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【暑い夏13】E 「私とあなたの間・・・」

2013年05月31日

 六日目のエマニュエルのビギナークラス。 フロアムーブメント(床に寝転がったりして行うワーク)のアップからクラスはスタートした。印象的なムーブメントは、四つん這いになって会場全体を動く、次の指示は膝を床から離し足の裏、手の裏を床に付けて動く、そして次の指示は上半身を起こして二本足で動き、最後に立ち止まって必要な力だけで立つといったものだった。今までの四段階の動きはまるで人類が四足歩行のほ乳類から猿人の中腰で行う二足歩行、人類が行う二足歩行へと、そして今現在の自分へ進化していく過程のようだった。人類は遠い過去から重力を感じる姿勢を四つん這い、中腰での二足歩行、二足歩行と変化していった。姿勢での重力、体の重さの違いを意識し直すと自然と、今の自分自身の体をまるで化石を発掘するよかのように辿っていけるのだと思った。

 晴れて人類となった私が次に行ったのが“イミテーション”(通称まねっこ)。 ペアを作り、初めは先導する人を決めてお互いに動きをまねしていくワークである。私自身、役者をやっていて稽古でも馴染みがあるワークで、いつも“呼吸”も同じようにまねるを意識していた。今回も同じように呼吸を意識するとスムーズに動きが繋がりまねていけた。次に時間差を付けて相手の動きをまねる“プレイバック”というワークに進んでいく。イミテーションでは目の前の相手の体を見ながらまねるのに対して、プレイバックはパートナーの動きを記憶して、少し時間を遅らせて自分の体で再生していく。実際に行ってみると、目で見た形以外にも、動きの速さ、床に足がこすれる音、動きのリズム、ゆっくりな呼吸状態など、様々な要素が記憶の再生にも役立つのだと思った。見る以外の感覚でも相手を意識し始めると、相手との間にリンクの様な繋がりがより強く感じられてきた。リンクを感じると私の場合、同時に安心感も増すのを感じた。

撮影:下野優希
撮影:下野優希

そして“声をまねる”ワークへと繋がっていく。会場からは意外な展開にざわざわと不思議がる声が生まれていた。私は役者の経験から、セリフも体から生まれてくるものだと思っていたので不思議さはなかった。代わりにダンサーでも声に興味を持つ人がいるんだと少し嬉しくなった。実際に行うと、まずは相手の呼吸に耳を傾け、次に相手の口元を集中し見て「あー」などの短音からまねていく。お互いに慣れてきたら、短い文章へと続き「ひ る ご は ん な に た べ た」のように一音ずつ繋がっていく。同時に頭の中で文章の流れを予想し始めて「おに・・」まで続けばあとは「ぎり」だと予想をしていた。予想するとスムーズに言葉が繋がりはじめ、言葉に速度が生まれた。私はスムーズに繋がるのに嬉しさを感じ、「じゃあこの文章の流れだと次は・・・をたべました」と予想し、次に「を」が出てきた時は「を食べました」と続けてお互いに言葉を発していた。私はイミテーションの時もだったが、相手との間で強いリンクが生まれると、早く動いてみたり、リズムが変わって動いたりと変化を楽しみ遊んでいる意識が生まれていた。言葉でも同様で、予想通りだからお互いに早く言葉を続けられたり、予想外な音が出るとお互いに慎重になって短音の音を繋げなおしたりと変化も楽しんでいた。

 最後に動きも言葉も同時にまねるワークへ。「出来るのか?」一瞬ちゅうちょしたが、案ずるより産むが易し、言葉もまねているし、動きもまねているし、流れに乗せられるし、楽しいしの状況に飲み込まれていった。目では相手の動きを捉えながら、耳では相手の声を捉え、頭の中では動きの予想し、発せられる言葉の予想もし、体は相手をまねるために柔軟に動かすと脳みそから足の指の先まで全身を動員して相手とリンクしていた。最後には「あーれー」と言いながら、片手を伸ばしすり足で直線を駆けていく、まるで能を演じているような動きも生まれた。自分では何か起きそうだと予想したが、意識的に起こそうとした動きじゃなくて、驚きつつも楽しさが勝って動き続ける経験だった。

撮影:森下 瑶
撮影:森下 瑶

終了後のアフタートークで説明されたが、これらのワークは本フェスティバルの後に東京での公演を控えていた『遊技 シュピール』の創作課程で実際に使われたものだそうだ。その間彼女は共演する笠井叡氏とワークを通して、また言葉でも多くのコミュニケーションを交わしたが、その際使われた言語はそれぞれの母国語でなく共通語のドイツ語だったそうだ。彼女が笠井氏とそれらのコミュニケーションを交わし、お互いの間に生まれた経験が交差する空間を“第三の場”と呼んでいたのが印象に残った。私がパートナーとの間で体と言葉でコミュニケーションしていた空間も“第三の場”なのだと気が付く。人類の進化の過程を考えると、コミュニケーションは言葉の意味よりも先にこのような“第三の場”を生み出したのではないか。そしてそこからさらに交流が進み、お互いの間に生まれた経験という流れから言葉に意味が生まれていったのではないだろうか。以上のように、エマニュエルのクラスは、コミュニケーション、他者との関係、私とあなたについて深く考える気づきがちりばめられていた。それは、エマニュエルと参加者との“第三の場”であったと私は思う。

