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鈴木ユキオダンスワークショップ参加レポート (亀田恵子)
2009年12月13日
■日時:2009年11月6日(金)-8日(日)全4回
■場所:京都精華大学
執筆:Arts&Theatre→Literacy 亀田恵子
写真提供:京都精華大学 GARDEN事務局
◇ どうしてワークショップ?
京都精華大学で開催された鈴木ユキオさんのダンスワークショップに参加してきました。普段は会社員として働いている私ですが、ときどきダンスのワークショプに参加しています。参加理由はそのときどきによって違うのですが、いつもごく個人的な理由が多いように思います。例えば今回は次の3つが参加のきっかけ。
① 最近ぜんぜん身体を動かしていないなあ。② そろそろ京都に行くころかなあ。③ 鈴木ユキオさんってどんな人なんだろう??
京都には年に何度か私用で上洛しているのですが、京都市動物園の裏手にある町屋に滞在するのが楽しみになっています。夜明けごろに聞こえる空腹のライオンの吠え声や、騒ぎ立てるお猿の声がふっと聞きたくなってしまうんです。不便で仕方のない町屋での暮らしもなぜだか魅力的に感じてしまいます。普段の便利で不自由のない日々に不満を述べるつもりはないのですが、どうにもスッキリしなくなってきてしまう。身体を動かさなくてはと思うのに、なぜか面倒に感じてしまう。日ごろ運動習慣のない私には、あえて環境を変えて意図的に不自由にしないと、身体を動かそうという気持ちが出てこないみたいです。自分でも「変なヤツだなあ。」と思うのですが、私は京都にやって来ると観光ではなくて「不便さ」を感じながらダンスに触れていることが多いです。
◇ 私、詰まってる?
市バスと大学行きのバスを乗り継いで、会場である京都精華大学に到着したのはワークショプ開始時間を10分ほど過ぎた時間。恐縮しながら扉を開けると、参加者がちょうど1つのワークを終えたあとのような雰囲気。鈴木さんやみなさんに遅れたお詫びをし、受付の方から簡単にこれまでの流れを伺って合流しました。着なれないジャージに不安をそっと隠しながら、私のワークショップがはじまりました。
「それでは、ジャンプしてみましょうか。」
鈴木さんに促され、参加者はその場でピョンピョンとジャンプをはじめます。1回、2回、3回…10回を越えたくらいで運動不足の私の膝はレロレロになってくる。つま先で跳べばいいのか、足の裏全体で跳べばいいのか、そんなことが気になって周りをキョロキョロ。『肩の力は抜けた方がきっといいんだよね、じゃあどうすればいいんだっけ?えーっと…。』跳ぶことってシンプルだったはずなのに、ジャンプしているだけでグルグルいろいろな想いが浮かんできました。
「では、頭をゆっくりまわしてみましょう。ただまわすのではなくて、頭が大きくなったと想像してみて下さい。重さを感じてまわしてみましょう。」
鈴木さんの声を聞きつつ、ゼイゼイと息を荒げていた私ですが、ここでギブアップするにはあまりにも情けない。ジャンプしただけでリタイヤなんてあんまりです。気持ちを切り替えて、鈴木さんに預けられた言葉を租借します。
『頭を大きくするって、どのくらい大きくしようかな。』『この大きさだったらどのくらい重いんだろう。』『どうせなら、すっごく大きくしてみようかな。』実際には頭を大きくすることは出来ないので、じっくりと探るような感覚で頭をまわしていきます。するといつもより動きがゆっくりになっていることに気づきます。大きさと重さをイメージしただけで動きの速度が変化したのです。おもしろいなと思いながら辺りを見回すと、人それぞれにまわす速度が違います。きっとそれぞれが大きさの違う頭をまわしているのでしょう。とてつもなく大きな頭をまわしている人がいて、何だかおかしかったです。
「探るように」という感覚は「身体を使って想像する」ということと同じだと思うのですが、この行為に慣れるまでずいぶん気力を消耗するような気がしました。何かが詰まったホースに水を通すような独特の抵抗といえばいいでしょうか。想像を続けたいのに、途中で途切れてしまうのです。大きさをイメージしていても途中で大きさがよく分からなくなったりしてしまう。でも、これはワークの後半になると精度が上がっていくのを実感しました。詰まりがどんどん解消されて、想像に反応する身体の速度が速まったように思います。
◇「遊ぶ」のだ。
