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【暑い夏14】E「新しい言語を創造すること…自分を踊ること。」

2014年08月5日

E  ビギナークラス 5月4日(日) コンテンポラリー・ダンスの多様性をまさにコンセプト的にも地理的にも満喫できる、イントロダクション・クラス。世界の第一線で活躍する講師による様々なスタイル、考え方のダンスに触れることができます。ダンスには興味があるけど敷居が高かった方、身体全般に興味ある方、アカデミックな関心のある方、世界のダンスに肌で触れたい方、ただただ動きたい方、それぞれの切り口で飛び込んでください。



1_JUNG YOUNG-DOOチョン・ヨンドゥ(韓国/ソウル)JUNG YOUNG-DOO西洋的で高度なダンスメソッドと明確なコンセプトを併せ持つと同時に、東洋的に抑制された繊細な動きが彼の才能を裏付けている。Doo Dance Theater主宰。韓国新進気鋭の振付家であり、韓国を拠点に活躍している。韓国でも多くの賞に輝く他、「横浜ダンスコレクション・ソロ&デュオコンペティション」にて、「横浜文化財団大賞」「駐日フランス大使館特別賞」を受賞、フランス国立トゥルーズ振付センターにて研修する。’14年はJCDN国際ダンス・イン・レジデンス・エクスチェンジ・プロジェクトにて福岡に滞在予定。現在、立教大学 現代心理学部映像身体学科特任准教授。(KIDFホームページより)

 

<ロジカルシンキング+哲学×自分らしさ>

 フェスティバルのスタッフさんから、「チョンさんのワークショップを見学してみては?」と勧められ、チョンさんのクラスを見学してみました。フロアでは参加者がいくつかのグループごとに集まり、何か話し合っています。ノートを見ながら説明したり、実際に動いて説明したり…。ダンスのワークショップというには、少しおとなしい感じ。メモを取っていると、知り合いのダンサーさんが声をかけてくれて、このクラスが今何をしているかをほんの少し知ることが出来ました。例えば自分で考えた「A」という動きと、「B」という動きの必然性を考えた上で融合させる。これを「A+C」「A+D」「B+C」「B+D」というようにさまざまなパターンで検討するそうです。1 つ1 つの動きに自分なりの必然性がなければAもBも再現できませんし、融合するときに曖昧になってしまう。ロジカルに感覚を整理していきながら、参加者それぞれが自分の身体言語を作り出そうとしていると感じました。他には、これまでの生涯で印象に残る5 つのシーンを絵に描き、絵の中の本質のみを抽出して取り出し、自分が苦手な動きやあり得ないと感じていることを使って動きにしていくということにも取り組んでいるとのことでした。2 つのワークに共通しているのは「自分がどう感じ、どう考えたかを動きにする」ということでしょうか。普段意識することのない記憶をさかのぼり、常識とは反対にあるものからアプローチする…非常に深く繊細な作業をしていたんですね。

<作業場そのものが作品>

 会場の端っこで、参加者の様子をみていると興味深いことに気が付きました。グループディスカッションが終わって各自でのクリエイションに移行すると、はじめはノートを見る人、動いて確認する人など、バラバラな動きだったのですが、時間が経つにつれて参加者の動き方が1 つの波のように同期していくのです。ノートを見たり書き込んだりして動かない時間、動いて確認する時間、また考え込む時間…というように。誰も示し合せたわけではないのに、その場に流れる思考の時間が1 つの生き物のようにうねり出してくるように感じられて、おもしろいなと思いました。

<ダンスは他のアートとどう違うのか?>

 チョンさんのワークショップは、チョンさんの本質的な問いかけで深みを増していきます。各自のクリエイションのあと、チョンさんは参加者を集めてご自身が書いたテキストを参加者のひとりに代読させました。そのテキストには「ダンスが他のアートとどう違うのか、ダンスにしか出来ないことは何か、言葉で説明出来ることをなぜ踊りにする必要があるのか、新しいとは何か、今自分が考えている新しさは本当に新しいのか」など、問いを受け止めるものにとってはアイデンティティの核心を問われるような深さがありました。「ダンスとは言葉で理解しているものの向うにあるものを表現する行為であり、感じる芸術であるということ。自分が感じていることが(自らが生きた時間の蓄積によって)何より明確で正確なことであること。」そんなことが語られていました。過去の自分の中に眠るイマジネーションを検証し、信じ込んでいる常識を違う角度から見つめなおす。自分が感じることを掘り下げ、必然性を探究する…どれも身が引締まるような真摯なワークでした。


<新しい言語が創造される場>

 ワークの様子を眺めていて感じたのは「新たな言語の創造」ということでした。言語は人の記憶と時間の蓄積の中でシステムとして統合されてきた記号です。例えばある果物をみて「リンゴ」だと理解するのは言語が人の共通システムとして存在しているから。でも、踊りでリンゴを表現する場合はどうするのか?リンゴというものから引き出される記憶やイマジネーション、それに紐づく自分独自の感覚、そうしたことを使って探っていくのかも知れません。身体という書体を使い、そこからほとばしる力のようなものが踊る人の必然として見る人に伝播していく…まったく新しい言語が創造されている、そのように感じました。  深く繊細なワークのたった1 日しか見学出来ていないので、どれだけそこにあるものを見つけることが出来たかは分からないのですが、それでも心震えるような体験が出来たと思います。五感に働きかけ、深く考えることを促すチョンさんのワークは、ダンスを通して真摯に生きるためのレッスンでもあるようです。

jpgArts&Theatre→Literacy 亀田恵子(かめだけいこ) 大阪府出身。2005 年、日本ダンス評論賞での第1 席受賞をきっかけにダンス、アートに関する評論活動を開始。会社 員を続けつつ、時々ワークショップに参加。アートやダンスを社会とリンクしたいと模索する日々。

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