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【暑い夏13】 E 「遊び」をダンスにすること
2013年05月31日
2011年2月、パリ・ポンピドゥセンターで、エマニュエル・ユインの『Cribles/Live』を観る機会があった。舞台の上では、10人程が手を繋いで跳ねたり、追いかけっこをしたりして遊んでいる。観客席の後ろには、2つのドラムが設置されていて、ヤニス・クセナキスの楽曲を演奏している。舞台上で繰り広げられる「遊び」だけでは観客席に働きかけるエネルギーが弱いが、舞台と音楽が観客席の上で見事に融合することで、観客席が作品に巻き込まれているかのような印象を抱かせる。
同じく2011年の3月、シャイヨー劇場で上演された Via Katlehong Danceの『Katlehong Cabaret』という作品では、作品の最中、ダンスパーティの場面で、観客が舞台の上に上り、踊り狂うこと(!)が促される。舞台に上らない観客は、座席で立ち上がって踊り(もちろん踊らない観客もいる)、劇場全体がクラブ空間にでもなったかのような錯覚を抱かせる。舞台の上の観客は、振り付けがあって、それを踊っているのではない。銘々に好きなように踊り、ある意味「遊」んでいるのだが、ダンスパーティの場面という熱気が求められるシーンで、欠かせない構成要素のひとつとして、作品に組み込まれている。
エマニュエル・ユインのビギナークラスを見ていて、このふたつの舞台がフラッシュ・バックした。クラスでは、ペアで真似をするというワークをする。動きを、次いで声を真似ていく。ただ単純に真似をするだけでなく、タイミングをずらしたり、静止の瞬間を入れたりと、参加者が自ら工夫できるきっかけが挿入されていく。正直、参加者は遊んでいると言っていい。が、不思議なことに、それが見ていて、見応えがあるのである。タイミングをずらしたり、静止をしたりといった「遊び」のための道具が、それぞれのパートナー毎に、それぞれの間を紡ぎだしている。そしてその多様な間の重なりが、全体としてひとつの見世物を形作っているのである(もっとも、舞台作品として提示するにはもう幾つかの小細工が必要であろう)。
数年前、同じく暑い夏のビギナークラスで、エマニュエル・ユインは、「振付とは政治的な行為である」と言っていたのを思い出した。振付家が、振付の形を押し付けることは容易であるし、今までそのやり方が普通であった。そうではなくて、踊り手から振付を作り出すことを目指しているのだと。確か、そういう内容だったと思う。冒頭に挙げたふたつの舞台は、ある形(例えばダンスのメソッドのようなもの)を作品の土台にするのではなく、踊り手の自発的な「遊び」をうまく組み合わせることでひとつの作品を作っている例のように思われる。そこで振付家は、メソッドの教授ではなく、「遊び」を作品に昇華させる仕掛け人のような存在となっている。エマニュエル・ユインのビギナークラスは、この民主的な(上からの押し付けではないという意味で)振付を、「遊び」ながら、知らず知らずのうちに体感させてくれる機会であった。
E ビギナークラス 5/2(木) コンテンポラリー・ダンスの多様性をまさにコンセプト的にも地理的にも満喫できる、イントロダクション・クラス。世界の第一線で活躍する講師による様々なスタイル、考え方のダンスに触れることができます。ダンスには興味があるけど敷居が高かった方、身体全般に興味ある方、アカデミックな関心のある方、世界のダンスに肌で触れたい方、ただただ動きたい方、それぞれの切り口で飛び込んでください。
エマニュエル・ユイン (フランス/アンジェ)EMMANUELLE HUYNH 元フランス・アンジェ国立振付センター(CNDC)芸術監督。造形作家や音楽家など異分野のアーティストとの共同作業を開始し継続的に行うなど、鋭い批評的まなざしでダンスの再構築を進める彼女は、ドミニク・バグエ、トリシャ・ブラウンなど多くの著名な振付家の下で踊る。’01 年フランス政府派遣アーティストとしてヴィラ九条山に滞在。『AVida Enorme』(’08) 、『CRIBLES』(’10)を本フェスティバルでも上演。笠井叡とのデュエット『SPIEL』(’11)を発表するなど、日本との交流も深い。待望の再来日。(KIDFホームページより)
高田祐輔(たかた・ゆうすけ) 情報化社会の進展で生身で物事に接する機会が減り、ものを考えたり感じたりする土台となる原風景が、作られにくくなっているのではないかという問題意識を持っています。生身で物事と出会う装置としての都市をどう作っていくか、発見のきっかけとしてのダンスをどう紡いでいくかが、テーマです。フランス、パリをフィールドに、都市計画学を勉強中。ミーム・コーポレル、キューバン・サルサにも関心を持っています。
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