鈴木さんのワークに参加するにあたって不安だったのは「日ごろの運動不足」でした。ダンスのワークショップにはこうして時々参加しますが、通しでの参加はほとんどしていません。いつも1コマ(だいたい3時間くらい)を1日2回程で“さわる”程度。このワークショップではハードに動きをくり返す時間や前述したような探索の時間もありましたが、みんなで鬼ごっこのようなアクティビティを楽しむ時間もあり、体力切れの心配をする間もなく時間が過ぎていきました。どうも体力だけで乗り切るワークとは違っていたようです。3日間のワークショップでは質の違う楽しさがバランスよく配置され、同じ動きを適度に反復したことで身体の感覚が変わっていくのを感じることも出来ました。そして、どのワークにも共通していたのは「遊ぶ」ということでした。
小さなボールをイメージして、そのボールが右手の指先から転がりだして腕の中を転がり落ち、腰を経由して左足へと移動。そこからボールは身体を貫通して外へと飛び出すけれども、また戻って来て左手の指先から身体の中へと入ってくる。そしてまた腕の中を転がり腰を経由して右手の指先から外へ・・・ちょうどこの動きは全身を使って無限のマークを描くようになります。鈴木さんは「ボールを(身体の外へ)どこまで飛ばすかは、それぞれのイメージで構わないです。自分のペースでやってみて下さい。」と促し、参加者それぞれがイメージするボールと空間と身体の関係を探索していました。それを鈴木さんは「いろいろ試してみて下さい。遊びですから。」と声をかけていました。自分の身体を使っていろいろ試してみること、それが鈴木流の「遊び」のようです。私は小さな子どもたちが何でもおもちゃにして逞しく遊んでいる姿を思い浮かべながら、ボールを遠くまで飛ばしたり、循環させる速度を変えたり、ボールそのものの大きさや質を変えたりして何度もトライしてみました。身体を動かしているので当然体力を使っているはずなのですが、かなり長い時間動き続けることが出来ました・・・動いていたという感覚よりも探したり見つけたりしていたので、運動しているときによく感じる苦痛はどこかに忘れていたようでした(終わったあとにはゼイゼイが襲ってきましたが・・・)。
「時間を自分でつくればいいんですよ。どこまで飛ばすか、どんな速度でボールを回すのか、それぞれのペースでやってみて下さい。」
遊びは時間まで創造してしまうのだと思いました。
◇「感じていること」と「見え方」は別問題。
2日目は気持ちのいい快晴。紅葉のはじまったキャンパス付近の山々を窓の外に眺めながら、さわやかな風と噴水の音を感じるような贅沢な環境でした。自然と身体とガランとした会場、そんなシンプルな中に20名ほどの参加者がこの日も集まって、ワークショップはスタートしました。
今回のワークショップでは、くり返し行ったワークがいくつかありましたが、その中でも特徴的だったのは「外からの力」によって動かされる身体と、その見せ方でした。鈴木さんのワークショップに参加していて印象的だったのは「見え方について意識しよう」という呼びかけが多かったこと。ダンスのワークショップでは身体感覚にフォーカスしたもの、見せ方=振付やダンサーとしての技術的なことにフォーカスしたものなどさまざまですが、身体感覚と見え方の双方をリンクさせ、且つ言語化して提示してくれたものは記憶にありません。もちろん、そうしたアプローチは皆無ではありませんが、講師の方から明確に提示されたことがなかったように思うのです。「外からの力によって動かされる身体と、その見せ方」についてのワーク、簡単にレポートしてみたいと思います。
例えば胸の一部をグイっと外に向かって引っ張られているとイメージして動いてみるというワーク。形としては胸を突き出す格好になります。そこに鈴木さんはその動きを胸だけでなくさらに全身を使ってイメージをかたちづくるように促していきます。
「目の前に崖があって、そこに落ちたくないと思いながら限界まで引っ張られてみて下さい。」
参加者は目には見えない何かに引っ張られるような形になって、バタンと倒れます。それぞれがそれぞれの引っ張られ方をしているのがユニーク。ところどころで笑い声も聞こえます。
「次は引っ張られていない部分も意識してみましょう。見え方としては同じかも知れませんが、逆に考えると引っ張られていない部分を強調することで引っ張られている部分が明確になるということもいえますね。」
参加者はこうして1つの見え方に対して1箇所だけでなく複数の箇所を身体の中に意識することになるのでした。
