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【暑い夏14】身体を観察するためのたくさんのヒント

2015年04月15日

 先日、京都芸術センターで上演された Monochrome Circus×Wee 国際共同製作 『Surprised Body Project  KYOTO』 を観劇した感想を書いてあったので引用する。
 マーシャルアーツのように少し前傾した姿勢、少ししゃくり上げる骨盤の立て方が印象的で、ずしりとした身体の重さが伝わってくる。重力の身体への働き、その反作用、振付、ムーブメント、モメンタムが作用し合い、身体内で強弱大小に起こるオン・オフバランス、ダンサー同士にも引力・斥力が働き、空間が伸縮し、空間に濃淡ができる。眼に見えないエネルギーのやり取りがダンスになっていて、スポーツを見ているのような感覚になる。全編見ないとわからなくなる公演ではなかったので、観客それぞれに退屈に感じる時間があり、集中する時間があり、能動的に観劇できて、それも良かった。

 

 私はちょうど3ヶ月前に、このように書いていた。

 

 受講した感想を書いていく。

彼の身体は格闘家かと思うぐらい大きく、丸い。足首と膝、腰はは少し緩くかまえ、丹田のあたりから上をほんの少し前傾し垂らしていて、薄い甲羅を背負っているみたいだ。しかし、身体がだらっと重力に引っ張られている訳ではなく、最適なエネルギーで身体を立てている。

 彼のクラスではフロアワークが多く、それらはとても難しかった。見るからに彼は脱力していて、瞳孔まで脱力しているのか、眼がとろんとしている。彼の身体の中を運動が流れていくのがはっきりと見えて、それは彼の体の中になにか生き物でもいるのか魔法か!と思うぐらいだった。形を真似しようとしてもうまくいかず、どんな原理で動いているのかが想像がつかなくて四苦八苦した。

 

撮影:下野優希
撮影:下野優希

 彼がよく使う言葉に「relax」「pulling」「pushing」「reaching」「charging」というのがある。ほとんどの動きは「relax」の状態で行われていて、力を抜ききって腑抜けた状態ではなくて、いつでも動き出せる状態にある「最適に脱力する」ことが彼の言う「relax」だと思っている。この「relax」が本当に難しい。息を吐きながら全身の力を抜いてみてもらうとわかると思うけど、日常の動作の中でも無意識に力んでいるのがわかると思う。そのときにズーンと身体の重さを感じたら、それが脱力している状態だと思う。脱力している身体は重い。ワーク中では、力んでしまって動きが流れていかないところがあると、力んで息を吐きながら力を抜くというのを繰り返しやってみたり、叩いたりもんだり、ストレッチをしたりして、脱力する感覚を探していった。うまく「relax」していると、力みや引っかかりを感じずに動くことができるのが実感できた。
 次は、「pulling」「 pushing」について。フロアワークでは床を押し引きするということになるけど、床を押す、引くっていうのはどういう感覚なのだろうか。床をへこますことも、持ち上げることもできない。身体を動かすために床を使うってことだけど、これも難しい。まずは、「relax」の状態で身体が床に触れている部分を意識していった。身体の重みを感じながら、圧力がかかる場所を移動させていく。このときにも、力んでしまう瞬間があるので、呼吸を意識して脱力し、骨の位置関係も意識する。すると、体重が移動することで、身体をいろいろなところが連動して動いていくのが感じられた。身体の重さと、骨格を意識することが「pulling」「pushing」ではとても大事なことだと思う。
 「reaching」「charging」についても、「relax」の状態でいることがとても大事だ。「pulling」「 pushing」は自分の重さ、重力、床との関係で始まる力の働きについて焦点があたっているけど、「reaching」「charging」は、自分の重さ、重力、骨格と筋肉、身体のなかから生まれる力の働きに焦点が当たっていると思う。片手を挙げて、「relax」の状態を探す。指先が空を刺していくように伸びていって、力んだら呼吸をして緩める、伸びるを繰り返していくと、骨の間が伸びる、骨の位置がずれていく感覚があると思う。その力と遠心力を使うのが「reaching」なのかなと思う。「charging」は、「relax」状態である部分にエネルギーがたまっている状態。彼のワークだと、丹田や腰部がよく使われる。バスケットのシュート前の状態をイメージしてもらうとわかりやすいと思う。身体の部分部分を少し畳んで、ぐっとエネルギーをためる感じが、「charging」なのかなと思う。

 

 彼のワークの中で、「力を使って」と「力が働いて」の違いについて、考えさせられた。万有引力と地球の自転による遠心力、身体には重力が作用していて、筋力や骨格を使って反作用の力をつくっている。だから、いつでも「力が働いて」いる状態で、「力を使って」身体ををコントロールしている。様々な人が様々な表現で、例えば、身体の重さを使うとか、空に引っ張られるイメージとか、大地に立つなどは、「力の働いる」こととの関係について語っていたんだなと思う。それは眼に見えないけれど、絶対に存在する物理的な作用で、原理なのかなと思う。そして、その「力が働いて」いることに能動的にいる状態が「relax」で、「relax」していて、身体の中を力、エネルギー、フローと呼ばれるものが最適なルートを通っていっている状態が、最初に書いた「魔法の力」なのかなと思う。

 間接や筋肉が連動して動きを伝播させるためには、筋肉や皮膚の柔らかさ、呼吸と脱力の関係、自分の骨組みを知ることが大切になってくる。そのためには、身体の物理的知識だけでなく、視覚や聴覚、触覚からの情報、身体の中の水(管の中を流れる、したたる水、水の入った風船)をイメージすることや、ほかにもイメージの方法はたくさんあると思うけど、イメージや意識と身体との親和性を探ることは非常に大切で、身体の内外を観察し続けて、そこにダンスを探求することへの面白みとがあるのではないかと思うようになった。

 

撮影:下野優希
撮影:下野優希

 無意識に力を使っていることに気づけたこと、脱力を継続することの難しさ、常に「力が働いて」いること、意識やイメージと身体の関係などの、10日間のワークショップで感じたことは、これからダンスを続けていく上で、非常に重要で、楽しみなことだ。こんなにわからないことがたくさんある状態は、ダンスを始めたてのときの感覚に似ている。

 一年間鍛錬して、また来年も受講したい。

prof_francesco フランチェスコ・スカベッタ (ノルウェー/オスロ)FRANCESCO SCAVETTA MPULSTANZ (オーストリア)や、P.A.R.T.S(ベルギー)、MTD(オランダ)など、主要なフェスティバル、大学、ダンス機関等で引っ張りだこのカッティング・エッジな振付家。ノルウェーとスウェーデンを拠点にダンスカンパニーWee を率い、これまでアメリカ、ヨーロッパなど27 カ国をツアーしノルウェーを代表するカンパニーとなる。ヴェネチア・ビエンナーレで初演されたミクストメディア作品『Live』から、アブストラクトで即興的な『Surprised Body Project』まで幅広い作品群を誇る。そのムーヴメントは、リリーシング・テクニックやコンタクト・インプロヴィゼーション、そして太極拳などをバックボーンに独自の言語を開発している。(KIDFホームページより)

辻本佳(つじもと・けい)

1985年生。5~20歳までは柔道を学び、大学在学中にダンスを始める。2009-2013フランス、カーン国立振付センターが製作する『Just to dance』に出演 最近は、武道の身体訓練に興味有

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