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【暑い夏14】C-3 「Travel 2」

2014年06月15日

 折り返し地点の4月30日水曜日に差し掛かった時点で、自分自身の体に嬉しい予想外の変化が現れ始めたのに気がつく。後半に差し掛かり疲れも溜まり体が辛い状態になっていくと覚悟していたのだが、”過不足のない力でスムーズに動ける”、”体が軽い”といった変化が起こり始めていた。なぜなのかを考えると、私は初めエリックのクラスは全般を通してダイナミックな動きにまず目がいきがちで疲れる印象が強かった。しかし実際は常にエリックはアップの振り付けでも「脱力しておこなうように」と注意を促し、ショーイングの振り付けで激しく手を振るわせる動きでも「呼吸を止めないで脱力して」と注意を促していたのだ。エリック自身の手本も全て脱力された体で過不足がない力で行われていた。今までのワークを振り返ると全てダイナミックな動きを力ずくで行うのではなく、いかに激しい動きを脱力して、自然に呼吸をしながら行えるかがエリックが求める”大切な動きの質”なのではないだろうかと思った。一方体の状態が良くなるのとは逆に精神は初めて本格的なダンスのショーイングに出るプレッシャーが増し始め、ナーバスな精神状態になっていた。ナーバスな精神状態は体にも悪い影響を及ぼし始めたのだが、体の状態が思いのほかに良く、完全に緊張状態に飲み込まれるような状態にはならなかった。自分の体に意識を向けて集中すると状態の良さに安心感を得て、精神状態を安静に導いていたぐらいだった。

 ラスト3日間はショーイング用の振り付けも全て伝えられ、ランスルー/通しを行った。毎回エリックは通し後に「悪くない」「良かった」と皆に伝え、「I Propose・・・」(私は提案する・・・)と言って全体にも個別にも、より各ダンサーの動きが良くなるように丁寧に助言をくれた。エリックの受講者に対する接し方はを「I Propose・・・」という言葉からも分かるように受講者を一人のダンサーとして尊重し、共に作品を作ろうという姿勢だった。ダンサー個々の動きの隅々までを感じて、全体を感じて振り付けを調整し作品を仕上げる姿が深く心に残っている。そして時折、疲れからクラスの雰囲気が淀み出すとすかさず、ジョークを交えて雰囲気をぱっと明るく変えていった。常に周りは明るくし、安心感をあたえる、しばしギラギラし過ぎで暑苦しいと思うこともあるが、原動力であるダンスを楽しんでいる姿がいつも会場にあり、煌々と燃える太陽のように私の目には映っていた。

 5月6日火曜日、午後20時頃、呼吸は穏やかでいてでも少し速く、鼓動は早くもなく遅くもない一定のリズムを刻む、肩に力が入っているのに気がつき大きく深呼吸を1回、吐く息と共に力すがーっと抜けていく、体全体を覆っていた圧力は深い海の底から浮かび上がるように緩み始め、張り詰めるのでもなく、たるむのでもない程良い緊張の圧力が体を包み込んでいるのに気がつく。程良い緊張に包まれた体でショーイングの始まりを告げる音が響き出すの待つ。  かすかに、始まりの音が響き出し私の体に届く、反応する体はすでに会場にある。五感で感じられる全ての情報を呼吸で酸素を自分の体に取り込むかのように止まらず自分の体に取り込んでいく、目に映る自分の体、共演する他のダンサーの体、観客の体、会場の構造、光と影、耳に届く自分の呼吸の音、周りのダンサーの呼吸や動きの音、スピーカーからの音楽、体に伝わるねじり上げた腕のによって収縮する筋肉の動き、足の裏で掴んだ汗と床の質感、腕の内側で触れる空気の流れ、自身の体から波紋が広がるようにして空間全体を感じるイメージが湧いていく。空間を味わって得た情報は反応する体に流れ込み、振り付けへと繋がっていく。ショーイングのラストは一度静まり再び、ゆっくりと踊り出す構成。静まって動き出しを待っていた体は曲のキッカケを感じるとすぐに反応し、一瞬激しく動き出した、激しい動きに気づきすぐにゆっくりとした動きに戻したが、予想外に動きたがっていた自分の体に驚きつつ、思考より先に反応しているのだと気がつき少し嬉しくなった。嬉しくなりつつも体は空間を感じ、反応し続けた。終わりの時は近づき、少しずつ動きが収まっていく、最後は再び自分の体と丁寧に向き合い「すー、すーんっ、すー」と穏やかな呼吸、「ドクドクドクドク」とまだ少し早い鼓動を聞きながら終わりにたどり着いた。

