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【暑い夏14】C-3 「Travel」

2014年06月15日

 4月26日土曜日、午後6時15分頃、呼吸が浅く、早くなり、鼓動がドクドクドク小刻みに響く、久しぶりに緊張している自分に気がつく。深い水の中で全身に強い圧力が均等にかかったような感覚が覆う、目の前にある手が自分の手ではないようなぼやけた少し嫌な感覚。久しぶりの緊張に包まれた体で挑むのが京都国際ダンスワークショップフェスティバル2014(以下暑い夏と表記)のエリック・ラムルーのクリエイションクラスである。

 私は普段は役者として舞台で活動をしている。今から2010年にセリフの前の段階にある体からの演技に興味を持ち”体のことはダンサーに聞くのが一番だ”と思い立ち、2011年の暑い夏に参加。以来毎年参加している。始めの3年間は主にビギナークラス、暑い夏に参加する各講師陣が日替わりでダンス初心者に向けて行う講座に参加していた。ビギナークラスは毎年、京都芸術センターの1階にあるフリースペースが会場になっており、同じ時間帯にちょうど真上の2階にある講堂からいつも、大音量の音楽と”バタバタバタバタ”と凄まじい足音が聞こえており、毎年上ではどんな激しいダンスが行われているのだろうと想像を膨らませていた。そして最終日にはショーイングがおこなわれている。初めて観たエリックのショーイングはラストに一人の女性ダンサーが自分と周りの空間を繊細に感じながらソロを踊っていたのが印象的だった。2作目は女性と男性がテーマで男女がお互いの所作を取り入れた振りがユニークな作品だった。3作目は私は力強く空間を断ち切るようだと感じた振り付けと繊細なパートナーとのやり取りが印象的な作品だった。3つのショーイングを通してエリックの作品からは”力強さと繊細さ”の2つの反するものが私には伝わってきた。私は繊細な部分にいつも興味が湧いていた。今回は”力強さのなかの繊細さ”が混在する空間に飛び込んでみようと思った。

 初日、まずは床に寝転がって自分自身の重さを実感し、床へと重さを預けていくと同時に各筋肉の緊張を見つけて解していく脱力から始まった。次にフロアームーブメントへと繋がっていった。エリックが実際に動きの手本を見せてくれる。エリックはまるで床の上を泳ぐようにゆるやかに動いていった。私は自分自身の体で動きを再現しようと試みるが、思うように体が操作できずに遅れるばかり、何度も何度も繰り返しておこなったが、なかなかコツが掴めないままに時間だけが過ぎていく。最後に今回のショーイングについてエリックより説明があった。「テーマはない、ただ5個のリズムを使って作品を創る」という。最後に1つ目のリズムの曲の一部を聞いて初日が終了した。

 

