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【暑い夏13】E ビギナークラス体験レポート

2013年05月30日

E  ビギナークラス 4/27(土)-5/5(日) 18:30-20:30 全9 回 コンテンポラリー・ダンスの多様性をまさにコンセプト的にも地理的にも満喫できる、イントロダクション・クラス。世界の第一線で活躍する講師による様々なスタイル、考え方のダンスに触れることができます。ダンスには興味があるけど敷居が高かった方、身体全般に興味ある方、アカデミックな関心のある方、世界のダンスに肌で触れたい方、ただただ動きたい方、それぞれの切り口で飛び込んでください。(KIDFホームページより)

執筆:森下揺 撮影:森下揺(表記のないもの)

Touch

 ビギナークラス初日の講師は、坂本公成さん+森裕子さん。 0427E_shikeco2_small  はじまってすぐに皆で輪になって足裏をもみあいながら自己紹介。それぞれのニックネームなんかについて話しながら、足裏をマッサージする。私は公成さんと裕子さんのワークショップに参加させていただく機会がよくあるのだが、毎回この自己紹介の時間というのは不思議な時間である。ワークショップで初めて会う人達なのに、すごく親近感がわく。それは多分、その人の身体に触れているという行為が大きく影響しているのだと思う。こんな最初のひと場面から、”触れる”という行為の力を思い知る。

 マッサージを終えて、円になってお互いに身体をほぐし合いながら、今日のテーマについて、お二人からお話。「自分の身体を感じる事」「他人の身体を感じる事」「自分の身体は自分で守る事」などなど。「とにかく感じる事に敏感に、体中の神経を目覚めさせるぞ!」と私なりに意気込みながら、ワークに取り組んだ。 0427E_shikeco3_small  ワークの内容は、自分の身体を叩いたり、なでてみたり、なにかとスライドさせてみたり、クラスの皆の身体にも刺激をあたえてみたり・・・自分の身体の神経という神経を総動員させて、とにかく心を無にして「触れる」という行為に没頭した2時間だった。

 コンタクトインプロヴィゼーションと聞くと、身体にふれたり、床に身体をあずけたりと、直接的に物体に触れることをイメージしがちだが、実はそれだけではない。相手の心に触れたり、地球の力に触れたり、自分の中の今まで気付きもしなかった感覚に触れたり・・・いろんな物事とコンタクトを取りながら、「触れる」という行為をしているのだと、改めて感じた時間だった。

prof_yuko森裕子 (日本/京都)YUKO MORI ダンサー・振付家。ダンサーとしてアヴィニヨン演劇祭、パリ市民劇場、モンペリエダンスフェスティバルなど数多くの国際的舞台に立つ。’96年よりMonochrome Circusのメンバーとして、上演300 回を越える『収穫祭』プロジェクトや、『掌編ダンス集』『直島劇場』『TROPE』など、カンパニーの主要作品に出演。小柄で中性的な身体、そして機敏な動きが魅力。指導者としても各地でコンタクト・インプロヴィゼーションや「身体への気づき」のワークショップを多数行う。踊ることの根源的な「楽しさ」を伝えたいと願っている。


prof_kosei坂本公成 (日本/京都)KOSEI SAKAMOTO+YUKO MORI ダンスカンパニーMonochromeCircus主宰。リヨンビエンナーレ(’00)、ベイツ・ダンスフェスティバル(’02)、香港芸術節(’ 05)、フェスティバルドートンヌ(’ 09)、混浴温泉世界(’09)、瀬戸内国際芸術祭(’10)、鳥の演劇祭(’12)など国内外で作品を発表。「身体と身体の対話」というテーマからコンタクト・インプロヴィゼーションの普及や開発に興味を持ち、更に空間、コミュニティー、建築、都市とその射程を広げている。平成19年度京都市芸術新人賞受賞。神戸大・近畿大学の非常勤講師などを経て、現在天理医療大学非常勤講師。(KIDFホームページより)



