2009年07月14日

E-2(メディアとダンス) 飯名尚人 ダンスを作りながら、ダンス以外のメディアも制作していくワークショップ。映像、サウンド、照明など、舞台芸術に必要な要素を取り入れて作品作りを行い、最終日にはグループごとにショーイングを行います。ダンスと映像のコラボレーションを中心に行うので、特別難しい技術は使いません。簡単なプログラムやカメラワーク、演出方法などを紹介します。グループ(4名まで)での参加もおすすめです。



prof_iina飯名尚人  (日本/東京)
Dance and Media Japanディレクター。ダンスとデジタルテクノロジーの融合を目指し、「メディア・パフォーマンス」のジャンルでワークショップ、レクチャー、パフォーマンスを行っている。ベルリン拠点のメディアパフォーマンスユニット『ポストシアター』、オハッド・ナハリン(バットシェバ舞踊団芸術監督)のメソッド「ガガ」を日本で広める『GAGA/JAPAN』のほか『マムシュカ東京』『国際ダンス映像祭』など多数の企画を手がける。『DANCE×MUSIC!』(主催:JCDN)では、映像作家として参加。東京造形大学、名古屋学芸大学非常勤講師。
 ワークショップ初日、芸術センターのセミナールームへと足早に向かう。まだ5月初旬にもかかわらずむっとした熱気が扉を開けたとたん身体に伝わり、足を踏み入れたとたんに緊張が増す。こちらの存在に気づいた飯名さんと少しぎこちない挨拶を交わす。Dance and Media Japan(以下、DMJ)のディレクター、飯名尚人。映像とダンスを融合させる人。グレーの帽子にTシャツにジーンズといったカジュアルな格好をした彼は、その経歴から私がすでに抱いていたイメージや、ダンス初心者であるが故のよそ者意識による警戒心までもあっという間に解いてしまうほど、気さくな「隣のお兄さん」的雰囲気に溢れていた。
 3日間にわたるワークショップの初日は、今年から初めて行なわれる「映像とダンス」のクラスということもあってだろうか、全国各地から男性、女性共に大勢の受講者が集まり、飯名さんを大きく囲んで座る。「このワークショップでは最終日に5分間の映像を使ったダンスを発表することが目標だから」と、今回の目的を告げ、映像とダンスを使った作品の紹介に入る。まずスクリーンに写し出されたのはDMJのスパイラルホール(東京)での初公演でアーティストのChristian Zieglerを招聘した際の映像。ダンサーのストイックに鍛えられた肉体の流れるような動きに合わせてスクリーンに映し出される映像の色や音質、音量が変化していくという作品。続いて、パフォーマンス、映像を中心に活動を行なうグループ、post theaterの作品へと繋ぐ。アメリカ西部開拓時代に活躍したカウガール『カラミティー•ジェーン』をモチーフにした演劇『6 Feet Deeper』や、サイトスペシフィックの手法を取り入れた『Skin Site』、アメリカの片田舎に住む冴えない高校生が一躍ダンスでスターになるストーリーを描いた映画『Napoleon Dynamite』から着想を得たオーディションを演劇にした『Napoleon D』など、これまで美術の分野にどっぷり浸かってきた自分が抱いていたダンスや演劇に対する偏ったイメージが揺らぎ始め、その境界線がすっかりわからなくなってしまった。
 2日目はパソコンとビデオカメラをセットし、リアルタイムエフェクトソフト「ISADORA」を使ったエクササイズから始まる。リアルタイムエフェクトとは、アナログの動きをコンピューターを通し数値化するというソフトウェアで、Zieglerの出演している作品にも用いられている手法である。まず、手本として飯名さんがカメラの前に手をかざす。ビデオカメラを通じてリアルタイムにスクリーンに映し出される飯名さんの手の動きに合わせて、「バチッバチッ」という破裂音がセミナールームに響き渡り、「おぉ〜」「へぇ〜」といった驚きの声があちらこちらから聞こえる。飯名さん曰く、もともとは「こういうことができたらいいよね(!)」というダンサーの限りない想像力から生み出されたソフトということだけあり、ダンスと融合させた偶発的な映像やサウンドをつくるだけでなく、ありものの映像を取りこんだり、手を加えたりすることもできる。私たちもカメラの前に立ち、自由に身体を動かしながらその感覚を身体で確認する。何か新しいことを見たり、したりするだけで面白いと思ってしまう私にとって、「(映像とダンスを使った作品をつくる際)リアルタイムエフェクトを使うだけでは出オチになるから面白くない。観客はそんなに見てくれないから、そこは演出でコントロールしなければいけない。」という飯名さんの一言が頭に残り、独りよがりになりがちな自分を振り返り反省する。

 午後になり、コンピューターでの作業から少し離れ、映像を観る。奇才David Lynchの『ツイン·ピークス』での演劇的な効果を使った映像や、映画『ラストデイズ』のオフカット映像集の中の、演劇の要素を交えた作品を見る。彼の持つ「ダンサーではないが、表現者ではある」という視点は、アーティストであり映画監督でもあるリンチが映画というものを独自の角度で切り取ったように、私たち自身がダンスという表現を用いて映像とどう絡み、その作品を構成し、演出し、観客に見せるのかという、表現におけるあらゆる課題に向けられている。そして、ダンスや演劇は作者が見せたい箇所を映像や映画の様にズームや編集でコントロールできないライヴなのだ。

 いよいよ最終日、ショーイングのために芸術センター内の一室が用意された。さすが元小学校の教室ということだけあり、掲示板の上にセットされたスクリーンも、客席用に設けられた小さなイスも、しっくりと様になる。全部で9組のパフォーマンスには、最後のコメントの際にダンサーの森裕子さんが指摘されたように、「いろいろなバックグラウンドの人があつまった」からこそ起こり得る科学反応があった。このワークショップでの経験を通して吸収したテクニックを用いた作品や、その要素を用いてダンサーが映像を構成するスイッチとなる作品だけでなく、ダンスと映像のライヴ性をうまく取り入れ、演劇的な手法を取り込んだものなど、それらの作品に「映像とは何かということを拡大解釈してオリジナリティーをつくっていきたい」という飯名さんのワークに対する姿勢を見せてもらったような気がした。場所や空間との対話を通して、作品を構成する様々な要素を学ぶ中で出てきた制作に対する課題と可能性が浮かび上がって来た。

上田聖子(うえだ・まさこ)
イギリスで美術教育を受け、ほぼ野放しに近い状態で学ぶ中「なんでもあり!」な現代美術の表現に大変興味を持つ。好奇心の向かうままに、今回暑い夏と出会う。
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