interview

岡登志子 × 中村恩恵 Dance Exchange Project「Pyjamas」インタビュー

2012年08月9日

 内から外へ/外から内へー身体へのアプローチにおける普遍的な二つの極を自在に行き来できるように。
 岡登志子と中村恩恵の間で始められていた交流が、それぞれのカンパニー、アンサンブル・ゾネ(Ensemble Sonne)とダンス・サンガ(Dance Sanga)の間に拡大し、その成果がそれぞれの拠点にワークショップと公演というかたちで還元される。カンパニー間のエクスチェンジという、日本ではなかなかそこまで行われない試みは、どのように進んでいるのか。仕上げに入った8月3日にお話をうかがった。


pyjamasEnsemble Sonne × Dance Sanga Dance Exchange Project 公演 「Pyjamas」vol.1
『Between Lines』(2010年初演)
 振付・演出 中村恩恵
『Still moving 2』(2011年初演) short version
 振付・演出 岡登志子
出演:Dance Sanga、Ensemble Sonne 他
日時:2012年8月25日(土)15:00 、19:00
会場:Art Theater dB 神戸
URL:http://dance-exchange.jimdo.com/


+中村さんがアンサンブル・ゾネの公演で岡さんの作品を踊られたことから、今回のプロジェクトに至る経緯を教えてください。

岡:私は常に作品に出ていただくダンサーを探しているのですが、垂直の美しいダンサーをということで、ある方に中村さんを紹介していただいたのが始まりです。接点が何もなかったので、私からはまずは自分のメソッドを見てもらえませんかと提案して、そこから少しずつ交流を始めて、作品を一つ踊ってもらうことでより理解が深まるかなと、2010年の『Fleeting light』に出演してもらいました。振付の背景となる考え方もあるので、一度きりではなく、そこから続けて作品に出ていただくことになりました。

中村:すでに3作品になるのですが、その間即興でセッションをしたりする折りに岡さんが大切にされているメソッドを教わり、私のダンサーもそこに参加するようになりました。今回のプロジェクトは、最初は二つのカンパニーの間でということだったのですが、こういった知の共有の場をオープンにして、ダンス界にも何か還元するところがあればということで、一般向けのワークショップも一緒に行うことにしました。

+振付にとどまらない、メソッドレベルでの交換とは具体的に?

岡:私は初めて作品に出ていただく時はいつも、振付の前にメソッドのクラスを受けてもらい、基礎を知って貰うようにしているんです。共通言語というか、基礎という接点がある上で、理解しやすくなると思います。すでにおなじ共通言語を持っている場合はいいのですが、日本ではなかなかそういうことがない。特にコンテンポラリー・ダンスは、基礎が人それぞれ。ユニークなダンサーを発掘したりということはあるけれど、現実に自分の振付を踊ってもらおうと思うと、それでは正確に人を動かせない。体に対しての共通の地図のようなものがあった上で、同じところに行きつく道筋も伝えてゆけるし、自分の身体言語を話してもらえる信頼性も出てくるとも思うんです。

中村:岡さんのメソッドに出会ったのは、バレエだけでなく自分が知っているものに縛られないでもっと自由になりたいななど、いろいろ考えていた時のことでした。私は、子供の時にバレエを始めて以来バレエをベースに踊ってきて、コントラクションやフロアの動きを使った作品も踊りましたが、その基盤にあるメソッドを習ったことはありませんでした。そんな自分の中で欠落していたものを積み上げて耕すことができるという感触を得て、岡さんのメソッドを、自分が一緒に活動しているダンサーとも共有したいなと思ったんです。
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 そもそもサンガのダンサーは、2年前にメソッドの開発に着手し始めた時に、協力的に集まってくれたメンバーです。残念ながら、まだメソッドと言えるほどのはっきりしたものは確立されていません。それでも自分たちなりに2年間、体や動きについて一生懸命考え実践してきたことを、アンサンブル・ゾネのカンパニーと共有する事は、メソッドの確立の為の大切なプロセスになると考えています。

岡:知らないところでお互いを知ろうと思うと、自分をさらけ出さなければならないところがあるので、自分のテリトリーだけじゃなくて、今まで踏み込んだところがない領域が、エクスチェンジで知りあうことを通して探究されてゆくのでは。
 私自身もゾネのダンサーも、中村さんとサンガのメンバーとご一緒して、刺激を受けるところが大きいです。中村さんはとても豊かな経験をお持ちの方なので、これまでも、自分の振付がここまでの解釈になって充実するのかということを思い知らされることが多々ありました。それで、こういった機会をもうけることは、自分も含めゾネのダンサーたちにいい影響になると考えたんです。

+4月からのリハーサル/ワークショップの中で見えてきたことは?