Patient

 2日目の講師はフランチェスコ・スカベッタさん。 0428E_shikeco2_small  まず寝転がった動きからはじまった。身体から無駄な力を取り払って、骨盤から生まれたエネルギーが身体の末端に伝わっていく感覚を感じながら、ウォーミングアップ。できるだけ遠くに手を伸ばしたり、骨盤と背骨を意識しながらじっくりと上体をおこしたりする動きを何度か繰り返し、身体を伸ばしていく。 様々な種類のフロアムーブメントを終えて、身体がのびのびとしてきたところで、短い振り付けを教えて頂く。これが難しくて、ビギナーズ大苦戦。私も前半のウォーミングアップでやった動きの延長として捉えようと、動きの原動力となるエネルギーが、どこからきて、どこへ移動していくのかを考えながら、(でも考えすぎてもいけないぞ!と自らを戒めながら)難しい振り付けにチャレンジした。結局完璧に踊りきることはできなかったが、今回のビギナークラスでフランチェスコさんが私たちに伝えたかったことは理解できたような気がした。それは「patient」という行為のこと。
 ワークショップを通して、フランチェスコさんが最も多く発した言葉が「patient!」という言葉。「忍耐強く!」という意味である。骨盤から生まれたエネルギーが、じっくりゆっくりと、指先に至るまで忍耐強く待ちましょうということ。私たちは与えられた振り付けを踊る時、「次にこの動きで、その次にこの動き・・・」というように、ただ形からはいって、無理な力を動員させて踊ってしまう。しかし、フランチェスコさんは、そうではなく骨盤から生まれたエネルギーが体の中をめぐって、動きが生まれていく段階をしっかりと感じて動きなさいとおっしゃった。それはつまり、未来を予測して自分で動いてしまうことを我慢して、じっくりと身体に現れる反応を待ちながら、感じながら、踊りなさいということだと思う。
 ただ頭では理解できても、実際に踊ってみると、なかなか体の中に流れるエネルギーを感じ取ることができなかったり、自分の無理な力によってそのエネルギーが消えてしまったり、自分の体はなかなか頑固である。頭の中を真っ白にして、体の中に流れるエネルギーに忠実に、空気の一部と化したように、踊れるようになりたいなぁと感じたクラスだった。

prof_francesco フランチェスコ・スカベッタ (ノルウェー/オスロ)FRANCESCO SCAVETTA イタリア生まれ。IMPULSTANZ(オーストリア)や、P.A.R.T.S(ベルギー)、MTD(オランダ)など、コンテンポラリー・ダンスの主要なフェスティバル、大学、ダンス機関等で引っ張りだこのカッティング・エッジな振付家。ノルウェーとスウェーデンを拠点にダンスカンパニーWeeを率い、これまでアメリカ、ヨーロッパなど27 カ国をツアーしノルウェーを代表するカンパニーとなる。ヴェネチア・ビエンナーレで初演されたミクストメディア作品『Live』から、アブストラクトで即興的な『Surprised Body』まで幅広い作品群を誇る。そのムーブメントは、リリーシング・テクニックやコンタクト・インプロヴィゼーション、そして太極拳などをバックボーンに独自の言語を開発している。北欧の風雲児来日!!(KIDFホームページより)



Tensegrity

 3日目の講師はマタン・エシュカーさん。 0429E_shikeco1_small  まずマタンさん、ホワイトボードに一筆。「RE-Form」「Tensegrity」。リフォームは再構成するということ。テンセグリティーとは、Tension(張力)とIntegrity(統合)を合体させた造語なのだそう。この地点で私の頭の中は?でいっぱい。「てんせぐりてぃー?」って感じ。そして、マタンさんはパソコンを開き、テンセグリティーを説明する動画を私たちに見せてくれた。その動画とは、骨と筋肉との仕組みを模型化したロボットの動画である。そのロボットは棒とゴムのようなものでできていて、ゴムが収縮することにより棒が動き、ロボット全体が前進するといったものだった。マタンさんはその動画を私たちに見せて、「骨と骨はくっついていません。骨は筋膜によって筋肉とつながれているだけなのです。このイメージを頭に浮かべながら今日はワークをしましょう。」とおっしゃった。 0429E_shikeco5_small  そしてワークがはじまった。ワークはヨガの動きが中心で、呼吸を意識しながら、体内にバラバラの骨が浮いているような感覚をイメージしながら(テンセグリティーのことはいまいちよく分からないけれど・・・)マタンさんの指示の通りに進めていった。