「出来れば目を開けてみましょう。はじめは閉じていても構いませんが、慣れたら閉じていたときの感覚を覚えながら動いてみましょう。」
「感覚を確かめながらていねいに動いていると、自然と動きはゆっくりになりますが、感覚をつかめたら速度をあげて反射的に動いてみましょう。それでもていねいさは伝わります。感覚を電気信号みたいに速度をあげてやってみましょう。」
「(立っている姿勢での目の高さを示しながら)このあたりには力があります。床から起き上がって、このあたりの力も感じながら動いてみましょう。」
鈴木さんの言葉からは動いている人の感覚と、その結果としての動きのズレを意識していることが伝わってきました。確かに自分自身が目を閉じているといつもより敏感に感覚を捕らえることが出来るように感じますが、自分以外の人がひたすら目を閉じて動いているのを見ているとあまり面白くない気がします。床に転がっているだけのパフォーマンスもやっぱりつまらない。スローなだけの身体の動きもだんだん飽きてくる気がします。鈴木さんの穏やかな声に耳をすませながら、ふと『じゃあ、見ていたくなるおもしろい身体ってどんな身体なんだろう?』と不意に思いました。また、『なぜ人はおもしろい身体を見ていたくなるんだろう?』と思いました。
◇ 全身を使って「imagine」する。
2,3日目のワークでは参加者を2つに分けて、それぞれ自分のイメージする動きを実際に試しながら、互いに観察しあうということを丹念に行いました。人前で実際に動いてみるのは恥ずかしさやプレッシャーもあるので緊張します。動きだすまでは若干トーンダウンしてしまうのですが、それでも実際にやってみることでそんな気持ちを突破することも出来ました。とにかくやって試すことでいろいろな発見が出来たのが新鮮でした。私の場合はもともと動けず、踊れないという自覚が強いので、ワークショップの場では講師の声に従ってみるしかありません。もっている動きの資源が乏しいので、とにかく言われることを試すしかないというのが実情ですが、これはかえって楽なことなのかも知れないと思いました。うまく出来ないのが前提にあるので、とにかく素直に試してみればいいだけなのです。ワークショップは試みたり練習をすることが許される場なので、完成度までは求められることは少ないのです。翻って会社生活などでは性急に成果を求められることがほとんどですから、この楽しさと安心感は格別です。また、ひとりで試作をくり返しているわけではなく、他の人の動きを観察するということもワークショップならでは魅力。目を閉じて動いている人の身体、床をずっと転がっている人の身体、スローな身体、目は開かれているのに心がどこにあるのかわからない身体、床を這っていたと思ったらあらぬ方向に吹き飛んでいく身体、速度がどんどん変化していく身体…いろいろな身体を見ているうちに、ずっと見ていたいおもしろい身体のイメージが自分の中に浮かんでくるのを感じました。
「動くこと/見ること」…この2つを体感することが今回のワークショップでは大切にされていたように思います。
最後のワークでは、2組に分かれた参加者が横一列に並び、背後に壁があることをイメージするというところからはじまりました。
「うしろに壁があります。壁になっても構いません。それを自分が引っ張っていると思いながら、ゆっくり前に進んでみて下さい。しばらくしたら、壁は崩れます。5分間かけて、壁を崩して下さい。自分のペースで大丈夫です。」
私は最初、観察する側でしたが動いている人それぞれの背負っている壁が違っていたり、引っ張り方が違っていたりするのがおもしろくて夢中になって観察をしていました。窓の外からは噴水の音が聞こえてさわやかな風が吹き込む穏やかな空間でしたが、参加者それぞれのさまざまな時間が交錯してとても濃密な時間のように思いました。ぐっとこらえていた人がグシャンと一気に崩れたり、じわじわと溶けていくように崩れたり、崩れ方も本当にさまざまでした。みんなそれぞれにイメージしているストーリーがあるのだな、と思いました。
私は自分が壁になったつもりで動いてみましたが、驚くほどイメージすることに集中している自分がいました。このワークの様子をよりリアルにレポートしたいと思い、私の想像していたストーリーをお話してみたいと思います。ご参考になればいいなと思います。
