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宮北裕美「《It is written there.》(山下残振付)トルコ公演レポート」
2010年02月20日
10月18日に現地入りし、翌日は仕込みや本番に配る本の最終チェックなどを行い、20日からリハができた。リハの途中で日本と違うなと感じたのは、リノリウムをすごい水拭きするので、舞台がすぐ使えなかったこと。習慣の違いだと思った。現地のスタッフさん達が日本人程働かない、という話をよく聞くけど、ガラジイスタンブール(劇場)は新しいので、スタッフも若く新しくてやる気があったので、やりやすかったというのは照明の三浦さん談。残さんは、ヨーロッパのひな形があるような気がしたと言っていた。空港の送迎や、アーティストとの距離感とか、ご飯につき合うとか、要領のうまい回し方を感じた。それに沿ってやっている感じで、そつが無いけど、その場所ならではの感じが薄いから、要領が悪くても良いのになと思った。スタッフの規模がコンパクトで、ベルギーではもっと色々な人がいたような気がするけど、今回はこなれた人が多かったと言っていた。
本番は、10月20日と21日の2回公演だ。同じ作品だけれど、初演とはまた違った取り組みになったと思う。初演の時との一番の違いは、手話のシーンを自分達でやったこと。日本人なら誰でも知っている歌も、外国人には馴染みの無い歌だから、一歩間違うと全然面白くないシーンが続くことになってしまい、中盤以降の作品の盛り上がりを左右するシーンになった為、残さんが何度も何度も手直ししていたのが印象的だった。手話を崩すことでダンスが産まれてきて、歌詞や手話を伝えるのじゃなくて、手話だって指揮に合わせて4人のダンサーが個性的にやればダンスになることを残さんは切々と説いていて、最終的には昨年のツアーの時とも全然違う展開になったようだった。私は最初は覚えるのに必死で、ダンサーとしてなんとかちゃんと間違わずにやることばかりを考えていたけど、ダンスが産まれるプロセスに注目した残さんの視点に触れて、自分の中に変化が起きたのが良かったです。
そしてやはり気になるのが、お客さんの反応。残さんや他のメンバーともどう思ったか話してみた。私が気づいたのは、本に書いてある色々な言葉から、数人のお客さんに一つずつ選んでもらい、その言葉に呼応したダンスを森下真樹さんが一つずつ披露し、最後に全部繋げて一つのダンスにするという「Please Choose」と私たちが呼んでいるシーンがあり、そこで観客が選ぶものが、マイケルジャクソンやブルースリーなど、トルコでは2日間とも似ていたこと。擬音語のついたものにも反応して、2日間とも選ばれていた。結婚式の紙吹雪のシーンで、歓声があがっていたのも印象的だ。そういえば福留さんは、荒木さんが出て来た時に2日間とも拍手が起こっていたのが不思議な感じだったらしい。確かに今までの公演ではなかった現象だ。
国内外すべての公演を目にしている残さんによると、まず年齢層が若い、同世代の人が多いと感じたとのこと。ベルギーではマダムとジェントルマンという感じがしたけど、今回はカジュアルな感じがしたと。また、全体的に反応は温かい感じながらも、ストイック気味と感じられたらしい。ブリュッセル公演の時は観客はとにかく笑いたいという感じで、ページをめくる事で笑っていたが、トルコは日本の観客に近くて、ちゃんと受け取って、理解してから笑っている感じ。それに、笑いだけでなく、チューリップなど静かに反応していたり、花火のシーンなどでしみじみしっとり反応している感じがしたという。密かに心配していた911のシーンでは、反感をかって、観客が席を立って帰って行ったらどうしようかと思っていたらしい。でもみんなちゃんと聞いてくれていた。「トルコはNATOの基地があったりして、複雑な事情があるので、日本人が911のことを話していることを批判するというよりは、しっかり聞いてくれた。政治的なものを見るのに慣れている感じがする。メッセージを伝えようとしているのではなく、そこにあるから伝えようとしている。生きている中でそういう事件も時々あるよね、だけどそれも受け入れないといけないよねってのをトルコの人たちが分かっている気がした」と。
以下は、アフタートークとワークショップでお客さんから出てきた質問だ。走り書きのメモだけれど、公演の貴重なドキュメントだと思うので、残さんの許可も得て掲載させてもらいます。