 クラス終了時には、身体の神経が研ぎすまされて、バランス感覚がとてもよくなっていたように感じた。心も糸がぴんっとはったような落ち着きがあった。ただ私は、初めて触れるヨガの動きに順応していくことにいっぱいいっぱいで、テンセグリティーのことなんか、最初に見たロボットの映像なんか、すっかり忘れてしまっていた。たくさんのことを教えてもらったのに、なんだか消化不良を起こしたような気分のまま、私のビギナークラス3日目は幕を閉じた。

prof_matanマタン・エシュカー (イスラエル/テルアビブ)MATAN ESHKAR ヨガ指導者。ニューヨークのDNA(Dance New Amsterdam)やNewYork Yoga にて講師として活躍。現在はイスラエルで、インバル・ピント・ダンスカンパニーや、バットシェバなどのプロフェッショナル・ダンサーへの指導を行っている。彼のヨガは古くからあるヨガの知恵を現代生活に適応する言語に置き換えた革新的で独創的なもので、ヨガ指導者のための教育や、アメリカ、ヨーロッパ、メキシコなど世界各地での指導を行う。ダンスやスポーツでの負傷や再訓練、痛みのケアなどに特化したクリニックも行っている。大きな支持を得て再来日。(KIDFホームページより)



Release

 4日目の講師はアビゲイル・イェーガーさん。  前日のマタンさんのテンセグリティーについていまいち理解しきれていない私は、小さなもやもやを抱えながらアビーさんのクラスに参加した。まずアビーさんは、フリースペースに設置されていたスピーカーの上にヘルメットをおいて「こんな身体にはなってはいけない」と話しはじめる。前日と同様に出だしから私の頭の中は「?」だった。アビーさんはこう続けた、「人間の身体構造はこのスピーカーとヘルメットでできた構造体の構造とは全く異なります。皮膚のなかには、ぷかぷかとばらばらの骨が浮いていて、それが筋肉で支えられています。ヘルメット人間とは違って、あらゆる出来事に対して柔軟に反応できる。人間の身体はFluid Structureなのです。」アビーさんの説明をきいて、ヘルメット人間の存在をようやく理解した。それと同時に前日のマタンさんのおっしゃっていたことと同じ事だということにも気付いた。 0430E_shikeco1_small アビーさんは「人生も同じ。かちかちに力んでしまっていては何事も上手くは進まない。力を抜いて、人生を楽しみましょう。」とおっしゃった。いきなり核心に到達したところからワークがスタートした。

 アビーさんのワークは身体をゆする動きが中心で、骨と骨の間のスペースを大きくしていくことを意識したものだった。ウォーミングアップのような動きの後、短い振り付けを教えていただいた。身体の力を抜いて、一昨日のフランチェスコさんの体内を流れるエネルギーを意識しながら、さらに昨日のマタンさんの呼吸法も活用しながら、振り付けを楽しんだ。ワークの間私の頭の中には、このフェスティバルのフライヤーの写真のイメージが浮かんでいた。水色の布がふわぁ〜と風に舞うように、私の骨や筋肉が身体の中でふわぁ〜と浮いているようなそんな感じだった。 0430E_shikeco3_small  ビギナークラス前半を終えて、私は様々な講師の方々のいろんな話の中に通る、一本の軸のようなものを感じ始めていた。

prof_abigailアビゲイル・イェーガー (U.S.A/North Carolina)ABIGAIL YAGER アビーの小柄で知的な雰囲気とウィットに富んだムーブメントには誰もが魅了される。NYポストモダンダンスを代表するトリシャ・ブラウン・ダンスカンパニーにて’95 年~’02 年ダンサーと音楽アシスタントを務める。また、トリシャ作品の振付・再構成をリヨン・オペラ・バレエなどの国際的なカンパニーで務める他、アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルの主宰するP.A.R.T.S.(ベルギー)や、アメリカンダンスフェスティバルなど、名だたるアカデミーで同様のプロジェクトをディレクションしてきた。また、韓国国立芸術大学、フランス国立振付センター(CCN)での指導など、ワールドワイドに活躍している。(KIDFホームページより)



