでもすばらしい公演がいくつもあったね。
う うん。まず、石井アカデミー・ド・バレエの『葵上』『game』(振付=石井潤。3月7日、京都府立府民ホール アルティ)が最大の収穫じゃない?
く そう、ちょっと興奮した。まず新作の『葵上』だけど、三島由紀夫の「近代能楽集」の『葵上』を下敷きにしているから、伝統的な能楽をふまえたものではないんだけど、寺田みさこさんの六條御息所、中田一史さんの光源氏、中村美佳さんの葵上、そして看護婦たち(植木明日香、石井千春、夏目美和子)のアンサンブルで、まず物語があまりにリアルにわかることに感動しちゃった。振付もすごいし、寺田さん、中村さんの表現力がすごかった!
|
|
う 葵上がやられっぱなしかと思ったら、何だかすごい迫力だったよ。特にベッドの上でシーツを巻きつけてか、きれいな三角形に身体を収めたところがあったでしょ。堂々とした気品があって、「私は光の正妻よ!」みたいな感じで六條を、そして光を圧倒する。いわゆる地を払うような威厳があったね。中村さんは、2003年まで新国立劇場バレエ団のソリストを務めた方。石井さんが新国のバレエマスターでいらした時期(’97~’04)とほぼ重なっています。
く 寺田さんもやっぱり強いねぇ。今回は、妖しさ、艶めかしさ、そしておどろおどろしさが満開で、特に黒手袋を光や葵上に掛けるところなんか、手袋が妖力を持った黒髪のように見えた。一つひとつの動きに意味や感情があることがきっちりと見て取れたような気がするよね。
う こわかったよね。別にマイム的な表現がたくさんあるわけじゃないのに、動きとフォーメーションで関係や感情が手に取るようにわかる、というのは新鮮な体験だったね。『game』は再演。京都芸術センターの初演が大好評で、噂になってた作品です。
く 舞台一面に芝生のマットを敷いて、ブランコを吊るしたり木を生やしたりと、まず舞台美術で驚いたね。別の空間になったみたいで。客席から「ワァーッ」て声が聞こえた。
|
|
う とてもきれいな空間を作って、なのに、のっけからダンサーが艶笑小話みたいなのを語ったり、全員自己紹介したり、セーラー服と学ランで総踊りとか、どうなることかと思った。コンドルズ? みたいな。
く 何でもありで行くのかなと思わせて、お客さんの壁を低くしたよね。後は、笑いの要素やエロティックな連想を織り交ぜながら、ダンスの可能性を次々と繰り出していく。ソロ、デュオ、トリオ、群舞と人数をうまく使った構成力も見せて、御前試合の場面ではコミカルな仕掛けでたっぷりと笑わせ、男女のラブシーン(「女と男」)に続いて少女が闖入する場面(「女と男と女の子」)ではますますコミカルにエロティックに、身体の組合せのバリエーションがどんどん豊かになって行ったし。
う 人数の違いによるバリエーションといえば、「2009洋舞スプリングコンサート~コンテンポラリーとの出逢い…」(2月28日、新神戸オリエンタル劇場。兵庫県洋舞家協会主催)に面白い作品がたくさんあったね。ソロでは、「ダンスの時間」でも観た関典子さんの『刮眼人形』、貞松・浜田バレエ団の竹中優花さん『Lost, then Found』(振付=森優貴)がきっちり世界を作って、ソロなのに大きな空間を支配できていたように思った。関さんは小さな空間でももちろんすごかったんだけど、こういう大きな空間で初めて観て、空間というか空気が放射状に広がっていくことを感じられたね。
|
|
