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【暑い夏13】 C-1 柔らかい集中力
2013年11月10日
過去に、何度も京都に来ているエマニュエル・ユインのクラス。通称「京都の暑い夏」に参加して、6回目になるが、彼女のクラスを受講するのは初めてだ。
今回のテーマは、「相手に成る」ということ。舞踏家笠井叡氏との共作『Spiel』(英語で、game)で扱われた「相手に成る遊び」に触れた。クラスの始まりに「third place」ということについての話を聞いた。僕自身が理解できていないので、うまく言葉にできないのだが、互いに相手に成ろうとする過程で、自分でも相手でもない状態にあるときの意思の在処や、ある空間における2人以外のものやそれらとの意識上の交点にのようなものだと思っている。
今回のクラスも、彼女の研究の過程にあるもので構成されており、彼女の世界を体験した。
●相手になるワーク
初日は、1人のダンサーが1分間ほど即興で踊り、それをみんなが再現するということをやった。最初の数回は、10名ずつの3つのグループに分かれて、順番に再現していった。グループが進んでいくにつれて曖昧だった部分が明確になり、踊りが正確なものに近づいていった。各回の最後のグループでは、不思議な一体感とともに、バラバラに踊られていたものが振り付けられたユニゾンように再現されていた。バラバラの記憶を寄せ集めることで、元あった形に戻されるのは、非常に興味深い現象だと思った。しかし、このワークではある人の踊りを正確に再現するということが目的ではなかったみたいで、グループ分けが無くなり、ある1人のダンスを見たら「すぐに全員で再現する」という形に変更された。
私は、完璧に再現することは出来ないだろうなと思った。同時に、訓練された言葉の読み書きのように、他人の動きを身体を使って読んで書きしましょうということが、非常に魅力的な提案だと思った。しかし、手がこう動いて、座って、立ち上がったら目線をこういう軌道で動かして・・・と覚えようとしても、すぐ忘れてしまうし、映像として記憶しようとしても、多くを記憶しておくことができなかった。印象に残っていたいくつかの動きをたどりながら、記憶にある動きを身体におとしていった。
受講者は、口々に「あー、むずかしい!!」といいながら、ワークに取り組み、初日が終わる。
3日目あたりから最後まで、1対1のワークを主に行われた。
●おしゃべりのワーク
相手の発する声、言葉を追跡していき、追う側と追われる側は、任意で変わることができる。言葉を使っているので、「そろそろ変わりましょうか?」なんてことも言える訳だが、それで交代できるかどうかは分からない。「そろそろ変わりましょうか?」と返されてしまう。
最初は、正面に向き合って、相手の発している言葉を追っていく。耳は相手の声にだけ集中し、目は相手の口や身振りを観察する。「相手の真似る」ことに焦点が当たっている身体は、喉や顎の筋肉、身体全体が普段よりも緩く構えていて、普段踊るときとは、違った状態になっていた。
私が組んだ相手は、自分のことをしゃべるというよりも、「今日は少し寒いですね?」とか、「元気ですか?」とか、常に僕に語りかけてくる感じだった。その問いかけには答えずに、彼女の声を追い続けた。慣れてくると、相手の声と自分の声との間隔が小さくなってくる。会話の内容によっては、次が予測出来きてきて、相手の声と私の声がシンクロしている瞬間があって、語尾(ですね、ですよー、ですかなどは)相手より先に言ってしまうときもあった。声が「そろう」ときの一体感は、気持ちのいいもので、すごく親密さを感じるものだった。
このワークの中で、「交代する」のは簡単なので、「交代が起きる」のを待つために、不安そうな彼女に申し訳ないと思いながら声を追わせてもらった。真似ることに慣れていき、意識的に返していたことが反射的になってくると、自分の意識は視覚と聴覚に集中し、他の部分の感覚は曖昧な感じになっていた。ずっと真似をしていると、だんだん頭の中が空っぽになっていって、自動的に真似しているような状態になった。催眠にかかっている状態は、こんな感じなのかもしれない。あるときに、自分は全く意図していないのに、相手の問いかけに答えてしまい、はっと我に返った。言葉にするのが難しいのだが、自分の考えていることや、目や耳から入ってくる情報が今までと違って色鮮やかに感じて、すごく不思議な感覚でした。
それからは、このワークが続けられていく中で、みんなが色んなことを試していった。横・縦並びで、背中合わせで、色々な距離で、動きながら、踊りながら、全部まねながら、タイミングをずらしてみたり、鏡合わせになったり、気持ち良い距離と気持ち悪い距離を探したり、見えない相手を想像したり、動きをまねながら話して、話すのをまねながら動きはリードすることを試してみたり、2人の間に生まれてくる色々な関係性ををじっくりと観察していった。その間には、互いが何も発しない時間もあって、どちらも主導権を持っていないあやふやな状態も興味深い時間でした。
●playとplayback