Game

 折り返し地点の5日目はエリック・ラムルーさん。  ワークショップも半ばにさしかかり、やや疲労感の漂う講堂スペース。さらにこの日は、朝、昼、夕方の部は中休みとなっていて、センター全体が静かな雰囲気だった。しかし、そんな雰囲気はエリックさんが言葉を発した瞬間、ぶっとんでいった。そしてエリックさんはものすごいエネルギーでもって、私たちにゲームを提示した。 「君たちは今キューブの中にいる。そしてそのキューブの中に突然ライトがつく。ライトがついたらすぐにそのライトにタッチしにいく!すぐにだ!こんなふうに!」 0501E_shikeco1_small  ビギナーズ達はエリックさんから与えられたゲームの中に飛び込み、そしてゲームに没頭した。初めは突然点灯するライトにタッチするというイメージで、次に自分で点灯させたライトをタッチしにいくというイメージで、その次はその二つのイメージをミックスさせて動いた。ゲームの最中はゲームをこなすことに必死でいっぱいいっぱいの状態だったが、ゲームを終えた時に自分の身体の可動域が確実に広がっていっている事を感じた。

 そして最後にエリックさんは「ライトがついてタッチしにいく動きをスムーズに、流れるように連続させていこう。今までのゲームをダンスにしよう。」とおっしゃった。その後に続いたビギナーズ達の“ダンス”は本当に美しかったのを覚えている。 0501E_shikeco3_small  アフタートークの中でエリックさんは「Just as it is.」(そのままの自分であることが美しい)とお話されたが、その言葉が私は忘れられない。私たちはエリックさんから与えられたゲームに没頭し、真剣に取り組んでいた。その姿はおそらく、私たちのありのままの姿であったと思う。エリックさんは、その美しい状態に私たちを導いてくれて、気付かないうちにただのゲームをダンスへと変えていってくれた。エリック、ありがとう!ダンスを心から楽しめた時間だった。

prof_ericエリック・ラムルー (フランス/カーン)ERIC LAMOUREUX カーン国立振付センター芸術監督。カンパニー・ファトゥミラムルーをエラ・ファトゥミと主宰。優れた身体能力に裏付けられた大胆なムーブメントと、高い音楽性に支えられたロマンティシズム、実験精神に富んだオリジナリティーの高い振付で、’90年バニョレ振付家コンクールをはじめ、アヴィニヨン演劇祭、リヨンビエンナーレなど一躍注目を浴びる。’99年フランス政府派遣アーティストとしてヴィラ九条山に滞在。「芸術祭典・京」(’99)「コーチング・プロジェクト」(’04/京都芸術センター)など日本にも縁が深い。本フェスティバルでオーディションを行った日、仏、コンゴ3カ国共同製作作品『just to dance…』は現在も世界各国で上演中。 フェスティバルやレジデンス活動を通じて、アジアやアフリカの若手育成も行っている。(KIDFホームページより)



Imitate

 ビギナークラス6日目の講師はエマニュエル・ユインさん。  前日のエリックさんに続き、エマニュエルさんから渡されたのはゲームだった。エマニュエルさんが私たちに提示したゲームは「Imitate game」(まね遊び)というゲームで、相手の動きのまねをするというものだった。 0502E_shikeco5_small  ただ“まねをする”と一言でいっても、様々なヴァリエーションがあることをエマニュエルさんは教えてくれた。二人組をつくり、どちらか一方がリーダーとなり、もう一方がそのリーダーのまねをすることが基本となるが、それだけではない。ストップをいれて時間差をつけてみたり、できるだけ同時に相手の動きのまねをしてみたり、最終的にはリーダーを各々のカップルのタイミングで交代したりもした。 0502E_shikeco3_small  様々な“まねワーク”の中でも私が最も興味深かったワークは、小学生時代に誰しもが友人への嫌がらせでやったであろう、「シャドーイング遊び」だった。「シャドーイング遊び」とは、ペアの人が喋る言葉をできるだけ同時に、その言葉に被せてまねをするワークである。相手が考えているであろうことを予測しながら、また時には賭けのように、言葉を発する。そのワークの中で興味深かった点というのは、身体を動かしてまねをしている時と、言葉を発してまねをしている時とで、使う身体の神経にあまり違いを感じなかったという点である。実際の動作としては、身体を動かすという動作と、言葉を発するという動作で、全く異なった動作をしているというのに、不思議と同じ事をしているように感じた。それはおそらく、二つの“まね”の間に、言葉を介さないコミュニケーションであるという共通点が存在するからだと思う。この文章を読んでいる人ならば、「シャドーイング遊びは言葉を用いて話しているのでは?」と思うだろうが、実は少し違う。シャドーイング遊びは、まねをする対象が言葉であるというだけで、言葉を介してコミュニケーションをとっている訳ではないのである。ただまねの対象が動作ではなく言葉であるという事だけなのだが、実際にやってみると、普段情報共有のツールとして利用している言葉を、その機能を無視して利用するという行為の新鮮さに、私はおもしろさを見出したのだと思う。