ビギナークラス番外編 「新しい出会い」

   “しげ”こと重籐稔樹は松山大学に通う学生で、今回はるばる愛媛県から京都に来ていた。彼とは同じビギナークラスを一緒に受ける中で交流が生まれていった。七日目の森井淳さんビギナークラスでは、同じグループになり振り付けを一緒に踊った。振り付けの覚えが悪い私に懸命に振り付けを教えてくれる姿が「本当にダンスが好きなんだなぁ」と深く印象に残った。クラスの終了後に大学でのダンス部で踊りをまず受け入れてから自分なりにアレンジする話や、振り付けの覚えが早い人は早く忘れるなどの多くのエピソードを話してくれた。

 話は退館時間ギリギリまで続き、帰りながらも話は尽きず話題はダンスをしていない人に対して“体を感じる”話をしてもあまり理解されないという話題になった。私自身同様の疑問を最近抱えていた。例えば「自分の体を感じて呼吸を意識すれば、今の自分の疲労状態がわかるよ」と言うと「どうやって体を感じるの?」と聞き返される。まず“体を感じる”の言葉の意味が共有出来ていないことが考えられる。無論、感じた後にどのような価値が生まれるかも共有出来ていないのだと思う。これに対しその場では明確な答えは出なかったが、今回エマニュエルさんビギナークラスのレポートを書いていて、“第三の場”が解決の鍵になるのではないかと思われた。つまり、体を感じるを伝えたい相手と“体を感じる経験”が交差する第三の場を築いていくことで、“体を感じる”言葉の意味や価値を共有していけないだろうか。

 具体的な方法は“そのまま会話を続けコミュニケーションをとり続ける”だと私は思う。目の前にいる相手の声、言葉に真摯に耳を傾けて何を伝えようとしているのかを受け取ろうとする。受け取ったら自分は何が出来るか考え、伝えたいことが決まったら、目の前にいる相手に伝わるようにしっかりと丁寧に声、言葉を発していく。時には相手の身振り、手振りにしっかりと優しく目を向けて相手が伝えたいことを受け取ろうとする。自分が手振り、身振りで伝える場合は相手に伝わるようにしっかりと丁寧に体を使っていく。これらはワークで行った“イミテーション”の状況だと言えるのではないか。次に受け取ったものを記憶し持ち帰り自分一人の時に相手の伝えたいことを再び思い出して考える。そして再び再会した時に相手に伝えたいことを思い出し、しっかりと丁寧に伝える。まさに“プレイバック”の状況ではないだろうか。これらの繰り返しでコミュニケーションをとり続ける経験が“体を感じる共通体験”になっていくのではないだろうか。そして共通体験が積み重なっていく中で自然と自分と相手に適した意味や価値が見いだされ共有されていくのではないかと思う。しかしまだ私は確証を持てていない。でも自分が特別な場所で、特別な体験をしてるから体を感じられるのだと思い込まず、日々の生活の中で自分の体に意識を傾け、相手の体に意識を傾けて過ごせば、これから関わる人達との間で私の疑問は解決されていくのではないかと強い希望の光を感じ始めている。

 最後に今回の暑い夏を通じてまた一緒に踊りたい、話したいと思えた多くの出会いに感謝。

E  ビギナークラス 5/2(木) コンテンポラリー・ダンスの多様性をまさにコンセプト的にも地理的にも満喫できる、イントロダクション・クラス。世界の第一線で活躍する講師による様々なスタイル、考え方のダンスに触れることができます。ダンスには興味があるけど敷居が高かった方、身体全般に興味ある方、アカデミックな関心のある方、世界のダンスに肌で触れたい方、ただただ動きたい方、それぞれの切り口で飛び込んでください。


prof_emmanuelleエマニュエル・ユイン (フランス/アンジェ)EMMANUELLE HUYNH 元フランス・アンジェ国立振付センター(CNDC)芸術監督。造形作家や音楽家など異分野のアーティストとの共同作業を開始し継続的に行うなど、鋭い批評的まなざしでダンスの再構築を進める彼女は、ドミニク・バグエ、トリシャ・ブラウンなど多くの著名な振付家の下で踊る。’01 年フランス政府派遣アーティストとしてヴィラ九条山に滞在。『AVida Enorme』(’08) 、『CRIBLES』(’10)を本フェスティバルでも上演。笠井叡とのデュエット『SPIEL』(’11)を発表するなど、日本との交流も深い。待望の再来日。(KIDFホームページより)

下野優希(しもの・ゆうき) 2008年劇研アクターズラボ、公演クラスに参加し初舞台を踏む。その後「アクターズラボ+正直者の会」に参加し3作品に出演。その間、体からの演技に興味を持ち、2010年より京都の暑い夏事務局主催の定期コンタクト・レッスン受講中、その他に京都国際ダンスワークショップフェスティバル、CIMJを受講。現在は「正直者の会.lab」の企画に参加中。

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