中休みがあけてからは、再び動き、ダンスから相手に成るというワークをやった。仮にペアをAとBとすると、まずAがフロアに出て、Bのために踊る(play)。次にBが、見たものから影響を受けて踊る(playback)。相手の動きをそのまま真似ても、動きから感じたことを素材として別な動きをしても良い。これを、交代で繰り返す。最終日までの5日間は、ほとんどがこの要素を使って行われた。繰り返しワークを行う中で、参加者とディスカッションをし、エマはplay、playbackの始まり方や終わり方を変えたりというように、少しずつワークの内容を調整していった。この間私は、基本的に見学していたので、外から見た印象に残っているところをあげます。
まず、受講者にテクニックがつくとか、動きが大きく変わるといったような、フィジカルな変化はあまり見られなかった。言葉にするのは難しいが、明らかにパートナー間の関係が前よりうまくいっているなと感じる瞬間がある。あるいは、2人の間で何か生まれてきている、ダンスが成立していると感じる瞬間が増えてくる。体験していないので、推測に成るが、相手の真似をすることで、自分が持っているダンスの言語や方法と、読み取った他者の言語の間で常に即興的な選択を行うことに対する力、センスがついてきたのかもしれない。パートナー間には集中力のある場が出来上がっていて、同時に、外部にも意識が開かれている。パートナーから、他のグループから、空間から、自分から内外に向けられる意識の層が、グループ全体の波状的な豊かさに繋がって言ったのではないかと思う。
エマのワークの中で、目に見えないダンスの技術を学ばせてもらったように思う。初日に行われたワークでは、印象や記憶に残る動きってなんだろうと思い、おしゃべりのワークでの、トランスのような、催眠のような状態の面白さ、playとplaybackでは、意識が自分と相手、空間と行き来することで、関係性や、身体と意識の在り方に変化が起きていく過程を見ることができた。この10日間で、目にした現象は面白かったので、今後のワークに取り入れていきたい。
今回のテーマは、「相手に成る」ということ。舞踏家笠井叡氏との共作『Spiel』(英語で、game)で扱われた「相手に成る遊び」に触れた。クラスの始まりに「third place」ということについての話を聞いた。僕自身が理解できていないので、うまく言葉にできないのだが、互いに相手に成ろうとする過程で、自分でも相手でもない状態にあるときの意思の在処や、ある空間における2人以外のものやそれらとの意識上の交点にのようなものだと思っている。
今回のクラスも、彼女の研究の過程にあるもので構成されており、彼女の世界を体験した。
●相手になるワーク
初日は、1人のダンサーが1分間ほど即興で踊り、それをみんなが再現するということをやった。最初の数回は、10名ずつの3つのグループに分かれて、順番に再現していった。グループが進んでいくにつれて曖昧だった部分が明確になり、踊りが正確なものに近づいていった。各回の最後のグループでは、不思議な一体感とともに、バラバラに踊られていたものが振り付けられたユニゾンように再現されていた。バラバラの記憶を寄せ集めることで、元あった形に戻されるのは、非常に興味深い現象だと思った。しかし、このワークではある人の踊りを正確に再現するということが目的ではなかったみたいで、グループ分けが無くなり、ある1人のダンスを見たら「すぐに全員で再現する」という形に変更された。
私は、完璧に再現することは出来ないだろうなと思った。同時に、訓練された言葉の読み書きのように、他人の動きを身体を使って読んで書きしましょうということが、非常に魅力的な提案だと思った。しかし、手がこう動いて、座って、立ち上がったら目線をこういう軌道で動かして・・・と覚えようとしても、すぐ忘れてしまうし、映像として記憶しようとしても、多くを記憶しておくことができなかった。印象に残っていたいくつかの動きをたどりながら、記憶にある動きを身体におとしていった。
受講者は、口々に「あー、むずかしい!!」といいながら、ワークに取り組み、初日が終わる。
3日目あたりから最後まで、1対1のワークを主に行われた。
●おしゃべりのワーク
相手の発する声、言葉を追跡していき、追う側と追われる側は、任意で変わることができる。言葉を使っているので、「そろそろ変わりましょうか?」なんてことも言える訳だが、それで交代できるかどうかは分からない。「そろそろ変わりましょうか?」と返されてしまう。
最初は、正面に向き合って、相手の発している言葉を追っていく。耳は相手の声にだけ集中し、目は相手の口や身振りを観察する。「相手の真似る」ことに焦点が当たっている身体は、喉や顎の筋肉、身体全体が普段よりも緩く構えていて、普段踊るときとは、違った状態になっていた。
私が組んだ相手は、自分のことをしゃべるというよりも、「今日は少し寒いですね?」とか、「元気ですか?」とか、常に僕に語りかけてくる感じだった。その問いかけには答えずに、彼女の声を追い続けた。慣れてくると、相手の声と自分の声との間隔が小さくなってくる。会話の内容によっては、次が予測出来きてきて、相手の声と私の声がシンクロしている瞬間があって、語尾(ですね、ですよー、ですかなどは)相手より先に言ってしまうときもあった。声が「そろう」ときの一体感は、気持ちのいいもので、すごく親密さを感じるものだった。