 この日も、クラス全体の雰囲気はいきいきとしていて、フリースペースの空間がきらきらと輝いていたことを覚えている。ビギナーズは前日のエリックさんの言葉「Just as it is.」を完璧にマスターしていた。ビギナーズ一人一人の表現がとても美しいクラスだった。 0502E_shikeco4_small  

prof_emmanuelleエマニュエル・ユイン (フランス/アンジェ)EMMANUELLE HUYNH 元フランス・アンジェ国立振付センター(CNDC)芸術監督。造形作家や音楽家など異分野のアーティストとの共同作業を開始し継続的に行うなど、鋭い批評的まなざしでダンスの再構築を進める彼女は、ドミニク・バグエ、トリシャ・ブラウンなど多くの著名な振付家の下で踊る。’01 年フランス政府派遣アーティストとしてヴィラ九条山に滞在。『AVida Enorme』(’08) 、『CRIBLES』(’10)を本フェスティバルでも上演。笠井叡とのデュエット『SPIEL』(’11)を発表するなど、日本との交流も深い。待望の再来日。(KIDFホームページより)



Language

 7日目の講師は森井淳さん。 0503E_shikeco1_small  まずクラスは、歩きながらすれちがう人とアイコンタクトをとるというワークから始まった。すれちがう人と言葉を交わさずに、ただ目だけで合図を送る。微笑んでみたり、変な顔をしてみたり、いろんなアイコンタクトを楽しむ。そして次にオフバランスの動き。(オフバランスとは身体を支える力をとっぱらった状態をいう)前に倒れる限界まで身体を傾け、限界点まで達したら足を前に出し転倒を回避するというような動きである。オフバランスの動きでは、自分の身体をコントロールするという範囲を超え、より本能的な、人間としてごく自然な動きをしていたように感じる。その次のワークは、ペアをつくりペアの人に後ろから骨盤を押してもらうというワーク。後ろから骨盤を押してもらうと、自然と足が前に出てしまい、すいすいと歩いてしまう。最後に、動きとともに身体の中を流れるエネルギーを意識した短い振りを教えてもらい、そのことを意識しながら振りを踊った。

 クラス後半では、少し長めの振りを教えてもらい、前半部分で意識して行ってきた「オーガニックな動き」を実践しながら振りを覚えた。「オーガニックな動き」とは、クラス後のアフタートークで森井さんがおっしゃっていた言葉だが、「人間が本来行うはずの自然な動き」の事をさす。それは、他の講師の方々の教えにも共通することで、どこからエネルギー生まれ、どのように身体の中を流れていくか、そしてその流れ方をどれだけ自然な力の流れ方に近づけられるか、ということである。 0503E_shikeco4_small  それらの事を考えながら振り付けを覚えたあとに、森井さんから一言。「じゃぁ3人で組み合わせて踊ろうか!」最初、意味が分からなかった。が、どうやら森井さんから教えてもらった振り付けは、3人それぞれが振りをずらして踊る事により、鍵がカチッとはまるように一つのまとまりとなる振り付けだったよう。難易度の高いワークに苦戦しながらも、練習を繰り返していくうちに、アイコンタクトや呼吸を利用して動くことが重要であることに気付いた。そしてそれから少しずつチューニングが合っていくように、3人が1つになって動いているという感覚がうまれていった。その時の感覚が、前回のエマニュエルさんのクラスでの感覚ととても似ていた。森井さんから、一つの振りという言語を教えてもらい、それを使ってパートナー達と会話をしているような感覚。ダンスが言語と同じ手段として用いられていた瞬間だったのだと思う。ダンスでコミュニケーションをとるという、普通に生活していてはなかなか経験できないであろう素敵な経験ができたクラスだった。

