2018年06月25日

〈C1 チョン・ヨンドゥ〉見学&インタビュー

 見学=5/1、5/6(ショーイング)
 インタビュー=5/6(インタビュー対象者:ayaさん)

 

チョン・ヨンドゥクラスを撮影しに行ったのは、5月1日、ちょうどフェスティバルの中休みに入る前の日でした。このクラスは英国の作家・批評家John Bergerの『第7の人間』を題材にした作品に取り組み、その成果をフェスティバルの最終日に発表することを目的としたアドバンス向けのクラスです。『第7の人間』は、1975年に出版された移住労働者をテーマに書かれた本で、日本語にはまだ翻訳はされていません。今回の作品は、時には命がけで不法労働者として異国に渡り、母国語以外の言語で生活している移住を余儀なくされた人びとに想いを馳せて構成されています。

クラスが始まる前に、チョンさんからの手紙が受講生に配られました。
手紙は「皆さんを見ていて嬉しい」という称賛の言葉から始まり、「単純に動きだけを練習することを目的とするならば、何かを逃してしまう」「(ワークショップの期間が限られていて)少しの時間だとしても(作品のテーマについて)皆さんと一緒に考えたい」と書かれていました。
チョンさんは「私個人の意見なので、同意しなくても大丈夫です」と前置きをしながら受講生に問いかけます。―世界の流行を早く吸収するためには、文化・経済の中心となっている国の言語(例えば英語やフランス語など)を学ぶことが求められます。韓国語や日本語といったローカルな国の言語よりも、グローバリズムの中心である強い国の言葉の方がこの場合優位に立ちます。でははたして英語やフランス語が優れていて、韓国語や日本語は劣っていますか。―
チョンさんはさらに続けます。―この踊りになぜ興味がないのか、または、この踊りをなぜ美しいと思うのか?それは、社会が作った文化かもしれない。何が一番美しいのか?それを疑うこと、問題意識を持つことは大切です。文化の中心に、権威の中心に居ようとするほど「私の踊り」「私の文化」は消えてしまう。そこにはジレンマがあります。―

(撮影:菱川裕子)

クラスの様子は、前日のFaceBookの投稿にフェスティバルスタッフでダンサーの合田さんが「受講生の姿勢が素晴らしい」と絶賛されていた通り、カウントの早い、振りの多いレパートリーにみんな食らいつくようにして踊っていました。見ているこちらの心臓がバクバクするくらい、みんなよく踊り、息が切れるほど踊っているのに笑顔ははちきれそうでした。踊りに向き合おうとする身体には、当たり前だけど限界があって、でもそれでも踊るんだという真摯な姿を目の当たりにして、私はとても満ち足りた気持ちで帰路につきました。

(撮影:菱川裕子)

5月6日フェスティバルの最終日、お昼からのアビゲイル・イェーガークラスの前に、以前にもインタビューをしたことのあるayaさんに再びインタビュー受けてもらいました。彼女は兵庫県西宮市在住で、クラシック・バレエの指導を生業にしながらダンスを続けています。
(以前のインタビュー記事>> https://danceplusmag.com/?p=15236

Q.今回なぜチョンさんのクラスに参加をしたのですか?

―振り付けそのものを踊るというより、こういう深いテーマを持った作品を踊れるのはあまりない機会なので、思い切って申し込みました。ワークショップが始まる前に出された宿題が「日本の移住労働者」について調べることでした。貧困から逃れるためにブラジルに渡った日本人や、日本で暮らす韓国の2世・3世のことなど、実は身近なテーマだったことに気づきました。調べれば調べるほど奥が深く、答えがないとも思いました。産業化、資本主義、科学や医療の発達・・表向きは私たちの社会を豊かにした事ことも、もとを辿っていけば社会の底辺にいる人たちの命そのものが関わっていて、多くの犠牲の上に成り立っていることを知りました。初日から振り移しが始まったけれど、最初はどういう風にこの踊りに接したらいいのか、この踊りとの距離感をどう掴んだらいいのか分かりませんでした。

Q.チョンさんから学んだこと・自分の踊りに生かしたいことは?

―この作品は、テーマを自分で咀嚼して、自分のものに出来ないと表現できないと思いました。それからこの作品を踊るために例えば10個の条件があるとしたら、振付のこと、音楽のことなど、どれかが出来ればいいや、じゃなくて10個の条件全て自分の中でやらなきゃいけない。自分でもそれを全てする必要があると感じています。チョンさんの作品にはすごくそれが必要で、久しぶりに追い込まれていることが楽しくて、今まで踊ってきた、積み重ねてきたことをあらためて実感する機会になっています。

ショーイングの時間も私はカメラを構えていました。
作品は二部構成。第1のシーンは移住労働者の心を表現する静かなシーン。ゆったりとした、けれどどこか寂しげな表情のダンサーたちが、空間を彷徨っている。ときに空に指で線を引いたり、何かを大切に捧げ持ったり。ソロで、二人で、交差しながら、ゆっくりとフロアに躍り出てくる。そして、どこからか不穏な音が近づいてくる。

(撮影:菱川裕子)

第2のシーンは思考よりも労働が、身体が「私」を支配する。ありえないほどの振りの多さと、カウントの速さ。なぜ自分の身体が踊っているのか、考えている余裕もない。次の動き次の動きと、速さを競うように繰り広げられていく。それははてしなく続く。
一人のダンサーがフロアに追われるように走り出てくる。それまで集団でやっていた振りを、追い詰められたようにひたすら動きを繰り返す。そこに意味など求めない。ただ繰り返すだけの労働。

(撮影:菱川裕子)

ふたたび何か恐ろしい音が近づいてくる。恐怖と不安に震える表情。散り散りになり、最後に息も絶え絶えに抱き合う二人が残される。この振り付けは直前の稽古でつけられました。観る者の心に深く焼きつける演出だったと私には感じられました。シャッターを切った時の気持ちは、消えずに残っています。

(撮影:菱川裕子)

 

チョン・ヨンドゥ(韓国/ソウル)
JUNG YOUNG-DOO(South Korea/Seoul)

Doo Dance Theater 主宰。俳優としての活動を経て、韓国芸術総合学院で舞踊を学ぶ。2004年の「横浜ダンスコレクション・ソロ&デュオコンペティション」にて「横浜文化財団大賞」「駐日フランス大使館特別賞」を受賞。西洋的で高度なダンスメソッドと明確なコンセプトを併せ持つ中に、東洋的に抑制された繊細な動きを加えることで、新たな時間と空間を創造している。マレビトの会や青森県立美術館「祝/言」への出演、福岡での共同製作作品『baram 033°37’22”N 130°25’31”E』(2013)、『カラスとカササギ』、Dance New Air2014「Project Pinwheel」『報復』(2014)、横浜ダンスコレクション2016 のオープニングプログラム『無・音・花』の振付など、日本でも多くの支持を集める。

菱川裕子

大阪府出身。7年前に江之子島文化芸術創造センターで催されたMonochrome Circusのワークショップに飛び込んだのがダンスとの出会い。人前で踊ることにはまだまだ抵抗がありますが、踊ることが好きです。踊っている人を観たり、撮ったり、話を聞いたりします。協力してくださると嬉しいです。

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