撮影:下野優希
撮影:下野優希  

 2日目以降は本格的にフロアームーブメントから立って行うアップ用の振り付けへ段階が進んでいった。アップ用振り付けの動きは私には早くてなかなかついて はいけなかった。どうすればよいか考えて試みた行動が”エリックの呼吸を感じる”、”見ることに集中する”の2つだった。1つ目の”エリックの呼吸を感じ る”は、私が現在活動する演劇の稽古場で呼吸と体の関係に注目して稽古を行っていたから試みた行動である。振り付けの手本を見せるエリックは常に喋りなが ら、声でリズムを刻みながら動きの説明をしている。”喋る=呼吸”が常にスムーズ行える体の状態なのではないだろうかと思った。実際に動きの中でエリック の呼吸を追っていくと、動きに合わせて呼吸の長さと速さが異なるとわかり、動いている時の呼吸を自分自身が再現すると呼吸にあわせて体の動きに変化が現れ た。今まで繋がらなかった動きと動きのつなぎ目がスムーズに繋がった感覚が何度かあり、振り付けを身に付ける糸口になるのではないかと思った。2つ目の” 見ることに集中する”は私は振り付けが不慣れなので見る作業と動く作業が、自分自身が同時に行える容量を超えているのではないかという発想からで、同時に 行っている作業を分解し、動きを一旦止め負担を下げて、まずは見て動きを理解することを優先させようと考えたからである。負担を下げてじっくりとエリック のアップ用振り付けの手本をよく見ると、大きく胸から広げられた右腕は右半身に動きが伝わり同時に骨盤にも伝わり、右足を大きく踏み込む一連の動作になっ ていた。動きながら見ていた時は「初めに腕が横へ開く、次に足を踏み込む、次は・・・」と動きを個別に捉えていた。これではまるで、操り人形のように手や 足がバラバラに動いてしまいスムーズに動けないのではないかと思った。自分自身の状態を把握して、負担を下げたから見えてきた”一連の流れとしての動 き”。ここからは一連の流れとして動きを捉え、自分の体だとどんな風に流れるのか、動きの流れの道筋を見付ける作業だと思い何度も動きを繰り返し練習をし た。試行錯誤の結果は何回かに1回、始まりからの動きが途中まで繋がった。繋がった時の感覚は頭の中で体に指示を出す感じではなく、常に動きが体の中を繋 がって行くのを感じ続ける感覚だった。でもふと「動きはあってる?」と不安になって確認しようものなら動きの繋がりが”ぷっつり”と途切れてしまった。再 び、エリックの呼吸に耳を傾け、自分の呼吸にも耳を傾け振り付けへと挑む。

 

撮影:下野優希
撮影:下野優希

 クラスが3日目、4日目と中盤を迎えた頃に印象深い時間が訪れた。今回ショーイングの冒頭に行う振り付けの動きが印象的で、具体的には両足ぴったりとくっつけて立ち動かず、そこから徐々に体を揺らして、上半身へゆっくりと小さな動きを伝えていく、ゆっくりと小さな動きは腕へと続いていき最終的には体全体でゆっくりとした動きを行う振り付け。エリック曰くイメージは”Steam”だそうだ。

 そしてSteamの振り付けは重要なので、動きの練習を連続20分間を2回行い、合計40分間おこなうことになった。始めは正直「20分を2回も!」と驚いたが、実際に始めると風がサッと駆け抜けるように時間は意外に早く過ぎていった。

 練習が始まって私の場合は、まず必要な力のみで脱力して出来るだけ真っ直ぐに立った状態になる。それからまず自分自身の体を聞く、感じていく。具体的には足の裏でちゃんと床を捉えて自分の体重を支えている状態を感じ、次は立っている状態で自然に生まれてくる”揺れ”を感じていく、私の場合はこの揺れが全ての動きの始まりになっている。揺れは波紋が広がるようにゆるやかに体の中心から、指先へと体全体に広がり、体の様々な場所で新たな小さな流れを生み、小さな流れを感じて反応し始めた体が動き始める。時折エリックから「呼吸をするように」と注意が全体へ伝えられる。呼吸へと意識を向けると体の動きの流れと関係するようにして呼吸にリズムが生まれ、呼吸につられて体が動くこともしばしば起こり始める。十分に自分の体を感じたと思えたら、視線、視界を周りのダンサーたちへ向ける。動く姿、表情、呼吸を感じ取り始めると体は反応して新たな動きが生まれる。視線、視界は空間へと広がり天井の正方形のグリッド、シャンデリアのような照明の飾り、窓枠のレリーフ、カーテンのシワのそれぞれの輪郭に合わせて体が動き出したりと、1つ1つを感じて受け入れていくイメージが生まれる、そして光への意識も生まれ、自分の腕に当たった光の陰影の変化を視覚で追うと新たな動きとなり、床に反射した照明の明かりが自分自身の動きによっても常に変化する。体は周りの変化する空間を感じるたびに再び新しい動きと出会いそして動きが続く。全くその場を動いていないのに講堂全体を丁寧に見て回り旅をしたかのような濃密な時間を過ごせた。

 同時に暑い夏は折り返し地点を迎えようとしていた。

「Travel 2」へ続く・・・

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