く 舞踏家の和栗由紀夫さんの原案というかコラボレーション作品の一部ということだから、バレエ、コンテンポラリー、舞踏といろんな要素が組み合わさっているんだけど、全体には一貫して張りつめた空気が流れていて、見ごたえがあったよ。群舞では、安田バレエスクール7人の『プロコフィエフ舞曲』(振付=安田宇都美)、江川バレエスクール9人の『ALL IMPERFECT THINGSより』(振付=湯川麻美子)がよかったね。まずダンサーのレベルが高いのと、振付がとても洗練されていて、カンパニーとしてのベクトルがきっちりそろってるように思えた。それから村瀬沢子バレエスタジオの7人の子どもたちによる『エチュード』(振付=石田種生)、子どものエチュードというにはテクニックも高度で、時間も長いものだから、技術と体力が半端じゃないと思うけど、よく最後まで緩まず踊りきって、しかも楽しそうだったのがいいね。
う うん、ダンスって楽しいんだ、っていう「踊る喜び」が伝わってきた。ほんとはしんどかったかもしれないけど。プリマの杉浦沙苗さんはじめ、立派だったね。兵庫県だけじゃないと思うんだけど、バレエ団、バレエダンサーが創作作品にすごく意欲的に取り組んでて、かなりのレベルに達していること、あまり知られてないんじゃないかな。広く発表する機会も少ないよね。発表会で大曲の前座みたいに使われるだけではもったいないし、そういう意味で、面白い企画だった。お客さんの入りが今いちだったのがもったいないけど、ぜひ続けてほしいな。
く 構成力といえば、アントニオ・ガデス舞踊団の『フラメンコ組曲』(3月7日、兵庫県立芸術文化センター)もすごかったね。芸術監督のステラ・アラウソもすごかったけど、男性ダンサーのアドリアン・ガリアのソロ、2人のデュオ、男性だけの群舞、女性だけの群舞、男女全員の群舞、とフォーメーションのバリエーションがいろいろで、ただただカッコいいのとか、ドラマティックなのとか、迫力とか、いろんな楽しみ方ができる。
う うん、もう、ゾクゾクしちゃった。あのね、あるスペイン人の神父さんが、青年時代フラメンコの名手だったそうなんだけど、叙階してフラメンコは踊らないと心に誓ったんだって。
く どうして?
う 神様を忘れるから。この日もアンコールというかエピローグというか、みんなが中央に集まって、何が始まるかと思ったら、ダンサーが手拍子して、歌手の人たちが踊るのね。それが何だかすごく味があって、素敵なの。まさに神様が降りてるっていうか、違う空気になったような気がしたよ。
く 踊ることが、生活と共にあるっていうか……KIKIKIKIKIKIのちゃぶ台のダンスにもちょっと似てたね。
う 存在と共にある、って言ってもいいかもしれない。何だかうらやましくなっちゃった。
神戸女学院大学音楽学部音楽学科 舞踊専攻第3回公演『Words from afar』 2009年2月25日(水)ー3月1日(日) 神戸女学院大学エミリー・ブラウン記念館スタジオA
出演:神戸女学院大学音楽学部音楽学科舞踊専攻生
振付:David Earle、Owen Montague、Toru Shimazaki、Naoko Murakoshi
KIKIKIKIKIKI新作ダンス公演『OMEDETOU』 2009年3月3日(火) 京都文化博物館・別館ホール(旧日本銀行京都支店)
演出・振付:きたまり
ダンス:野渕杏子、花本ゆか、松尾恵美、竹内英明、きたまり
演奏:PAO【亀田真司(sax)、ヨース毛(cello)、宮田あずみ(piano)、ヨコチャン?(violin)】
石井潤ダンス・パフォーマンス『葵上 aoi no ue』『game』 2009年3月5日-6日 京都府立府民ホール”アルティ”
振付・演出:石井潤
出演:石井アカデミー・ド・バレエ
「2009洋舞スプリングコンサート~コンテンポラリーとの出逢い…」 2009年2月28日(土) 新神戸オリエンタル劇場
出演:今岡頌子・加藤きよ子ダンススペース Kobe Ballet Studio 馬場美智子バレエ団 安田バレエスクール 江川バレエスクール 貞松・浜田バレエ団 藤井喜代子バレエ研究所 大垣バレエスクール 田中俊行バレエ団 村瀬沢子バレエスタジオ 河合美智子 関 典子
