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【暑い夏14】D-2 水になるということ

2014年06月15日

 “WATER”。これはノアム・カルメリが第1回目から最後の10回目まで言い続けていた言葉だ。そして、私がコンタクト・インプロヴィゼーションのクラスに参加している時に最も意識していたことでもある。

撮影:下野優希
撮影:下野優希

 第1回目のクラスで、ノアムはペットボトルに入った水で私たち人間の身体を表現してくれた。これは私にとって非常に分かりやすく、このおかげで自分の身体へのイメージがつきやすくなった。水は速く自由に流れるけれども、決して重力に逆らわない。そんな水が私たちの身体の約70%を占めていると考えると、私にもそのペットボトルの水のような動きができる気がした。しかし、難しかった。特に動くとどうしても余計な力が入ってしまったり、頭で考えてしまったりして、水にはほど遠い自分がいた。自分の身体を聞くために、身体を動かしてみたり、逆に何もしなかったり、わざと力を入れてみたり、抜いてみたりする。そして人とコンタクトしたり、一人で楽しんだりしていく中で、少しずつではあるが自分の中のWaterを身体で感じられるようになってきた。私は特に一人で何かしている時よりも、人とコンタクトしているときのほうが感じやすかった。例えばRock and Waterのワークだ。これは2人組で行うワークで、1人が岩、もう1人が水の役割を行い、水が岩の上や横を通り抜けるようにするワークだ。私が水の役割の時は、岩の形に対してどう流れることができるか、岩の役割の時は水がどこをどういう風に通るのかに意識を向けた。両方の役割を行ったからこそ、自分の身体と相手の身体をしっかり聞くことができ、相手に触れているところからエネルギーを感じるようになった。リフトで上に乗っている時も、力を入れず、重力にただ従うことで、自分の身体の水が相手の身体にまですっと行き渡るイメージができた。そんなイメージができた時は本当に気持ちよく、おもしろかった。

 私はコンタクト・インプロヴィゼーションを始めてまだ4カ月ほどしか経っていないので、重力を感じることや、自分の身体を聞く、相手の身体を聞くということを、頭で分かっていても身体や心では理解しきれていない部分があった。しかし、気持ちいいと感じることができた時は、身体の内側から「聞くこと」を実感できた気がする。

 私たちはよく考えることはするけれども、感じることはしていない。コンタクト・インプロヴィゼーションを始めて、初めて気付いたことだ。ノアムが「直感を大切に」とおっしゃっていたことにも奥深さを感じた。そしてコンタクト・インプロヴィゼーションは私の知る何倍も奥深いものだとも思った。毎日違う感覚があって、毎日新しい発見がある。たとえ同じ人とコンタクトをしたとしても、感じ方は毎回違っておもしろい。初めての人と組み、その人を知る。その人から新しい自分を知る。その繰り返しで毎日が新鮮だった。

 踊る中で、自分に合う人、合わない人はもちろんいるのだが、それを分かるのに多くの時間を必要としないことが分かる。ほんの数秒間一緒に踊ることで相手のことを分かってしまうコンタクト・インプロヴィゼーション。コミュニケーションダンスと呼ばれる意味が少し実感できた気がする。私はパートナーと踊っているときに、私の頭の中に「こっちに動きたい」「気持ちいい」「なんか合わないな」といったような相手の声が入ってきたように感じるときがある。そういうときが増えれば増えるほど、コンタクト・インプロヴィゼーションがますますおもしろくなった。

 毎日が驚きと発見の日々で、楽しかったり、たまに居心地が悪かったりしたけれども、そういうときも、自分の身体の新たな気づきのきっかけとなっていった。学んだことが多いと感じる一方で、まだまだ知らないことも、感じていないことも多いと思う。ただ、あの空間にいれたこと、コンタクト・インプロヴィゼーションを密にできたこと、たくさんの人に出会えてお話できたことが、本当に幸せなことだと思う。ノアムが教えてくれたことや、周りの人に気づかせてもらったことを、ひとつひとつ自分の内で確かなものにしていきたい。京都の暑い夏が終わった今、またあの空間に戻りたいと強く思う私がいる。

prof_noamノアム・カルメリ (イスラエル/テルアビブ)NOAM CARMELI 建築家を経て、武術家(合気道)、ボディーワーカー、そしてコンタクト・インプロヴァイザーとして活動している。イスラエルの即興グループOktetの創設メンバーで、ヨーロッパでの活動も精力的に行っている。現在イスラエルのCIアソシエーションの総監督、及びイスラエルコンタクト・インプロヴィゼーションフェスティバルのオーガナイザーを務める。CI、合気道、GAGA、イラン・レヴ・メソッドを学び続ける中、ムーヴメントの探求と融合、そしてコミュニティーの形成に積極的に臨んでいる。(KIDFホームページより)

畑山畑山朱華(たはけやま・しゅか) 1992年大阪生まれ。武庫川女子大学 健康スポーツ科学部4年。高校からストリートダンスにはまる。大学の村越直子先生からCIを知り、今年1月頃からWSに参加している。

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