このワークの中で、「交代する」のは簡単なので、「交代が起きる」のを待つために、不安そうな彼女に申し訳ないと思いながら声を追わせてもらった。真似ることに慣れていき、意識的に返していたことが反射的になってくると、自分の意識は視覚と聴覚に集中し、他の部分の感覚は曖昧な感じになっていた。ずっと真似をしていると、だんだん頭の中が空っぽになっていって、自動的に真似しているような状態になった。催眠にかかっている状態は、こんな感じなのかもしれない。あるときに、自分は全く意図していないのに、相手の問いかけに答えてしまい、はっと我に返った。言葉にするのが難しいのだが、自分の考えていることや、目や耳から入ってくる情報が今までと違って色鮮やかに感じて、すごく不思議な感覚でした。
それからは、このワークが続けられていく中で、みんなが色んなことを試していった。横・縦並びで、背中合わせで、色々な距離で、動きながら、踊りながら、全部まねながら、タイミングをずらしてみたり、鏡合わせになったり、気持ち良い距離と気持ち悪い距離を探したり、見えない相手を想像したり、動きをまねながら話して、話すのをまねながら動きはリードすることを試してみたり、2人の間に生まれてくる色々な関係性ををじっくりと観察していった。その間には、互いが何も発しない時間もあって、どちらも主導権を持っていないあやふやな状態も興味深い時間でした。
●playとplayback
中休みがあけてからは、再び動き、ダンスから相手に成るというワークをやった。仮にペアをAとBとすると、まずAがフロアに出て、Bのために踊る(play)。次にBが、見たものから影響を受けて踊る(playback)。相手の動きをそのまま真似ても、動きから感じたことを素材として別な動きをしても良い。これを、交代で繰り返す。最終日までの5日間は、ほとんどがこの要素を使って行われた。繰り返しワークを行う中で、参加者とディスカッションをし、エマはplay、playbackの始まり方や終わり方を変えたりというように、少しずつワークの内容を調整していった。この間私は、基本的に見学していたので、外から見た印象に残っているところをあげます。
まず、受講者にテクニックがつくとか、動きが大きく変わるといったような、フィジカルな変化はあまり見られなかった。言葉にするのは難しいが、明らかにパートナー間の関係が前よりうまくいっているなと感じる瞬間がある。あるいは、2人の間で何か生まれてきている、ダンスが成立していると感じる瞬間が増えてくる。体験していないので、推測に成るが、相手の真似をすることで、自分が持っているダンスの言語や方法と、読み取った他者の言語の間で常に即興的な選択を行うことに対する力、センスがついてきたのかもしれない。パートナー間には集中力のある場が出来上がっていて、同時に、外部にも意識が開かれている。パートナーから、他のグループから、空間から、自分から内外に向けられる意識の層が、グループ全体の波状的な豊かさに繋がって言ったのではないかと思う。
エマのワークの中で、目に見えないダンスの技術を学ばせてもらったように思う。初日に行われたワークでは、印象や記憶に残る動きってなんだろうと思い、おしゃべりのワークでの、トランスのような、催眠のような状態の面白さ、playとplaybackでは、意識が自分と相手、空間と行き来することで、関係性や、身体と意識の在り方に変化が起きていく過程を見ることができた。この10日間で、目にした現象は面白かったので、今後のワークに取り入れていきたい。
C-1 エマニュエル・ユイン(フランス) 4/27(土)-5/6(祝月)
“Eating the other one / 他者を取り込む”このクラスは、エマニュエルと日本を代表する舞踏家笠井叡氏によるデュエット作品『SPIEL』(ドイツ語で「ゲーム」を意味する)で展開された観察のためのツールに基づいて進められます。「イミテーション」や「プレイバック」など様々な他者と出会うためのツールが、2人の空間・身体ではなく、第3 の身体・空間、いわば「間」を生み出していきます。この私のものでも他者のものでもない身体/空間から、いかなる「間」が立ち現れてくるかをともに探求しましょう。作品創作へとつながる観察や発見、ディスカッションに満ちたリサーチ・クラスです。
エマニュエル・ユイン (フランス/アンジェ)EMMANUELLE HUYNH
元フランス・アンジェ国立振付センター(CNDC)芸術監督。造形作家や音楽家など異分野のアーティストとの共同作業を開始し継続的に行うなど、鋭い批評的まなざしでダンスの再構築を進める彼女は、ドミニク・バグエ、トリシャ・ブラウンなど多くの著名な振付家の下で踊る。’01 年フランス政府派遣アーティストとしてヴィラ九条山に滞在。『AVida Enorme』(’08) 、『CRIBLES』(’10)を本フェスティバルでも上演。笠井叡とのデュエット『SPIEL』(’11)を発表するなど、日本との交流も深い。待望の再来日。(KIDFホームページより)
辻本佳(つじもと・けい)
三重大学在学中にダンスを始める。当フェスティバル主催オーディションに合格し、’08京都×アンジェ交換研修生制度、’09-’13カーン国立振付センターCompany Fattoumi Lamoureux振付作品『Just to dance』に参加。京都に移って4年目。現在は、柔道とダンスの身体の在り方について思索中。
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