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「踊りに行くぜ!!vol.10 清水文化センターマジカルダンスツアー」

2010年02月4日

協力:JCDN


おどり

 『踊りに行くぜ!!』というタイトルを初めて耳にしたとき、ちょっと慣れない感じがしたのを覚えている。劇場でダンスを見ることは、ダンサーが招聘されて公演が開催されるというイメージが強かったので『踊りに行くぜ!!』というよりも『踊りに来るんだね。』という印象があったのだと思う。一瞬、何だか強気なタイトルだとも思った。売り言葉に買い言葉ではないが、『来るなら来い!』とワクワクした。ダンサー側の挑発に観客である自分も乗せられるという気分、それが楽しいと感じた。早いもので、それから月日は流れ、この企画も2009年の開催で10周年を迎えた。ダンサーたちが「呼ばれて行く」というスタンスから、文字どおり自ら「躍り出る」というスタイルを確立して10年。連綿と継続されてきたこの事実は、1つの時代が形成されたともいえるのではないだろうか。

 全国を縦断するように各地で開催されるこのイベント、今年は33作品が18会場で上演された。私は地元・愛知県春日井市での上演を逃してしまったので、静岡公演に駆けつけた。ダンスなんて見たことのない年下の友人に「静岡においしいお寿司を食べに行かない?チケットプレゼントするから。」とメールを入れた。彼女からの返信は「じゃあ、静岡おでんも食べようよ!」だった。きっかけは何でも構わないと思っていたが、これは考えてみれば実は大きなことかも知れない。地元の観光資源を有効に使ってダンスを見てもらうきっかけがつくれるともいえるし、ダンスが観光客動員の一要因になるともいえるのだ(この企画では2会場で公演を鑑賞して「スタンプ」を集めると、スペシャル公演のチケットがもらえるというスタンプラリーも開催していたので、こういうことは想定内なのかも知れないが・・・)。『踊りに来るんだね。』と待っていた自分が、今度は『踊り、見に行くぜ!!』になっていた。ダンサーが変われば、観客も変わるのかも知れない。

<LOOBY MY LOVE> 構成:近藤良平/出演者:ワークショップ参加者

 受付を済ませると、レトロな雰囲気漂うロビーに案内された。観客はみなロビーの手前側にペタンと腰を降ろしているか、立ち見。場内は多くの観客で賑わっていたが、案内をしているスタッフが非常に明るく楽しそうな印象があった。本番前なのに、ピリピリした感じではなく「トイレはあちらです・・・あ、まだ充分時間ありますからぁ。」とニコニコしている。何だか拍子抜けしたが、そのスタッフの明るさが会場の狭さや混雑といったストレスを緩和させていたように思う。「盛り上げ隊」と呼ばれる白ヘルメットに黒サングラスというボランティアスタッフたちも看板を持って案内するなど、手作り感も満載だった。もしかしたら、観客よりもスタッフの方が楽しんでいるのではないか、そう思えるくらいに明るく楽しい雰囲気が会場を満たしていた。
1  近藤良平が構成した1本目の作品は、この賑やかなロビーで上演された。スタートは客と対面側にあるロビーのガラス窓の外から。閉じられていたカーテンが開かれると、ライトアップされた中に出演者たちがいた。観客からはワッと歓声が上がり、楽しい舞台が幕を開けた。
2  この作品の出演者は、一般市民。近藤良平のワークショップに参加し、作品をつくってきた人たちだ。性別、年代、身体の個性、多様な顔ぶれのメンバーだが、数名のダンス経験者が含まれていたように思う。彼女たちは作品のポイントとなるシーンではソロも披露したが、全体を通してメンバーをサポートし、さりげないコンビネーションをつくりだしていた。近藤は楽器演奏のパートで参加していたが、参加者のキャラクターをうまく引き出し、メンバー間のバランス取りをする手腕はさすがだと感じた。窓辺に一列に並べた椅子を使った流れのある動きからはじまり、日常の動作に近い動きをモチーフに、キャラクター相互の関係性から引き出されるユーモアを散りばめた。ラストにかけては、ダンスの大きな魅力であるスピード感のある展開もあり、一般参加者の作品とはいえ、魅力がぎゅっと凝縮された作品になっていた。この構成は、ダンス経験のない一般市民にとって「気が付いたら楽しく踊れていた」という貴重な体験になったのではないだろうか。   

