2009年06月25日

C-2(クリエイション) エリック・ラムルー 身体が衝動的に、直感的に反応していく瞬間、エネルギーが混じり合い、交換され、豊かになるいくつもの分岐点を経験します。他者と次々に交差するなかで、その状態、関係性、変化を身体でとらえつつ、個人固有の身体が次の歩みへと向っていき、ダンスが生まれていく過程を探っていきます。



prof_ericエリック・ラムルー (France/Caen フランス/カーン)
カーン国立振付センター芸術監督。カンパニー・ファトゥミラムルーをエラ・ファトゥミと共同主宰する。優れた身体能力に裏付けられた大胆なムーブメントと、高い音楽性に支えられたロマンティシズム、そして実験精神に基づいたオリジナリティーの高い振付/美術で、’90年バニョレ振付家コンクールに『ユザイス』でデビューするや、アヴィニヨン演劇祭、リヨンビエンナーレなど一躍注目を浴び、国際的に活躍している。’99年フランス政府派遣アーティストとして関西日仏交流会館に滞在。『芸術祭典・京』(’99)「コーチング・プロジェクト」(’04/京都芸術センター)に作品提供するなど日本にも縁が深い。現在、日、仏、コンゴ3カ国共同製作作品を企画中。オーディションのためにエラ・ファトゥミも来日する。

講堂の、大きくずっしりとした扉をくぐると、そこには少し不思議空間が広がっていた。

入り口付近にズッラーと並んだ山ほどの靴、中央で踊る大柄の外人男性、そして彼を囲むかのように入念にストレッチをする人々。小学校の講堂でこんな風景が広がるなんてシュールでいいなァなんて思いながら、郷に従って靴をぬぎ脇にチョコンと座る。

言うまでもなく”彼”とはエリック・ラムルー氏のこと。まるでギリシャ彫刻だとか人体模型だとかでみるような理想的な骨格に均整のとれた肉体の持ち主だった。クラス前に振付けをしているのか、彼の周りだけ明らかに空気が違う。彼が動くたびに、彼の周りの空気が動いていくのが見えるような、そういう印象。受講者もその雰囲気に慣れているのか、各自マイペースにストレッチをしたり、受講者同士コミュニケーションをとっていた。

というようなことを思っているうちに、クラスがスタート。クラスの流れは大まかに言うと、ムーブメントのコンビネーションを順々にしていって、最終的にその練習がshowingに向けた振付けのパーツになっていくという感じ。

しかしそのムーブメントのユニークなこと(少なくとも私にとっては)! 例えば、よくいつも最初にする動きは2人1組になって講堂の端から端までひたすら絡まりながら転がっていくというもの。まぁ平たく言えば、ミミズ2匹がクロスしながら床を這いずり回る風景がそこかしこに広がっていたといったところか。初めてこれをみた時は「これは一体……、何の練習だろう」と思うほど、正直傍目からは狙いが皆目分からなかった。が、そんな中エリック氏の指導が容赦なく入る。フランス語も交えながら全身でパワフルに。

(掌を遠くに伸ばしながら)「I go! I go!! I gooo!!!!」

「=どんどん先の方に身体を伸ばしていって!」

多分このフレーズをワンレッスンごと100回くらい聞いたんじゃないだろうか。彼の振付けはとても伸びやかでいて、時に空間を切るような振付けが印象的だった。手足をのびやかに大きく動かさないと、スパッと切り替わるような動きが引き立たないのだろう。

(見学者の私たちに向かって)「だからこのフロアワークはとてもいいんだよ、君たちも見てないでやってみたら?」

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Photo by I. Takeda

ある種エスプリの利いた茶目っ気と、ギリシャ彫刻ボディから繰り出されるのびやかでキレのあるお手本。それに引き寄せられるように受講者も積極的にトライする。そういう雰囲気が途切れず2時間半続くのは、エリック氏の牽引力もさることながらこのクラスがshowingという舞台作品の創作を兼ねているということと、オーディション対象クラスでもあったからだと思う。

フロアワークをある程度こなしてから、中盤は音楽の流れにのって先に習ったムーブメントのコンビネーション、終盤はshowingの作品づくりへとクラスは進行していく。疲れがみえるはずの終盤になる程、受講者たちの表情は爛々。音楽とともにエリック氏の振付けが息を吹き返す瞬間の面白みだとか、作品の創作過程で受講者同士意見を出し合う姿勢だとか、そういったものがチラチラうかがえた。

聞くところによると、遠方からの受講者もいるとのことで、他のオーディション対象クラスでみた顔の人もいた。また中には受講者同士顔見知りになって情報交換したりするシーンも。残念ながらshowingとオーディションの現場に私は立ち合えなかったのだが、やはりこの2つの目玉があるだけにクラスの雰囲気も独特のものがあったように思う。ただ単にenjoyするだけじゃない、色のついた光線のようなものが交錯する空間でもあった。

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Photo by I. Takeda

特にワークショップ後半でメインにしていたshowingの作品づくりは記憶に残っている。新聞を小道具にした作品で、”現代に氾濫する情報社会”(日本語で表現すると大げさになるが、私にはそう聞こえた)についてエリック氏と受講者たちが共同で創作していた。新聞がどういったモチーフとしてこの場面では表現されようとしているのか、ここではどういう動きを見せて観客にどういったものを伝えたいのか、などなど通し稽古でエリック氏が細かく伝えていく。受講者の即興の振付けなどのアイデアもどんどん取り入れて。(受講者にはあらかじめどういったニュースを伝えたいのか課題を課してディスカッションをしていた)今までのフロアワークでしたムーブメントがとてもナチュラルに音楽にとけ込んで、みるみるうちに作品が創られていく過程が印象的で、通し稽古後には見物客から拍手もでた。

今回数日間このワークショップで飛び込み見学的な位置づけでこのクラスをみせていただいた身ではあるが、エリック氏と受講者の創作showを間近で鑑賞できたような気分だった。普段の生活ではなかなかこういった時間を共有する空間は見つけにくいだけに、本当に貴重な体験の連続。このレポートを通じて、少しでもその空気を伝えられれば幸いである。

最後にこのワークショップづくりに携われた方々に感謝を込めて、お礼申し上げたい。ありがとうございました。

イワハシ ジュンコ 大学時代から唐突に始めた創作ダンスに魅せられ、既卒後もダンススタジオのレッスンを通して踊り続ける。学生時代に感じたダンス作品の創作現場に立ち合いたく、今回のワークショップドキュメンタリー班に参加。
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