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伴戸千雅子「母ちゃんと赤ちゃんのカラダ学 第1回」

2009年04月1日

「ザイアクカン」

 初めまして。伴戸千雅子と申します。
 花嵐というダンスカンパニーで活動する振付家・ダンサーですが、07年に子どもを生み、現在は子育て中の母でもあります。「子育て中の母」と書きながら、「母」という言葉がこっぱずかしい未熟な何者かでもあります。
 ともかく、子どもが出来て生活や人間関係も激変し、今までとは違う自分や、新しい友だちや、もちろん、子どもという新しい生き物と出会いました。「へえーーー」という発見話を「カラダ」に結び付けながら書いていきたいと思います。

 最初に何を書こうかと悩んだのですが、なんとなく「罪悪感」にしよう。
 「ん? なにゆえ罪悪感なの?」。
 というのは、子どもが出来たら、ハッピーハッピーの毎日かと思いきや、ハッピーの裏側の不安・心配、そして「罪悪感」が私にまとわりついてきたのです。何か知らんが、お母さんは子ども、特に小さいうちは子どもに謝ってばかりいるのです。

 妊娠すると身体は「私」を置き去りにして、猛烈に働き出し完全に主導権を握ります。その上、ホルモンとか分泌して「私」をボーっとさせるので、思考力が極度に減少して、物忘れひどい、考えたくない、働きたくない、ゴロゴロしてたい、ニャニャニャーーーという状態になりました。つわりのひどい人は本当に何もできなくなるけど。
 そんなニャーニャー状態で、お医者さんや助産師さんに「体重が増えすぎています」「血圧が高い」とか言われたり、親に「フラフラ出歩くな」「コーヒー飲むな」「そんな腹して踊るな」「なんかあったらどうすんの」とか言われると、口では「大丈夫」と言いつつ、あ、あ、あ、あ、……コーヒー飲んでしもた、ごめんね、赤ちゃん……、ダンス公演で東京行くねん、無理さしてたら、ごめんね……、今までタバコ吸いまくってたし、酒も飲みまくって、不摂生の限りを尽くしてたけど、私の身体の住み心地はどう? ああああ、良いわけないよねぇぇぇ、ごめんよ。
 このようにザイアクカンが始まるのです。「命」の器である絶対的な身体と、今まで好き放題使っていた下僕のような身体と、秤の次元が違いすぎて「私」は完全に萎縮してしまったのです。

 しかし、まだ甘い。出産後はもっとザイアクカンが複雑にからんでくる。
 出産後の「母」の仕事といえば、何はなくとも「おっぱい」。「おっぱいis the solution!」なのですが、やっぱりここもそうすんなりいきません。
 母乳が出る人もいればあまり出ない人もいます。私は出過ぎるのでカロリーのあるものは控えろと言われ、ご飯と納豆と味噌汁ばかり食べていたら、赤ちゃんにぶつぶつが出来て、「豆の取りすぎではないか?」と助産師さんに言われて、やっぱり「ごめんね、赤ちゃん」と謝る。たまには甘いものも食べたいもん、と密かに食べた日に限って、赤ちゃんがおっぱいを吐いて、母親に「甘いもんを食べ過ぎたら、乳を吐くと言うけど……」といわれ無口に。
 ちなみに、おっぱいは乳首の先の一箇所から出るのではなく、数箇所から出てきます。乳腺というもので、飲み残しなどがあると、ある腺のお乳は冷えてまずくなります。温かいのがおいしいおっぱい。時々、おっぱいマッサージにいって、冷えたおっぱいを掃除してもらいました。

 そして、少しずつ子どもが動き始めると、目を離したすきに階段から落ちたりして、また自分のいたらなさに謝る。保育所に預けて、別れ際に絶叫されて、自分が本当にひどいことをしている気分にもなる。
 人に話すと笑い話になるようなことですが、世の中のルールに縛られない自由な子どもという存在が、100%のエネルギーで泣くと、意味なく申し訳ない気持ちでいっぱいになる。と同時に、もう勘弁してよ、私だって一生懸命やってるやん! とイライラする。イライラを抑えきれずに、怒鳴ってしまい「ごめんね、ごめんね、ごめんね」。

 子どもを持って、感情をコントロールできない自分に出会いました。おっぱいを止めた今、シンデレラの魔法がとけたようにおっぱいもペッシャンコに。一方、子どもはキラキラ輝きながら絶対的な身体の力をこれでもかと毎日見せ付けてくれています。
 その身体を前にして、私は謝るしかない日々です。

(つづく)


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伴戸千雅子(ばんど・ちかこ)
ダンスカンパニー「花嵐」のメンバーとして作品を作ったり、踊ったりしている。個人的には、視覚障がい者とのワークショップナビゲーターをつとめ、舞台の演出・振付をする。07年出産以降、子連れママさんと「なんちゃってアフリカン」「こころとからだのストレッチ会」などをやりつつ、生活と表現活動の間で右往左往している。http://baab.cocolog-nifty.com/blog/

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