主催:兵庫県洋舞家協会主催
アントニオ・ガデス舞踊団『フラメンコ組曲』 2009年3月7日(土) 兵庫県立芸術文化センター
芸術監督:ステラ・アラウソ
出演:アントニオ・ガデス舞踊団
うーちゃん:演劇や宝塚歌劇が好きな、ウサギ系生命体。くまさんに付き合って、ダンスも見始めた。感性派。小柄。
くまさん:コンテンポラリーダンスが好きなクマ系生命体。最近、古典芸能にも興味を持ち始めている。理論派。大柄
produced by 上念省三(じょうねん・しょうぞう)
演劇、宝塚歌劇、舞踊評論。「ダンスの時間プロジェクト」代表。神戸学院大学、近畿大学非常勤講師(芸術享受論実習、舞台芸術論、等)。http://homepage3.nifty.com/kansai-dnp/
-
- ■2017.8.9
【暑い夏17】Attack the dance... - 仕事を終えて、電車に駆け込み、電車を乗り継いで京都四条にある京都芸術センターに到着する。この瞬間から私の京都国際ダンスワークシ........
- ■2017.8.9
-
- ■2017.3.3
【公開研究会】「老いを巡るダンスドラマトゥルギー」... - 京都造形芸術大学<舞台芸術作品の創造・受容のための領域横断的・実践的研究拠点>2016年度 共同研究プロジェクト 『第1回 ........
- ■2017.3.3
-
- ■2016.8.25
「わたしは、春になったら写真と劇場の未来のために山... - コンテンポラリー・ダンスを中心とする気鋭の若手作家たちが、2012年から3年にわたりDANCE FANFAREという刺激的な交........
- ■2016.8.25
-
- ■2016.4.10
【募集】ドキュメント・アクション 「京都国際ダンス... - 「京都国際ダンスワークショップフェスティバル2016」で、今年もドキュメント・アクションの活動メンバーを募集しています。 昨年........
- ■2016.4.10
-
- ■2016.3.12
祈念のため集える場所〜劇場はどうでしょう... - 祈念の日が近づくたび、身の置きどころのなさを感じます。劇場を出て現場の行為者、せめて目撃者になるべき出来事に心を動かされながら........
- ■2016.3.12
-
- ■2016.2.14
Lim How Ngean "What Price... - 俳優やダンサーが舞台の上で行う「表現」を「労働」の層で捉え直す作品が充実してきている。チェルフィッチュの初期作品、村川拓也の『ツ........
- ■2016.2.14
-
- ■2016.2.5
【講演】舞踊における時限的な場所としてのアーカイヴ... - ”記憶芸術”の興隆や記憶と記録をめぐる社会的な議論を踏まえ、記憶遺産の創造的利用によりめざましい成果を上げているドイツのパフォ........
- ■2016.2.5
-
- ■2015.4.26
5月2日,3日 ダイアローグ★パーティ 開催... - 20回目を迎えた京都国際ダンスワークショップフェスティバルの自主活として、ランチタイムに講師のダンス映像を見ながらダイアローグ★........
- ■2015.4.26
-
- ■2015.4.18
まわしよみ新聞≒ドキュメント... - 〈ドキュメント・アクション〉では、ダンスのドキュメンテーションに複眼であたるため、様々な立場でダンスにかかわる人の目と手を必要........
- ■2015.4.18
-
- ■2015.4.18
京都の暑い夏ドキュメント・アクション【募集】... - 20周年を迎える〈京都国際ダンスワークショップフェスティバル〉が4月17日(土)から5月17日(日)まで一ヶ月........
- ■2015.4.18