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砂連尾理「ベルリンゆらゆら日記 第2回」

2009年06月13日

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2009年4月4日
自分の立ち位置が揺るがされる場所に、どう居続けられるのか? このベルリンに来たのも日本とは異なる環境に身を置き、それを一体どれだけやれるのかを試す為に来ているのだとつくづく感じる。昨年から言葉では何となく気になっていた事だが、上野千鶴子が彼女の著書で語っていたアイデンティティーではなくエイジェンシーという感覚でいる事、それをリアルに実感する。
そんな思いの中、来週の即興*で自分がやれる事は祐子さんを始めとする他者とどうやってエイジェンシーとなり、感じ合えるか、それを小細工なしに全身を使って感じようとする事が今回の僕のダンスになる気がする。

(*Yuko KASEKIさんが2004年より国内外のダンサー、ミュージシャンを迎え、ベルリンのDock11で定期的に行っている即興公演『AMMO-NITE GIG』に、27回目のゲストとして出演。参照ウェブサイト:http://www.myspace.com/cocokaseki
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2009年4月8日

合気道でマーティン先生の稽古を受ける。彼には、常に実践を想定した稽古をする事の重要さを教えられる。実践では常に生きるか死ぬかの瀬戸際にあり、気を抜いていると、こちらがやられてしまう。それは全くもって踊る場にも共通していて、そのくらいの気持ちで踊らなければ、お客にはすぐに殺される。もう格好や形なんかではなく、全身を使ってどう相手に向かうか。今週の本番を前にして、いい稽古ができたなと思う。

2009年4月10日
午後4時 即興公演を前日にし、かなりナーバスになっている。
即興は戦略が必要だと思う。しかし頭で考え過ぎてはいけない。
僕がしたい事、彼等の一人一人と相対した時に生まれる動きがしたい。
祐子さんとは何となく方向性を見出せたが、他の音楽家との事が心配だ。
どのように関わりたいのかが見えない。きっと僕にはまだ、どんな相手でもこうすりゃいいやという手管がまだ少ないのだと思う。だから事前にある方向性を立ててどうその時間を生きるか、それを知っておきたいのだと思う。自分の間合いにどう入れるか。まるで死合を前にした心境である。なのにシミュレーションが立てられない。不安だ。
ああ、胃が痛い。

午後6時25分 妻に誘われ桜の花見がてら散歩に出てみた。やはり身体を動かすのは良い事だ。部屋にいては起こらないエネルギーが身体に満ちてきて、とてもポジティブな気分になる。もう何度も思っている事だが明日は無理に踊ろうとしない事、これに尽きる。誰と相対した時にもそこで僕のダンスを発見する行為をやるしかない。それはイメージや思い込みに流される身体ではなく、そう動いてしまう身体をしっかり待って動く事。ここにしか僕のダンスはないのだから、それをするだけ。だいぶ開き直ってきた。

午後7時15分 なぜ踊るのか? 踊る動機がないのなら止まってりゃいい。でも、止まる事をなぜ見せるのかと問われたら、なんと答える。パフォーマンスというのは見せる行為である。わざわざ、ある場所まで呼んで1時間程そんなに座り心地の良いとは言えない椅子に座らせ、一方的に自分たちの行為を見せる。そうまでして呼んだお客さんと一体何を共有したいのか。
他者と出会う事の不確実性、奇跡、そして関わる事の困難さ。その中でせめて感じようとするその行為、それが僕のダンスだし、それは人と共有できるのではないかと思っている。

午後7時55分 この身体を使って、そこにいる人とその場所を認識していく行為。それをかもしながら、お客さんと何かしらの交流をすること。僕を中心にして考えると、他の3人(出演者)とお客さんと、ここにいると認識している僕を揺るがしていく事。認識しながら揺るがす。敢えて踊るなら、揺るがされる事からでしか生まれない。それを形に留めていく行為が僕にとってのダンスなのかもしれない。僕にとってのダンスとは、つまりは揺らぎの瞬間固形化なのか?

2009年4月11日
午前1時半 日付が変わり、とうとう今日が本番。肚が固まってきた。先ずは今考えている構想を祐子さんに話し、後は真剣勝負を彼女に挑むだけ。

午前11時半 午前8時過ぎに起床。ベッドで池田晶子の「14歳からの哲学」を読む。コーヒーを読みながらメールをチェックし、それから朝市へ。気持ちの昂りはあるが、変な緊張ではない感じだ。どう関わるか、そしてどう立つか。


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2009年4月17日

本番が終わって6日経った。今回の僕の試みは、その場に存在している事を疑う事から始め、お客さんや祐子さん、そして劇場の様々なものと関わっていく事によって自らの身体とその場を同時に立ち上げていこうとする試みだった。それは、もちろん100%出来た訳ではないが、自分なりには今回出来ることをやったという意味では満足のいく公演だったと思う。そして今回の公演を通して見えてきた課題はもっと周りの色々なものと交流し受入れ、その感度を上げる事が次へのステップになるのではないかという事。後ろに引かず、ばたつかず、しっかり待って、しっかり受ける。本番を終えると、結局はいつも思っている事がより明確になる、その繰り返しだ。でも、そのアクセス方法を探り当てるのはそう簡単でなく、なかなか明確にならない。

(続く)

砂連尾理(じゃれお・おさむ)

大学入学と同時にダンスを始める。’91年より寺田みさことダンスユニットを結成。又、近年はソロ活動を展開し、舞台作品だけでなく障がいを持つ人やホームレス、子どもとのワークショップも手がけ、ダンスと社会の関わり、その可能性を模索している。’02年7月「TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD 2002」にて、「次代を担う振付家賞」「オーディエンス賞」W受賞。平成16年度京都市芸術文化特別奨励者。昨秋より、文化庁・新進芸術家海外留学制度の研修員としてベルリンに滞在している。
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