2018年06月27日

〈ビギナークラス/カティア・ムストネン〉ワークショップレポート

 4/29 京都芸術センターフリースペース

 

 京都国際ダンスワークショップフェスティバルではA:ダンスメソッド&ボディ・コンディショニング、B:コンタクト&インプロビジェーション、C:クリエイション&リサーチ、D:ビギナークラス、E:こどもとおとな、という 大きく分けると5つの機能ごとにクラスが構成されています。 さらにこの機能ごとにAは4クラス、Bは3クラス、Cは3クラスに分かれています。講師はアメリカ、ノルウェー、ドイツ、ベルギー、韓国、ブラジル、 スペイン、日本から11人が参加していますから、まさに国際的なワークショップですね。私が参加しているのはDのビギナークラスですが、このクラスは11人の講師が1日、もしくは2日間、ダンス初心者に向けてワークを行います(通しで参加すれば、さまざまなダンスメソッドにふれることの出来る素晴らしい機会になるというプログラム)。ビギナークラスは人気があって、ここ数年はずっと固定で参加している方もいらっしゃったようですが、今年はビギナー以外のクラスへ移行された方が大半のようで、ビギナークラスも参加メンバーがガラリと入れ替わった印象を受けました。まあ、万年ビギナーは私くらいかも(笑)。

 今年のビギナークラス3日目はドイツから参加されているカティア・ムストネンさんが講師。彼女はビギナークラス以外にはA:ダンスメソッド&ボディ・コンディショニングとB:コンタクト&インプロビジェーションのクラスを担当。ビギナークラスでもコンタクトインプロをベースにしたワークが行われましたが、特筆すべ きはアプローチの丁寧さ。コンタクトインプロは他者にふれながら(コンタクト)、その時々の状況によって思いがけない動きが生まれる(インプロ)ダンス。でも、ダンスの経験がない方にとって“他者にふれる”ということは、もしかしたら不慣れなことかも知れません。カティアさんはこうしたポイントをとても理解されているようで、ワークではこんなお話をされていました。「コンタクトインプロの要素は相手と接触しながらやっていきます。伝わる感覚は目で見るようなもので、相手から伝わる感覚でどう動くかが大切。」「自分の身体をどう支えていくか、お互いの体重をいかに支えていくかを考えます。」そしてさらに「今日は、こうしたことと逆のことも学んでみましょう。“NO”ということもあるよ、というレッスンです。レッスンを進めていくと当たり前と思ってしまったり、恥ずかしいと思うこともあるかも知れない。」と話しました。ワークはペアで行いましたがAさん「さわっていいよ」→Bさん(Aさんにいろいろなふれかたで接触)「私はさわっている」→Aさん(もう充分だと思ったタイミングで)「ありがとう」と行為を言葉に出しながら行うということに取り組みました。相手に一方的にふれる・ふれられるのではなく、合意しながらふれあうということを試していたのです。こういうていねいなアプローチはワーク全体にわたっていて、彼女のやさしさのようなものを覚えました。動きのふり幅に1~5までの段階を設けて、1の動き、3の動き、5の動き、というように初心者でも理解しやすい工夫をされていたのも、そうしたやさしさの1つでしょうか。

 今回のワークで、私が最も美しいな、もっと見ていたいな、と感じたのはペアワークの後。パートナーと並んでフロアを歩き回りながらワークの感想を述べあうシーンがそうでした。緊張を解かれた解放感もあるのか、参加者のみなさんは本当にいい顔で歩いている。自分の感じたこと、相手の感じていたことを言葉で確認することによって、自分たちの体験を深く理解しなおす喜びがあるのでしょう。丁寧なアプローチの中でダンス初心者の参加者が安心してダンスにふれている、そんな輝きを感じました。何事も初めてふれるものがとても大切。カティアさんのワークは、ダンス初心者にとって、まさに学び始めとして最適だと思いました。

 

カティア・ムストネン(ドイツ / ベルリン)
KATJA MUSTONEN(Germany/Berlin)

フィンランド出身のダンサー、教育者、 ダンスメイカー。ベルリンを拠点に活動している。2004年オウトクンプ(フィンランド)にあるVocational Dance Schoolをダンサーとして卒業。フランクフルト音楽・舞台芸術大学(HfMDK)にて「コンテンポラリーダンス教育法」の修士号を取得。2008年以来、ダンスを学ぶ学生やプロ、ありとあらゆるムーヴメントの愛好家を対象に、コンテンポラリーダンスのテクニックやインプロヴィゼーション、コンタクトを国際的に教え続けている。 存在の有様やイメージを変容させ、具現化し、知識や感情、言語、雰囲気に伝導させる身体の能力に興味がある。近年写真やビデオ、テクストといったほかのメディアとのコラボレーションに関心を寄せており、さまざまな動きの実践や表現方法を用いた制作を行っている。

亀田恵子

大阪府出身。2005 年、日本ダンス評論賞で第 1 席を受賞したことをきっかけにダンス、アートに関する 評論活動をスタート。
会社員を続けながら、個性と創造力とで人生を渡り切るべく奮闘中。

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