大藪もも「もものフランス記 第2回」
2009年05月29日
「同居人はコンゴから」
到着してから2週間ほどの間、フランス語がわからないジャポネがオフィスでできる仕事はなかった。こんなところまで何をしに来たのだろうと思う時もあった。言葉もろくにできないまま、勢いで来てしまった自分がアホだとしか思えなかったときもあった。でも、来てしまったものはしょうがない。今できることをするしかない。ひとまず、この2週間をかけて、街を見、聞き、味わい、学び、楽しんだ。残念ながら付き合ってくれる友達は電子辞書と地図だけだったけど、私は彼らと一緒にCaen中を歩き回った。
なんでもそろうスーパーMONOPRIX、近所のバゲットサンドがおいしいパン屋、
帰国までに一度は入ってみたいカフェ、どこにでもあるよマクド、
漫画も置いてあったよ図書館、でかいよ国立劇場、
街を見渡せるよCaen城、版画のワークショップに参加したよ美術館、
日本語の案内はないよ観光案内センター などなど。
Caenに着いた当初は、帰りたいと思うくらい寂しかったけど、何も出来ないところから自分で歩き出す一歩一歩は、細やかなことさえ大げさに感動的だった。私はちょっとずつ異邦人の楽しみを見出していった。
街を歩くときは1人だったけど、レジデンスには同居人がいた。同居人はコンゴから来たダンサーのプリンシアとオカリ、そして振り付け家のオシだった。残念ながら、彼らもフランス語しか話さない……。彼らの国はアフリカの西岸にあり正式にはコンゴ共和国という。首都はブラザビル。旧ザイールと呼ばれていたところだ。今も紛争が絶えず、治安の安定した国とは言えない。一見何の共通点もないような、私と彼らとの間に1つだけ意外な共通項があった。リビングに簡易の仏壇が置いてあってフランス人の日本趣味かなと思っていたら、実はオシの私物だった。彼は仏教徒だった。「一応仏教徒です」としか言えない私と違って、オシは日曜日には数珠を手にしてお経をあげたりする。私はその横でバナナを食べながら、線香の香りにおじいちゃんの家を思い出していた。
一緒に住んでいるとはいえ、初めのころは言葉も通じない、お互い全然知らない国、文化の中で育った人とどう接していいのかわからない。よそよそしいまま幾日か過ぎていった。仲良くなろうとナゾのカードゲームをしたり、カレーを作って一緒に食べたり、彼らの作る鶏の丸焼きを頂いたり、日本語を教えたり、フランス語を教えてもらったりしているうちに、随分仲良くなった。言葉がなくてもつながりあえるものはあるもんだ。日本にいたら出会うことのなかったであろうコンゴの友人に出会えたことは、私のこれからの人生に確実に影響を与えるであろう衝撃だった。世界は広くこんなにも近い。
明日(4月25日)から京都の暑い夏のメイン期間が始まる。フランスからはエリックが、コンゴ、フランス、日本のダンサーが一緒に踊るオーディション企画 “Just to Dance” を引っさげてやってくる。私はこのオーディンクラスの受付を担当している。おそらくプリンシアとオカリも参加するであろうプロジェクトにに少しでも関われることが嬉しい。海を越え、空を越え、宗教を越え、人種を越え、言葉を越え、政治の壁を越えて出会う文化は逞しく、豊かであると思う。いつか私もコンゴに行きたいと思っていたら、私が制作を務めるschatzkammerにブラザビルで開催されるフェスティバルへのインビテーションが届いた。ただ今、資金調達に奔走中だ。
(つづく)
大籔もも(おおやぶ・もも)
踊りたい制作者。現在schatzkammer制作、coron dance&music運営。時々わが身をもってダンスをお届けし、また時にはこうして文章を書きながら、楽しく踊れる環境の保護・育成にいそしむ。
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