prof_jun森井淳 (日本/大阪)JUN MORII ラバン・センターにてコンテンポラリーダンスを学び、ヨーロッパ各国にて公演&ワークショップを行う。帰国後、演出・振付の相原マユコらと共にj.a.m.DanceTheatreを結成。国内外で様々な公演&ワークショップを行う。またMonochromeCircusやじゅんじゅん scienceなど様々な振付家・ダンサーと活動する傍ら関西を中心にコンテンポラリーダンスクラスやワークショップの指導・振付にも積極的に取り組む。近畿大学文芸学部非常勤講師。(KIDFホームページより)



Yummy!!

 8日目と9日目の講師はノアム・カルメリさん。 0504E_shikeco4_small  ノアムさんのクラスは床の動きから始まった。まず、床に寝転がってかかとを縦に転がすことによって身体を揺さぶる。次に手で床を押して身体を揺さぶる。その次は膝を立てて足の裏で床を押して身体を揺さぶる。これらのワークに共通する点は、床を押す事によって生じる反作用の力を利用するという点である。ノアムさんはこの反作用の力のことを、「force of nature」(自然の力)と表現していた。私はこの表現がとても印象に残っている。自ら作りだしたエネルギーではなく、何かから受け取ったエネルギーを利用するというこの教えは、他の講師の方の教えにも共通するものであるが、それを「force of nature」という言葉で表現したのはノアムさんだけだった。この表現が私にはとてもしっくりきて、ワークをする際に良いイメージをひきだしてくれたように感じる。

 さらにノアムさんの言葉の中でお気に入りの表現がもう一つ。それは「Yummy!」という表現。「美味しく味わう」という意味である。ノアムさんはクラスの中でこの表現を最もよく使っていた。「force of natureが身体に作用していく感覚をしっかりと感じながら動きましょう、また作用していく感覚を味わう事を楽しんで!umm… yummy yummy…」と、このような感じ。初めてこの表現をきいた時は衝撃だった。通訳の裕子さんが翻訳してくれるまでは、「なんで今このタイミングでご飯を食べる話をしてるんや・・・。」と呆然としてしまった事を覚えている。しかしワークを重ねていくうちに、このyummyの感覚が分かるようになっていき、この表現がいかに的確な表現であるかを自らの身をもって実感することができた。 0505E_shikeco1_small  2日間を通して、ノアムさんのクラスはとても自由だった。初めはウォーミングアップのような簡単な動きから始まり、だんだんと動きのヴァリエーションを増やしていってくださり、そして気付けば私たちはノアムさんの手から離れて、それぞれが自由にダンスを楽しんでいた。ノアムさんはクラスの中で、私たちが自由に楽しくそれぞれのダンスをするための土台の部分をつくってくれていたように感じる。クラスでのジャムセッションの時、何も怖がることなく素直に踊る事ができたのはきっとそのおかげだ。そして私たちと一緒になってキラキラした笑顔でダンスを楽しんでいたノアムさんの姿が、素晴らしいお手本であったことは、ビギナーズ達みんなが感じていただろう。

撮影:下野優希
撮影:下野優希

prof_noamノアム・カルメリ (イスラエル/テルアビブ)NOAM CARMELI コンタクト・インプロヴァイザー、武術家(合気道)、ボディーワーカー、そして建築家としても活動している。イスラエルの即興グループOktet の創設メンバーで、北アイルランドEcho Echodance company でも踊る他、ヨーロッパでの活動も精力的に行っている。現在イスラエルのCI アソシエーションの総監督、及びイスラエルコンタクト・インプロヴィゼーションフェスティバルのオーガナイザーを務める。CI、合気道、GAGA を学び続けるなか、ムーブメントの探求と融合、そしてコミュニティーの形成に積極的に臨んでいる。(KIDFホームページより)

森下瑶(もりした・よう) 幼少期にクラシックバレエ、高校時代に創作ダンスを経験し、コンテンポラリーダンスと出会う。その後大学にて建築を学びながら、Monochrome Circs主催のワークショップに参加。空間と身体の関係性について興味を持つ。小倉笑とユニット「何かの人」を結成。また、制作の勉強中。

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