岡:まず、二人で教えているということが面白いかな。受けている人にしてみたら、違った価値観の間を行ったり来たりするわけですよね。

中村:今日も言っていたんですが、岡さんのやり方である程度体が立ち上がってくると、私がいったん壊す(笑)。

岡:意図的にではなくて、そもそも持っているバックグラウンドや作風も踊り方も違うので、交互にやっているとそうなるんです。接点はあってももとが違っているので、お互いに興味があるんですよね。

中村:そう。私の振りでも岡さんが「こういうふうにしたら、こうつながって発展してゆくでしょう」とつなげてゆくのも面白くて。一見すると違う質感なんだけど、岡さんのメソッドでやっていることがそのまま通用するといったことも起こります。

岡:無意識なんだけど、私のメソッドが中村さんの振付に反映してきたり、両方の振りの中で共通点が見つかったり。それは共通する人間の体に流れている底力を使っているからかなと思っていました。
 あと、中村さんがレパートリーを教えている姿を見ていてすごいと思ったのは、事細かにその状況を言葉で説明できるところ。

中村:ほとんど実況中継してますよね(笑)。

岡:そう。それは、キリアン氏の作品をコーチングしてきたからなんでしょう。複雑な作品もこなされてきたと思うんですが、高度に細分化した部分で、振付もしつつ、言葉でも説明していかなくちゃならない。それをいろんなダンサー、例えばパリ・オペラ座のダンサーといった強者ダンサーを相手にやってきたんだなあという経験が見えて、私もいい勉強になります。

中村:いつもとても限られた時間で決められた成果をださなければならないので、自分が欲しい成果をあの手この手で引き出してくるように自然と鍛えられたんですね。

岡:公開ワークショップの他に、私や中村さんではなくて、カンパニーメンバーが教えるというかたちで、ダンサーの間でもエクスチェンジをしてコーチング体験を積んでもらったのも良かったなと思います。

中村:私もキリアン作品のコーチングをし始めて、作品の全体像が見えたり、解釈が深まったりしました。ダンサーが作家の世界をトータルで理解するにはいいことだと思います。
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 私自身はこのエクスチェンジの中で、人は、自分が知っていることに引き寄せてしか新しいものが解釈できないということを改めて噛みしめています。岡さんに新しい振付をもらって、それを全面的に受け入れようとしても、例えばカタカナ英語みたいに、自分たちのできる発音の仕方でしか出てこない。長く活動していればいる程、ポケットの中に多くの要素を持っていますが、逆にそれが邪魔して新しい事をニュートラルに受け止められなくなることがあります。ポケットに入っているものを捨てて新しいものを入れようとしても、難しい・・・。

岡:勇気がいりますよね。

中村:そうですね。私は、自分の立っているところから「この人の作品はこうだな」というより、相手の懐に入って、相手の側から感じて進めていきたい。でも頭ではそう思っても、実際にそれを体に置き換えるのは大変なことなんです。また、ダンサーがどのような行程や声がけでよりオープンになれるのか、逆にブロックするのかも見えてきます。踊りだけでなく、自分とは異なる価値観に出会うとき、如何に他者を深く理解し得るか、また寛容でいられるかが私にとっては大きなテーマです。

岡:そこで、こういうワークショップをして、共有する時間を持つということが大事になってくる。色眼鏡を持ちすぎてわからなかったことが、ワークショップということで、わからなくてもとりあえずその世界を自分の体で受け止めて、そこから自分でどうかと返してゆく機会になってゆくのかなと思います。これは私自身がそうだからなのですが。
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+リハーサルはどのくらい進んでいるのですか。