<経路> 振付・出演:中島由美子

4  ロビーでのパフォーマンスが終わると、盛り上げ隊に誘導されながら文化センターの2階へ移動した。2階にはギャラリーと喫茶店があり(喫茶店は閉店していたが)、やはり空間的にはかなり窮屈。観客は3ブロックに分けられたが、まずは階段からギャラリーへの通り道を確保するように左右2組に分けられ、もう1組はギャラリースペースの反対側の壁に沿った場所に分けられた。ちょうど「T」の字がギャラリースペースに向かって逆向きになったような観客の配置だった。
3  中島有美子は広島出身のダンサー。広島や山口、福岡を主な活動拠点に「零細に」創作活動を続け、『踊りに行くぜ!!』への参加は今回で2度目になるらしい。頭を深くうなだれたままの彼女は、細身の身体を引きずるようにして登場した。手には半透明のごみ袋を持っており、中には空き缶らしきものが入っている。観客のブロックの切れ間(ちょうど交差点のようになっていた)で立ち止まると、しばらくじっとしていたが、やがて袋の中に自分の頭を入れてしまった。中島が首を動かすと、袋の中では彼女の頭の周りを空き缶がカラカラと這いまわる・・・そんな姿を見ていたら、何だか頭も不要のごみになってしまったようで、虚しさに襲われた。街の喧騒を思わせるような雑踏の音が流れ、中島の華奢な身体は孤独の中で引きちぎられそうに見える。缶は中身が無くなってしまえばただのごみになるが、頭がごみにならずにすむためには何を入れておけばいいのだろう、そんなことを思ってしまった。中島が空き缶に見ているのは何だろうか。ごみ袋から出した空き缶をギャラリー奥に力いっぱい投げ込み、その缶を今度はフラフラした足取りでスカートの裾に拾い集める。拾っては落とし、落としては拾い、それは延々と続くのだ。ギャラリー内にはカランコロンと缶の落ちる音と中島の激しい呼吸だけが響き渡るが、やがて中島と観客を隔てるように天井からはシャッター扉が降ろされた。絶望的な断絶・・・降ろされたシャッターの向こうでは、それでも空き缶がスカートの裾から転がり落ちる音が聞こえていた。永遠に閉じ込められた孤独のように、それは耳にいつまでも残る音だった。

<Black Dog> 振付:大橋可也/出演:皆木正純、前田尚子/音楽:舩橋陽
5  大橋可也&ダンサーズは、東京を拠点に活動するダンスカンパニー。彼らは現代社会における身体の在り方を問う作品を提示し続けているのだが、その斬新な視点は作品のみならず、さまざまな取り組みを通しても伝わってくる。例えば、公演のチケット料金を上限20000円から下限0円という体系にし、鑑賞者に価値観を問う試みや「ダンスを作り出すものたちが、ダンスの意味を高めていかなくてはいけない。」との意識からダンサーや観客、批評家を交えてのイベントを開催している(=『ダンス蛇の穴』)。作品を創りだすだけでなく、それらを取り巻く社会へのアプローチにも深く関心を持っているのだろう。
6  今回の作品は、男女2人のダンサーがライブ撮影によって映し出される映像との対峙によって展開されるものだった。舞台上に立つ男女は互いに向き合うことなく無関心のように見えるのだが、背後のスクリーンには見つめ合う2人の姿がある。カメラワークによって、現実とスクリーンの状態を反転させたり、遠近感のズレをうまく取り入れて、スクリーン上にドラマティックな物語を展開していた。例えば女があらぬ方向に伸ばした腕は、スクリーン上では男に向かって伸ばされ、まるで男に追いすがっているように見えた。現実には男がただその場でしゃがみこみ、その隣で女が顔を覆っただけの仕草なのに、スクリーン上では突然の喪失といった様相になった。これらは本音とたてまえといった構図にも見えたし、何かによって拡張されたり縮小されたりする歪みに苦悩する様子にも見えた。
 「男女の間に横たわる越えられない距離」を、生身の身体と映像によって提示した意欲的な作品だった。