Q:作品の出発点は何か。
A:振付を言葉にすることによって、自分なりの踊りの記録法や振付法を言葉にしようと思った。美術館で絵がかけられていて、そこに作家のパンフレットが置いてあり、訪れた人が、作品を目の前にして、パンフレットの方を読んでいた。その光景が面白くて、舞台でもできないかと思ったこと。
Q:本の内容と舞台上で行われていることが、そのままの動作を表している時もあれば、舞台と全然違っている時もあるが、どういう基準があるのか。
A:目の前に行われていることを、そのまま言葉にする、その「そのまま」っていうことは何かっていうのをいつも考えている。そのままってのはありえないが、例えば一見そのままと捉えられることも、(右手をあげるなど、そのままと思われる動作も)、そのままではないし、他方詩的な動作をして、一見そのままに見えないこともある。言葉の使い方にしても、具体的な動作を言葉にすることによって、ダンサーが自由になることもあれば、詩的な言葉で、ダンサーが不自由になることもある。言葉と動作の自由と制約のせめぎ合いをやっている。7回ジャンプするって、そのままやんって思うけど、ダンサーは自由を感じたりする。何が自由か何が不自由か、体と言葉のおいかけっこをしている感じ。
Q:なんで数字は100から0に行くか
A:ダンスというものは、どのような状況にしろ、体を動かして熱くなる、高みを求めるものだと思うけど、私が踊ることを考えた時に、人間っていうのは終わりに向かっていくことは間違いなくて、ただ、死に向かっていくことは間違いないが、死などに魅力を感じている訳ではなくて、死に向かっていくことを前提にして、自分がどうあるか、どう生きるかを、つまりどう踊るかが、僕のダンス。状況が0に向かって行く中でどうあるか、人間がもっと楽しくなる(=数字が増えてゆく)かを訴えるようなものではなく、状況の中で自分がどうあるか、どういうふうになりたいかではなく、どういう状況にあるか、が僕にとってのダンスの創作。
僕の中では当たりまえのこととして、カウントダウンだった。よく考えたら、そういうことかなと思っている。
Q:チューリップや花火などは、言葉がって動きができたのですか?
A:いいえ。スタジオで休憩して座っている時に、「あっこれは花火を見ているみたいだな」とか、ストレッチをして手を動かしている時に「あっこれはチューリップみたいだな」と思ったので、動きが先にあり、言葉がついてきた。
Q:あなたにとって時間とは何ですか。
A:みなさんから見て日本というのは忙しくてせかせか動いているイメージがあるかもしれませんが、僕は京都で生活していて、京都は古い町でマイペースな生活をしています。周りが忙しく生活している中で、私はマイペースで生活しているので、まわりが早く動いている中で、僕はゆっくり時間を流していると思います。
終わってみて振返ると、初演の時は新作だったから、すごい時間を創作に費やして、朝から晩まで出演者が一緒に時間を過ごしていたので、舞台には出てこない色々なことを実は共有していたのだなと今になって分かりました。初演では個人の感情やよく分からない心の糟みたいなものが、混沌とした舞台に、散らばっていて、山下残ダンス作品でありながらも、私は自分を語ることをやめられなかった。というか、自分の中で渦巻いている色々な感覚や感情を出そうと思って出しているのではなくて、止める事ができなかったから、舞台に現れてしまった、という感じがあった。なので、作品を自分から引き離すことがとても難しかったのですが、今回はそのようなことはありませんでした。作品が既にあるものだし、別のメンバーで再演を経てきた作品に参加して、作品の筋道や、山下残さんの見せたい空間や作品像がクリアになっていたので、終わった後にすっきりしました。
宮北裕美(みやきた・ひろみ)
ダンサー・振付家。イリノイ大学芸術学部ダンス科卒業。美術家や音楽家との共同制作や、ドキュメンタリーフィルムの上映会、ライブハウスのイベント企画など、あちこち寄り道をしながら、現在にいたる。09年はArt Theater dB柿落とし公演や山下残「It is written there.」のダンサーとしてトルコで開催されたiDansに参加するなど舞台活動の幅を広げる。
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