岡:それぞれのレパートリー作品の中に、お互いのダンサーが混ざり合って入るというかたちの再演なのですが、だいたい今日で仕上げに入りました。

中村:普通はエクスチェンジっていうと、そっくりダンサーを入れ替えたり、一つのカンパニーに作品を提供するというかたちの再演が多いですが、両作品とも二つのカンパニーのダンサーが混ざって踊るので、細かいレベルでの違いも見えてきます。自分が引き出せる側面と、岡さんが引き出せる側面が違うので、岡作品のなかでサンガのダンサーが私の知らない輝き方をしているのを目撃しダンサーを再認識する事もしばしばあります。

岡:一つの世界観の中だけでやっていくのとまた違う世界をダンサーに見せるというのは、それはさっき言った勇気がいると言ったことと似ている。そうしてダンサーから新しく見せて貰った側面で、さらに作品へのイマジネーションが拡がってゆきます。

+ vol.1ということは、その先がさらに期待されますね。『パジャマ』というタイトルについては?

岡:なくてはならないもの、でもそれを身につけてはあまり人前に出て行かないものにちなんで『パジャマ』なんですよ。ものづくりって、常に自分自身を耕して作品を深めていかないと、創作の質っていうのが出てこないと思うのですが、表向きの顔ばかりじゃなくて、そういった見えないでいてとても大事なことをやろうと、このプロジェクトでは思っているんです。

中村:それは私にとっては、よそ行きの服をはがせないこれまでの舞踊活動の有りようとは逆からのアプローチなんです。私はずっとプロで踊ってきたので、自分が感じることや、ダンサーとして考えることとは関係なく、興行を成功させること、成果を出すことを常に求められてきました。毎日鏡を見て自分を外からどう見えるか、何が求められているかという目でチェックする。それはとても大事なことですが、岡さんと初めて仕事をした時に、「内側に掘り下げていって、自分の内側で感じたことを体で増幅して外に出す」とおっしゃっていたのが深く心に響きました。外から求められている姿に自分を近づけていくのと、自分の実感をともなったものを、内側から掘り起こして育み外へと表して行くのでは大きな違いがあります。

岡:対極ですよね。両方あるということが大事だと思うんです。自分がどう見られているかわからないで踊るのは、もちろんよいことではないし、日本にいるとプロで食べていけるということが少ないので、中村さんの経験には学ぶ価値のあることがいっぱいある。常に両極を見据えて、そのどちらにも自分をつなげてゆくということがいい経験になるのではないでしょうか。
 踊りって、すぐ経済に結びつくものではないけど、生きる上では大切なものじゃないかと私は思っているのですが、劇場に自分を見つめ直しに行くといったら大げさだけど、たとえば図書館に行くような身近さで、劇場に行けるようにもう少しならないかなとも思います。それで、レパートリーを交換するといった、一見非生産的に見える地道なことを、次の創作の肥やしになるといったことになればいいなと。今回は『パジャマ』vol.1で、今後もエクスチェンジを続けていって、ちょっとした公演をすることになったら『パジャマ』vol.2になる。そういったかたちで続けてゆければなと思います。

(2012年8月3日取材)
撮影:ヒロ・オオタケ

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Ensemble Sonne/主宰・岡登志子
ドイツのFolkwang芸術大学舞踊科卒業の岡が、神戸を拠点にアンサンブル・ゾネを設立。現代に生きる私たちの共通の身体を通して、人間の実存を問う作品づくりを目指し、年に1作品のペースで新作を発表している。1996,1998,2004年旧バニョレ国際振付賞日本プラットフォームに選出。舞台作品の発表のほか、近年は音楽家高瀬アキや内橋和久らとの即興公演も継続的に行っている。 http://ensemblesonne.com/


Dance Sanga/主宰・中村恩恵
イリ・キリアンが率いるNDTにて活躍の後、’07年にDance Sangaを横浜に設立。社会に対して、又現代社会に生きる人間に対して、舞踊が担うべき”役割”や”可能性”について思索し、実践に繋げて行くことを主軸として活動を展開。 Noism、K-Ballet、新国立劇場などの委嘱作品も多数手がける。オランダGolden Theater Prize、ニムラ舞踊賞、舞踊批評家協会新人賞、文化庁芸術選奨文部科学大臣賞、江口隆哉賞などの受賞歴をもつ。

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