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砂連尾理「ベルリンゆらゆら日記 第1回」

2009年04月22日

昨年10月よりベルリンに滞在している舞踊家、砂連尾理による、
日々のあわいで感じることがら、人々との出会いなど。





2009年2月15日

 コリーナやカロルといったTheater Thikwa(テアーター・ティクヴァ:障がい者のダンスカンパニー)の面白い連中に会えて、自分にとってのダンスを再考させられる。
 上昇し、エネルギーに満ちあふれているものこそ目指すべき身体なのだという発想がいまだに多くの社会で根付いているように思うのだが、それは一体どこまで続けられるのだろう。もちろん、そんな身体があっても良いのだけれど、それだけじゃない身体、例えば彼等のような身体をもっと顧みても良いと思う。鍛えた身体でなくても充分にコミュニケートし表現できる。そんな所から生まれる身体操作をいま自分は求め、考えたいのだなとつくづく感じる。


2009年2月21日

 糞づまりになった。5時間もの間、糞が出そうで出ずもがいた。
 そんな状況では理屈も何もあったもんじゃなく、ただただ早く糞を出したいという一念だけで、その時の自分の慌てっぷりには我ながら驚いたし情けなかった。でも、それと同時に頭が考えている以上に身体の頑張りと逞しさに出会い、自分の身体もなかなか捨てたもんじゃないなと嬉しくも感じた。


2009年3月8日

 Thikwaの稽古に参加していて、コリーナの身体性にとても惹かれる。
 彼女は、自分の動きに没頭する。その集中力はとても強い。
 それはもう表現しているのかどうか分からない程で、思い込んでいるというか、表現する自意識を捨てているというか、他者との関わりや約束事を一切捨てているような無防備さ、そう感じているのだもの、というある存在のあり方。それは僕が真似をしても意味がないのだけれど、そんな予測のつかない身体をどう獲得していけばよいのだろう。自意識と気遣いを捨てていく事に自分は何を見ているのか、そしてその身体にどんな愛着を感じているのか、コントロールと構築の真逆にある身体、そんな身体がこの世に在ってよいのだとコリーナを見ていて考えさせられる。

2009年3月14日
 今回ベルリンに住んでみて、他国や異なる環境に少しいたぐらいでそこの事を分かった気になってはいけないし、分かるはずがないとつくづく感じる。それよりはそういった環境に身を置く事によって、揺らされながら相対化される自分の身体の拠り所をしっかり認識すること、そして、そこで揺れ続けながらも何を引き受けていくかということを考えながら生きる事が重要だなと思う。


2009年3月25日

 ポツダムでピチェとジェロームの作品を観る。冒頭から東洋と西洋の身体と意識、その距離の差を感じさせられる。最初はジェロームがピチェに質問していく。そこで僕は完全にジェローム側からピチェを観ていることを感じる。それは意識中心で身体を捉えている地点だ。そしてピチェのある種、自然や神や神話の世界と身体をつむいでいる関係をうらやましがっている自分がいる。そんなピチェに様々な質問をし、また彼に質問返しされていくジェロームの恥じらいは正に日本に住んでいる自分にも重なっている。一見、ピチェと同じ東洋のものと思われてしまう私の身体は彼のそれとは明らかに隔たりがある。とは言えジェロームのように徹底的に思考している身体まで開き直っているかと言うとそれに対してもある距離を取ろうとしている。このパフォーマンスを観て、自分に一番突きつけられた事は、一体私がどの地点に立つのかと問われたことだ。ピチェでもなくジェロームでもないとしたら一体どういう身体を引き受けることなのか?
 それにしてもラスト近くの思考する身体をあそこまでさらしたジェロームはとても潔く、その存在のあり方はピチェのそれと全く遜色なく美しかった。

 
2009年3月30日

 先週の土曜にベルリン在住17年目で元大駱駝館のMさんと夕御飯をご一緒する。彼女がこちらに来る時、麿さんは”何かをしようと思わず、ただ両目をひんむいてヨーロッパ見てくりゃいい”と言って彼女を送り出したらしい。そんな事が言える麿さんは懐が深くて素敵な人だなって思う。

(続く)



砂連尾理(じゃれお・おさむ)

大学入学と同時にダンスを始める。’91年より寺田みさことダンスユニットを結成。又、近年はソロ活動を展開し、舞台作品だけでなく障がいを持つ人やホームレス、子どもとのワークショップも手がけ、ダンスと社会の関わり、その可能性を模索している。’02年7月「TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD 2002」にて、「次代を担う振付家賞」「オーディエンス賞」W受賞。平成16年度京都市芸術文化特別奨励者。昨秋より、文化庁・新進芸術家海外留学制度の研修員としてベルリンに滞在している。

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