‐‐‐身の丈より少しだけ高い壁が左右にどこまでも続いていて、その壁の表面には砂糖菓子のアイシングのような薄い膜がかかっている。そっと動かなければ当然ヒビが入ってしまう。自分は壁の一部であるが、今立っているところから少しずつでもいいから前へ進みたいと思っている。境界を変えたいと願っている。けれどもその変化は見つかると咎められてしまうので、気付かれないようにそっと動かなければならない。ヒビが入らないように、動かせるのは足の指だけだ。・・・壁が崩れる…鈴木さんの声が壁の崩壊を告げる。左右の壁の端から崩壊がはじまり、遠い場所からシャラシャラと音をたてながら壁が崩れてくるのが耳の中に伝わってくる。あれだけ慎重にやってきた努力も報われないと思うと突発的に悲しさが襲ってくる。崩壊はやがて自分の両肩に伝播して、壁である私自身も崩れ始める。肩を落としながら膝が崩れていく。全身がゆっくりと下降しながら膝から左肩が床へと落ち、両足が完全に身体を支えることを止め、右腕の重さが崩れた勢いの残像のように床にパタリと垂れると全ての崩壊が完了。顔は天井を向き、目は開いているのにもう何も写してはいない‐‐‐
こんなに詳細なストーリーを想像し続けられたことが本当に驚きだったのです。普段はリフレッシュのために温泉に行っても5分と浸かっていられない落ち着きのない私が、このワークでは想像の空間にじっと耳をすませ、自分が自ら創造した時間の中に生きることが出来たのです。遠慮や迷いはまったく感じませんでした。この感覚がとても新鮮で、ワーク終了後はしばらくの間呆然としてしまいました。しかもこの脱力感がとても心地よくて、ずっとこうしていたいとさえ感じられたほどでした。こんなに集中出来たのかを自分なりに考えたのですが、3日間かけて身体を動かしていくうちに、自分の中の雑音がリセットされたことが原因ではないかと思えました。想像すること(=感覚を探索すること)に集中するには、身体を動かすことが大切。そして、頭だけではなく全身を使って想像する方が絶対的に楽しいし、圧倒的にクリアになるのだと感じました。全身で想像していくと、それは単なる空想で終わらずに実体験のような強さをはらむのではないか、そんな風にも思いました。
◇「踊ること/見ること」そして、おもしろい身体とは?
ワークショップ終了後、参加者と鈴木さんとでフィードバックを行いました。いろいろな感想や意見が出ましたが、中でも「いろいろな参加者(ダンサー、会社員、学生、主婦など)がいて、それぞれに違った身体が見られるのがワークショップの醍醐味。」という感想が印象的でした。「見ていたくなるおもしろい身体」はいろいろあると思うのですが、このワークを通して感じた私の私見は「目には見えない関係性を感じさせる身体」なのかなと思いました。人は関係性の中に生きているといっても過言ではありません。これは常に意識していることだと思います。だから、関係性のにおいのするものについては注意をひきつけられてしまうのでしょう。「外からの力」によって引っ張られているような身体を目にし、そして次に予測がつかない方向に変速しながら動きだす身体を見ると、人は『アレ?何がそうさせているのかな?』と見続けてしまう。不思議なことですが、目には見えない存在を意識しているという点が興味深いと思います。見えている身体はもちろんなのですが、その身体に影響を及ぼしている何ものか…気配や予感を見ようとしているのではないでしょうか。もちろん、心理的なカラクリだけがおもしろさの原点ではありません。そうした原理を超えてしまう理由のわからない身体が突如として現れることが舞台上で作品を見ることの醍醐味なのだと思います。
今回のワークショップでは、「踊ること/見ること」の2つを体験することで「どんな身体が自分にとっておもしろいのか/それはなぜなのか」について考察することが出来ました。とても貴重な経験だったと思います。鈴木さん、参加者のみなさん、本当にありがとうございました。
亀田 恵子(かめだ・けいこ)
大阪府出身。工業デザインやビジュアルデザインの基礎を学び、愛知県内の企業に就職。2005年、日本ダンス評論賞で第1席を受賞したことをきっかけにダンス、アートに関する評論活動をスタート。2007年に京都造形芸術大学の鑑賞者研究プロジェクトに参加(現在の活動母体であるArts&Theatre→Literacyの活動理念はこのプロジェクトに起因)。会社員を続けながら、アートやダンスを社会とリンクしたいと模索する日々。
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