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【暑い夏18】静から動へ 内側から外側へ

2018年06月27日

〈A-1:カティア・ムストネン〉ワークショップレポート(取材日:4/27, 5/1•5)

 

 私はダンスの素人である。ダンスのことは全く分からない。でも、その私が見ていても一緒にやりたくなった。

 カティアのクラスは不思議だ。ダンスのワークショップであるのに、そこには静寂と動きのない世界が広がっていた。inhale, exhale(吸って、吐いて)というカティアの優しい声が聞こえてくる。静かに自分の呼吸にひたすら注目させる。そして、ことあるごとに自分の身体のコアを意識するように促す。その静のスタートから少しずつ丁寧に身体をほぐし、臥位から座位、そして立位へ、横の動きから縦の動き、そしてコンビネーションへと変化していく。ワークの最後にはいつの間にか振り付けのダンスになっているのだ。毎回、同じことの繰り返しに見えるのだが、少しずつ変化をさせながら動きのグレードを上げていく指導法は、次に何ができるようになるのか、見ていてもワクワクするものがあった。

 参加者に1日目の感想を聞くと、「難しかった」「ウォームアップについていくのが精一杯だった」という声が多かった。なかなか自分の身体が動き切れていないというもどかしさを感じているようで、自分の中での変化まで掴み切れないというのが正直なところだったようだ。

(撮影:相川敦子)

(撮影:相川敦子)

  

 ワークショップの中盤5日目に、もう一度A1クラスを訪ねた。

 参加者の動きはどんなふうに変化しているのだろうか。

 

 「自分の内側に集中してください」カティアの第一声でワークが始まる。参加者はもう慣れたもので、みな身体との対話の中へ静かに入っていく。自分の身体の筋肉の一つ一つを意識する。両手を広げて背中を伸ばす時にも「骨が一本ずつついていくように」と指示が入る。呼吸と身体の動きが連動していると、心地の良い空間が生まれる。

 

「身体を固めると足音がします。柔らかく、そうそう、猫のように音を立てずに」参加者の身体から力が抜ける。すると、カティアと同じく空気の中を泳ぐように、床の上をなぞるように動きが変わる。

 5日目になると、前回より外側に伸びていく動きが増えてきた。立位で腕を伸ばす。カティアの一言。「自分のゾーンの外側の空間をつかみにいきましょう」自分の世界がもう一歩外に広がると、コンビネーションにも幅が出てきた。

(撮影:相川敦子)

 

 いよいよ明日が最終日だ。私はワークショップの扉を再び開けた。

そこで繰り広げられていたものは、明らかに今までとは違った。軽やかさ、柔らかさ、しなやかさ、どの言葉が一番合うのだろうか。みんな何かに取り憑かれたように踊っている。アクティブな動きなのに、足音一つしない。ポーンと飛んでも着地する時は無音だ。前半の頃は、あんなにドタバタ音が響いていたのに。いったい参加者の何が変わったのだろうか。

 ワーク終了後、参加者に話を聞いてみた。

 

—8日目になりましたが、最初の頃と比べて何か変化はありましたか。

「最初は体がついていかなくて、どこもかしこも筋肉痛で痛かった。でも、今はだんだん体が慣れてきて、これくらい動けるんだなあって思えるようになりました。それがとても嬉しいです」

「5日目、6日目くらいから、自分の体がだいぶ床に近づいてきて、力が抜けてきたなというのが感じられました。それまで、体は痛いし、床から体が浮いて、あんまりスライドとかうまくいかなかったんですけど、後半から余計な力が入らなくなりました」

(撮影:相川敦子)

—みなさんの動きが前よりもスムーズになっているように感じるのですが、ご自身でも何か感じておられることはありますか。

「動きがどこから始まっているのか分かるようになってきました」

—頭からとか、腰からとか?

「はい。例えば右に重心があるから、次はこういうふうに動けるんだというのが分かってきて、振り付けが覚えやすくなりました」

—ああ、そこなんですね。初日との違いは。みなさんの動きを見ていると、振り付けの動きがとても速くなって、よりスムーズになっていましたし、カティアの動きに皆が遅れずについていっていました。流れるような、迷いのない動きになっていました。

「最初は、右かな、左かなとか、どっちからかなという見た目から入っちゃう。だから、身体がついていかないのに、無理やりやろうとして振り付けがグチャグチャになっていました。でも、右足を踏んだら次は左足しかないというような、動きの始まりと繋がりが分かってくると、あれっ、こっちに行くから、次はこっちへ動くんだみたいに自然にできるようになる。それが、自分にとっての発見でしたね」

—カティアの振り付けは、スピーディで一見複雑な動きをしているように見えますが、実は無理のない動きをしているのですね。

「そうそう」

—今日のみなさんのダンスを見ていると、その動きに一連のラインを感じます。

「そうした身体の動きのベースを、今回学べたような気がします。カティアのクラスに参加して、本当によかったです。

 自分の身体を知ること、自分の内側(コア)を意識すること、そうすると私たちは身体の自由を取り戻し、外側に向かって自在に表現の幅を広げていくことができる。そんな世界を、参加者とともに私は体験したような気がする。

(撮影:相川敦子)

 

カティア・ムストネン(ドイツ / ベルリン)

KATJA MUSTONEN(Germany/Berlin)

フィンランド出身のダンサー、教育者、 ダンスメイカー。ベルリンを拠点に活動している。2004年オウトクンプ(フィンランド)にあるVocational Dance Schoolをダンサーとして卒業。フランクフルト音楽・舞台芸術大学(HfMDK)にて「コンテンポラリーダンス教育法」の修士号を取得。2008年以来、ダンスを学ぶ学生やプロ、ありとあらゆるムーヴメントの愛好家を対象に、コンテンポラリーダンスのテクニックやインプロヴィゼーション、コンタクトを国際的に教え続けている。 存在の有様やイメージを変容させ、具現化し、知識や感情、言語、雰囲気に伝導させる身体の能力に興味がある。近年写真やビデオ、テクストといったほかのメディアとのコラボレーションに関心を寄せており、さまざまな動きの実践や表現方法を用いた制作を行っている。

上野ゆかり

市民がつくる「マチビト来たる。」の編集に関わったことをきっかけにフリーライターとなる。コンテンポラリーダンスとは、今回初めて出会った。取材を通して新しい世界を広げ、多くの人に伝えていきたいと思っている。

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