interview

「淡海現代ダンス計画」森川弘和『a4』

2011年02月22日

 卓越した運動能力で知られる森川弘和が、いまだ遊び飽きない「紙と戯れる」シリーズ。第三弾の『a4(コモジ エーヨン)』が、昨年の『瞬き』に続き、「淡海現代ダンス計画」で発表されます。一つめの『A4(エーヨン)』からの森川氏と森本氏[Schatzkammer]、二つめの『AAAA(エーフォー)』から加わった筆谷氏。今回の企画者である、しが県民芸術創造館の白崎氏を交えて、創作のプロセスについてお話しいただきました。

撮影:森本達郎
撮影:森本達郎

『a4』(コモジ エーヨン) 公演
出演:森川弘和  美術:森本達郎[Schatzkammer]  照明:筆谷亮也
日時:2011年3月5日(土)14:00/19:00〜6日(日)16:00
会場:しが県民芸術創造館 リハーサル室
URL:淡海現代ダンス計画 『a4』(コモジ エーヨン) 公演


 昨年に続く「淡海現代ダンス計画」で、森川さんの公演を組んだのはなぜですか。

白崎 この計画は、「生活/教育福祉/滋賀発」ということを三本柱にしているので、その滋賀発で、森川さんの公演をすることにしました。森川さんは、各地で評価されているダンサーですが、東京などでの仕事が多く、出身地の滋賀で彼だけの作品を見る機会はありませんでした。そこで、昨年の『瞬き』が終わって、すぐに声をかけたんです。

 いわゆる地方の文化事業は、中央で評価を得た作品を紹介することが多かったわけで、そこで行われてこなかったことですね。「紙と戯れる」シリーズになったのは?

白崎 『A4』は見ていたので、彼等の提案を受けて、創造館で実現可能だと判断しました。森本さんの美術はシンプルで、ものと関わることから開かれる可能性がある。筆谷さんも、もともと建築から来ている人なので、照明が空間をつくることにまで及んでいる。この3人の組み合わせでいける、と。

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◆ 100%思い通りにはならない紙

 「紙と戯れる」アイデアは、どこから?

森本 『A4』は、舞台美術が一番先にあって、つまり、私が紙を使いたかったんです。もともとSchatzkammerの公演枠で作られた作品で、そこでは僕が美術、ダンサーはダンスをお互いに出し合うという創作のスタイルなので。そこから、森川さんの身体性を見た時、わりとミニマルな空間と相性がいいと思ったので、面白いことができないかと声をかけたんです。

 白紙を模した『A4』のフライヤーデザインも、作品にぴったりでしたが、そもそもなぜ紙を?

森本 ちょうどその頃は、ダンサーに制約をかける美術を探していたんです。紙は面材ではあるけれど、重ねていくと立体的な塊としても捉えられる。それにつれて用途も変わる。手にも持てるし、積んで置いたら台にもなる。どんどん変化していくので、制約のかけかたが丁度いいかなと。

森川 確かに、思い通りになり切らない。一枚でも巧く扱えないこともあるし、例えば机として見立てても、崩れたくないところで崩れたりする。本物の机は、練習すればたぶん、100%に近く扱えると思うけど、紙だとそうはいかない。でも、逆に自由。形や見立てが変わっていくところなど、シンプルなアイデアなのに、使い道がたくさんある。たぶん、それを見つけていくのが面白いんだと思います。

 私が観客として引き込まれたのは、一つはそこです。自分の体ならいくらでも制御できてしまう森川さんが、紙との関わりを探る中で“遊び”が生まれる。より楽しもうとすると、「落とさない」だとかのルールも自ずとできるし、観客も見ているうちにそれらを共有して、遊びの共犯者になってゆく。遊戯の誕生とその輪の広がりに、リアルに立ち会わせる構造だと思ったんです。

白崎 その展開は、僕には全く違って見えました。あのオブジェがだんだん紙に見えなくなってきて、アナログな物体でなく、デジタルな情報に見えてきた。あの堆積はインターネットのサーバで、その情報に、森川さんがだんだん埋もれてゆくと…。

筆谷 僕もそれに近い印象も感じていました。森川さんと紙の関係性に現代社会的なものが重なって見えていた状態です。反復の動きが、ルーティーンワークのように繰り返されていくところが特にそう見えたんだと思います。
 でもその中で、時間の経過とともに少しずつ変化がおこっていったんです。とりきめられた繰り返しの中で、この感覚に気付いたときに、むしろ自由になってゆく印象が際立ってみえてきました。特に遊び心がある動きや、森川さんがそれを楽しんでいるのが見える瞬間に心を動かされたように思います。

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◆ それまではきれいにやろうとしていた

森本 『A4』を作りながら、森川さんは、「自分が見えてきたほうが面白くなりそうだ」って、よく言ってましたよね。紙技(一枚の紙を弄ぶことで展開してゆく動き)をやっているときに、「人が見える」というか。

森川 紙技については、森本くんが最初に言い出した。「そうやって紙を手で弄ぶのは面白いですね」って。

森本 そしたら、「いや、それは面白くないやろう」って、言われたんですけど(笑)。

森川 そうだったかな(笑)。最初は、動きのつながり方については、ダンス的につるつるした、言ってみれば「カッコいいでしょ」みたいなのを狙っていたんでしょうね。で、紙を扱っているとそういうわけにはいかず、練習しながら翻弄されているうちに、それを逆に活かせるんじゃないかと。それまではきっと、失敗したくないと、きれいにやろうとしていた。でも失敗して「あぁ」ってなったとして、それを見せていいんじゃないか、むしろ作品に取り込めるんじゃないか。そう思ってから視野が広がった。もちろん、作品の中ではある程度準備した“失敗”になるけど、見ている人に作品に入ってきてもらえるようなきっかけになれば、と。