 

撮影:下野優希
撮影:下野優希

 4回目の暑い夏が過ぎ去った。私が舞台に関わり始めて7年目、コンタクト・インプロヴィゼーションと出会って4年目になる。駆け出しの頃は何も分からずに無我夢中で進んでいた。気がつけば経験を積み、ベテラン組と呼ばれるようになってきた。最近自分の中で良い意味でも悪い意味でも”慣れ”を強く感じ始めていて、体についてだと感覚がぼやけてしまい明瞭さを失い、でも「こんな感じだろう」と体を動かせば何とか出来てしまう状態だった。ばやけた体の状態に違和感を感じつつも、解消する術がなく迷いも生まれていた。そんな日々を過ごしていると今年の暑い夏の時期が訪れた。今年は何を受講するか選ぶ時にふと「今回はエリックのクラスに挑戦したいなぁ」と思った。直感だったと思う。でも”挑戦したい”気持ちを大切にしたかった。今回の直感は見事に的中。自分自身が慣れたと思っていた体の感覚、状態で対応出来る範囲のものもあれば、対応出来ない範囲のものがまだあるのだと気がつけた。自分で全てに勝手に慣れたと思い込んでいただけだった。当然だと言えば当然なのだが新しい環境に身を置く”挑戦”を自分自身が意外と最近していなかったから、気がつかなかったのだと改めて思う。そしてクラスの中でエリックが「この空間を旅してください」と言っていたのを思いだした。まさに新たな空間、環境に旅に出かけるとは、”新しい挑戦”ではないだろうか。旅に一歩踏み出せば、ただ反応する体でその場に居ると自然と反応が生まれる。一瞬一瞬で体も感情も変わり続けて、一瞬の反応から生まれる変化を楽しめるかどうかが舞台で踊り旅する時、そして人生を旅する時に大切な心構えなのかもしれいと思った。

 11日間の旅を終えて、楽しすぎてぼやけた体はどこかに置き忘れてきてしまったようだ。今は新しい体と新たな歩みを始めている。「さぁどこへ行こうか」

 

撮影:大藪もも
撮影:大藪もも

 最後にラストまで旅を温かく見守ってくれたエリック・ラムルー氏と共に旅をさせて頂いたダンサーの皆さまにこの場を借りて感謝の言葉を送りたいと思います。 本当にありがとうございました。

prof_ericエリック・ラムルー (フランス/カーン)ERIC LAMOUREUX カーン国立振付センター芸術監督。カンパニーファトゥミラムルーをエラ・ファトゥミと主宰。優れた身体能力に裏付けられた大胆なムーヴメントと、高い音楽性に支えられたロマンティシズム、実験精神に富んだオリジナリティーの高い振付で、’90年バニョレ振付家コンクールをはじめ、アヴィニヨン演劇祭、リヨンビエンナーレなどで注目を浴びる。’99年フランス政府派遣アーティストとしてヴィラ九条山に滞在。「芸術祭典・京」(’99)「コーチング・プロジェクト」(’04 /京都芸術センター)の他、本フェスティバルでオーディションを行った日、仏、コンゴ3カ国共同製作作品『just to dance』など日本にも縁が深い。フェスティバルやレジデンス活動を通じて、アフリカやアジアの若手育成も行っている。 (KIDFホームページより)
1_ys下野優希 (しものゆうき) 劇研アクターズラボ公演クラスで初舞台を踏む。その後「アクターズラボ+正直者の会」に参加。その間、体からの演技に興味を持ち、2010年より京都の暑い夏事務局主催の定期コンタクト・レッスン受講中、暑い夏は今年で4年目。現在京都の「正直者の会.lab」で活動中。 http://syoujikimononokai-lab.jimdo.com/

 

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