<うずまき馬とろくでなし> 振付・出演:近藤良平

  『踊りに行くぜ!!』の初回からずっと連続出場している近藤良平。今回の作品は、「80年代を意識した意味のなさ満載」のソロだという。確かに、アフロヘアで登場した近藤は次から次へと奇抜なキャラクターで観客を爆笑の渦に巻き込んでいった。子ども用の歩行玩具を押しながらずっこけたり、チュパチュパとおしゃぶりで音をたてたり、釣り竿の先にずっしりとした紙オムツを吊るしたり・・・。近藤が何かアクションを起こすたびに客席からはさまざまな笑い声や反応が湧き上がる。コンテンポラリーダンスというと「難しい」という印象が一般的にもあり、敬遠されることも多い。近藤のめざすダンス作品にはこうした一般的な印象を壊したいとの想いもあるのではないだろうか。もちろん、難解な作品もあっていい。だが、それだけではジャンル全体が疲弊していくことも事実だ。多様な表現があり、さまざまに味わうことが出来る環境がベストだと思う。なぜなら、それだけ観客が多様化しているともいえるし、初めてダンスにふれる人がいきなり難解な作品にぶつかれば、豊穣なダンスの魅力にふれることなく遠ざかるかも知れない。それに、現代社会の日常にはすべてといっていいほど「意味」が求められる。わからないことは半ば悪いことのように扱われ、意味あるものに囲まれていなければ不安になるのかと思われるほどに。
7  だがしかし、次々とくり広げられるユーモアあふれるシーンは、近藤良平だからこそ認められるのではないかと感じた。多くの人がダンスにアクセスするようになった現在、身体が置き去りになった表層的なダンス作品も多くなっている。いくら多様な表現が認められるとはいえ、ダンスが身体を使った表現である以上、ダンサー自身が如何に自分の身体と向き合ったかが問われるはずだ。彼が奇抜なシーンを展開してもダンス作品としての品位を失わないのは、おそらく彼自身の身体への深い洞察があるからではないだろうか。観客から笑いをさらう近藤だが、彼がふと見せる美しい一瞬には、見る者の心をとらえる深く大きな力がある。ラストシーン近くで見せた円舞での姿などがまさにそうだ。まったく、心憎いとしか言いようがない。

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(2009年12月12日(土)18:30~ @静岡市清水文化センター鑑賞)


「踊りにいくぜ!!」vol.10 伊丹(SPECIAL IN ITAMI)@アイホール
日時:2010年2月20日(土)19:00
   2010年2月21日(日)17:00
会場:伊丹・アイホール
料金:前売一般3,000円 / 学生2,000円 / 一般ペア5,000円
   当日3,500円(一律)
URL:http://odorini.jcdn.org/modules/cicoCal/index.php?action=View&event_id=0000000081


亀田 恵子(かめだ・けいこ)
大阪府出身。工業デザインやビジュアルデザインの基礎を学び、愛知県内の企業に就職。2005年、日本ダンス評論賞で第1席を受賞したことをきっかけにダンス、アートに関する評論活動をスタート。2007年に京都造形芸術大学の鑑賞者研究プロジェクトに参加(現在の活動母体であるArts&Theatre→Literacyの活動理念はこのプロジェクト参加に起因)。会社員を続けながら、アートやダンスを社会とリンクしたいと模索する日々。

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