 そこで、運動以外の質が見えるんですね。以前の作品は、完璧に制御された動きで構成されていたけれど。

森川 たぶんそういうのを目指していたんだと思うんですよね。モノクローム・サーカスにいた時代にしても、かなりストイックな感じだったと思います。『A4』で紙技をやりながら、自分を見せるってところにチャレンジしていったのは、僕にとっての転機だったかなと思っています。


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◆ 「わからない」が「面白い」へ

 そうした「面白さ」は、共同作業の中でどのように膨らんでゆくのですか。

森川 すんなりではないです。僕は何かを提示された時、それが面白いと思っても、負けずぎらいだから素直に受け入れられない。その面白さを使って、自分が納得するまでもくもくと作業を繰り返します。
…森本君は、紙技のシーンで失敗する姿を見せることについて、最初はあんまりよく思っていなかったでしょう?

森本 そう。僕はわりと森川さん以上にミニマルで、ぴしっとしたのが好きだから、「できるようになるまで練習すればいいんじゃない?」って(笑)。でも、稽古の中で、森川さんが「自分を見せる」って言う意味がわかってきてからは、面白いなと。

筆谷 僕は『AAAA』から入ったメンバーなんですけれど、森本さんと同じように、クリエイションの中で森川さんの感じる面白さが最初はわからなかった瞬間が何度かありました。いまだから言いますけど(笑)森川さんが「きっとこれは面白い」と感じて、提案してくれるのがものすごく伝わってくるんですけど、自分の感覚では「うーん」となってしまっていて。そんな状態でも森川さんはものすごく真剣に、結構な時間をかけてその実験している。その時は僕にはこれがいったい何になるのか見えていなかったんです。そうこうしているうちに創作が進んで、全体の作品の中でシーンとして組みこまれたりしていくと、自分でも心から「これは面白い」と確信する瞬間が来たりする。森川さんには、そういう魅力があると思います。わからなくとも、そこに賭けたいと思わせるところも含めて。

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森本 森川さんは、頑固だけど器用で、確かに想像しないものが返ってくる。僕はSchatzkammerでダンス作品を作ってはいますが、ダンスを見てて飽きることが多いんです。ダンサーに美術を提供すると、ダンスで返されるのが普通でしょう。でも森川さんは、紙という要素をちゃんと通過して、身体性に変えてくれる。筆谷君も、照明の提案によって作品が更新されるようなきっかけを作ってくれる。そうやって、各々が持って来たものが、現場で違うものに変わっていく面白さはあると思います。

森川 1人ひとりの個性的なアイデアが集まることによって、1+1は2以上のものが立ち現れてくる瞬間というのがいいですね。そういった、出来事だけがたまってゆくというか、ふくらんでゆく時間は、一緒にやっていて楽しいところです。その時間を形にしないといけないけど、半分くらいはできてるかな?

(2011年2月14日@京都芸術センター 制作室)
写真協力:白崎清史
取材:古後奈緒子


森川弘和 Hirokazu Morikawa
滋賀県在住。22歳で渡仏しマイムとサーカスを学ぶ。帰国後、京都を拠点に活動するMonochrome Circusのダンサーとして5年間活躍。’07年よりフリーとなる。好奇心と探究心をもってからだに向き合い、その可能性を楽しみ、突き詰める。モチーフや振付家の意図が自分のからだを通り抜けたときに、新しい何かを生み出すための装置/フィルターとして機能する身体を模索し、また感情や感覚がからだを動かすこと、動物としての心身をも探求する。ドライな動きであり、かつ動物的な感覚をもつパフォーマンスは、出演する作品の中で高い評価を得ている。自身の作品を発表する他、小野寺修二/カンパニーデラシネラ、じゅんじゅんSCIENCE、dumbtype、Ted Stofferら、様々な振付家のもとプロジェクトに参加している。


森本達郎Tatsuro Morimoto
茨城県出身。京都市在住。’01年、夏目美和子と Schatzkammerを結成し、主に構成・演出を担当。作品に応じて映像、音響、舞台美術、宣伝美術などを手がける。近年は「新たな動きを想起させるための制約」をコンセプトにダンサーへ舞台美術を提示し、モノと身体とのより強い関わりからパフォーマンス作品を作り出している。また、’05年にデザイン事務所 Design Company artclickを京都に設立。グラフィック、ウェブ、映像など幅広く展開する。チラシやウェブが作品の一部となるようなデザインを提案し、デザイナーとしての立場からも「見る者」を作品へ取り込む「仕掛け」を模索している。


筆谷亮也 Ryoya Fudetani
香川県 小豆島出身。2000年より関西を中心に活動を開始。建築を学びつつ、インテリア・ディスプレイデザイン、インスタレーション作品の発表、イベントでのアートディレクションをgraf 、アップルストア、CLUB QUATTROなど様々な空間で行う。2005年以降ライティングによる空間演出を活動の中心としつつ、イベントの企画/アートディレクションや照明演出を軸に置くパフォーマンスプロジェクトを展開する。2008年よりパフォーミングアーツカンパニーdotsに参加。同年、パリのルーヴル美術館で行われたアートフェア『PARIS PHOTO』では、オープニングパフォーマンス『山口典子 ケイタイガールマーチングプロジェクト』にディレクターとして参加する。dots、川崎アートセンターでの滞在制作作品『AAAA』(森川弘和×青柳拓次)や、古いアパート1棟をまるまる使い1部屋を1シーンとして作品を構成した『フワフープ』など、多くの作品に照明を担当すると同時にクリエイションメンバーとして参加する。

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