2010年09月17日

~Life & Theater 生きるからだ、踊るからだ~
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 2010年8月19日~22日にかけてCIMJことContact Improvisation Meeting Japanが今年も開催されました。2007年、今は閉館となってしまった滋賀会館を舞台に始まったCIMJも今年で4年目となりました。昨年からは会場をびわ湖ホールに移し、各地から集まった多彩なゲスト&参加者がコンタクトを通じてギュッと詰まった4日間を味わいました。今年のゲスト・クリエーターは照明家の魚森理恵、美術家の川瀬知代、俳優&演出家のごまのはえ、の三氏。ゲストには参加者ととともにワークショップに参加していただきながら、異なる分野からの視点を注入していただきました。まず、1日のプログラムは「コンタクトことはじめ」(以下「ことはじめ」)でコンタクトの基礎を体験することから始まります。湖畔での昼食を挟んで午後からは「振付とコンタクト」、「コミュニケーションとコンタクト」の2クラスに分かれて、それぞれの視点からコンタクトの世界にダイブ。そして、夕方からはびわ湖ホールの各所を舞台に変えるクリエイションのクラス「場所とコンタクト」(以下「場所コン」)へと突入します。最終日には「場所とコンタクト」の参加者たちが4日間かけて作り上げた作品を公開するダンスツアーが開催され、終了後には今回のワークショップやダンスツアーの作品を振り返るダイアローグの時間が設けられていました。今回は最終日行われたダイアローグでのゲストや講師の発言を取り上げながら、今年のCIMJを振り返ってみたいと思います。

 ダイアローグの冒頭でとても印象的だったのが、昨年に引き続き「場所とコンタクト」講師としてお招きしているgrafの服部滋樹さんの「場所コン」に関する発言。

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 「1年たって新しく見えた。回廊のところでは去年は見えていなかったものが見えてきた。まさしくこれが建築とコンタクトじゃないかな。空間に身体が入ることで浄化してくれたというか」

 今回「場所コン」で使用したスペースは、大きく分けて5つあります。通称「金魚鉢」と呼ばれている地下リハーサル室横にある中庭的な吹き抜けスペース、1階「搬入口」、3階「回廊」、外へ出て四角く区切られた「芝生」、そしてびわ湖の水面が美しい「展望プラザ」を舞台に8組が作品を発表しました。服部さんも指摘しているように「回廊」は去年も使用された空間で、何度も見ているはずなのに「あれ? こんなとこあったけ?」と思わされるほど、見えてくるものが違っていました。一つの空間を舞台として注意深く見つめた「場所コン」参加者の身体によって、その空間の新たな視点が明らかにされること。それが「浄化」という一言によって表現されるとは、自分の中にはなかったフレーズだったので感性の違いを感じました。去年は見えなかった空間の視点があるように、服部さんにはデザインや建築の専門家としての目で、舞台に関わる私とは別の視点をもって違うものを見ているのだと思うと、そこがもっと知りたくなりました。

 同じく「場所コン」について、自身も展望プラザでの作品に出演していたごまさんは

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 「ペットに値段をつけるようなもので、お金にはかえられないよさがある」

とおっしゃっていました。「場所コン」ではたった4日間という限られた時間の中で、そこで出会った参加者同士が、真剣に作品を作っていきます。たかがワークショップのショーイングと言ってしまえばそれまでなのですが、そんなことは関係になしに皆、モノを作ることの楽しさに魅入られた人たちばかりのようです。単純に、真剣に何かに取り組める瞬間は外から見ても本人の充実感がキラキラして見えます。

 また、普段は舞台の照明家さんとして光を操っている魚森さんは、

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 「パフォーマンスの場合だと、お客さんの居心地の良さとか考えるんですが、裕子さん(「ことはじめ」講師の森裕子のこと)が居心地が悪いのも一興とだといったのは、そういうこともあるのかと気づかされました」

 丁度、魚森さんたちが作品を作っていたのは金魚鉢と呼ばれる空間で、リハーサル室と廊下をつなぐ第1扉と第2扉の間の狭い空間にできたガラス窓から観るという、いかにも「場所コン」ならではのビュースポットでした。狭い空間に押し込められた人たちが必死にガラス窓を覗き込んでいる姿は、それだけでパフォーマンスのようでした。

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 コンタクト初体験だった川瀬さんからこんな感想がでました。

 「踊るのは初めてで、人と触れるのとか悪い気がしてできなかったけど、それを普通にコミュニケーションツールとしてやっていることにとても驚いた。私は絵を描いて、見た人の心がほぐれたり、自分が作ることで対話するんですが、触れることでコミュニケーションするって最強だなと思いました。絵なんか描いていてもな…と」

 衝撃的なファースト・ミーティングだったようです。私もダンス初めがコンタクト初めだったので、川瀬さんと同じく衝撃を受けた人でした。
 コンタクトの日常では、あり得ない接触度合いに慣れる、というかそういう時間として受け入れるにはちょっと時間がかかりました。コンタクトのコミュニケーションは場合によっては、とても日常から遠いところにありますが、言語を解さず、触れるというシンプルで、ストレートで、ともすると生々しいその方法は、昨今の整理されすぎた感のある日常から、一歩引き離してくれるような気がします。私はとりつかれた人の一人です。

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 私は今回は「場所コン」には参加せず、ツアーガイド兼撮影班として、外からの観察に徹していました。初めは皆と一緒に作れない寂しさもあったのですが、各チームを回るうち、この瞬間をどうしても形にして残したいという思いに駆られました。どうにもそのままに形にするには、まだまだ力量不足ですが、私の心の中にはくっきりとそれぞれのシーンが残っています。「場所コン」に限らず、ワークやツアーに参加した人もこの一期一会の瞬間を心に記憶されたことと思います。また、来年には来年の違う私と、あなたと、場所が出会う瞬間を持ちたいと思います。  

 では、また次回お会いできる日まで、さようなりん~♪


大籔もも(おおやぶ・もも)
CIMJ2010スタッフ。踊りたい制作者。フリーの制作者としてダンスの舞台、イベントを手伝ったり、仕掛けたり。時々わが身をもってダンスをお届けし、また時にはこうして文章を書きながら、楽しく踊れる環境の保護・育成にいそしむ。
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