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【暑い夏14】E「風通しのよくなった身体」

2014年08月5日

E  ビギナークラス 5月3日(土) コンテンポラリー・ダンスの多様性をまさにコンセプト的にも地理的にも満喫できる、イントロダクション・クラス。世界の第一線で活躍する講師による様々なスタイル、考え方のダンスに触れることができます。ダンスには興味があるけど敷居が高かった方、身体全般に興味ある方、アカデミックな関心のある方、世界のダンスに肌で触れたい方、ただただ動きたい方、それぞれの切り口で飛び込んでください。


prof_francescoフランチェスコ・スカベッタ (ノルウェー/オスロ)FRANCESCO SCAVETTA MPULSTANZ (オーストリア)や、P.A.R.T.S(ベルギー)、MTD(オランダ)など、主要なフェスティバル、大学、ダンス機関等で引っ張りだこのカッティング・エッジな振付家。ノルウェーとスウェーデンを拠点にダンスカンパニーWee を率い、これまでアメリカ、ヨーロッパなど27 カ国をツアーしノルウェーを代表するカンパニーとなる。ヴェネチア・ビエンナーレで初演されたミクストメディア作品『Live』から、アブストラクトで即興的な『Surprised Body Project』まで幅広い作品群を誇る。そのムーヴメントは、リリーシング・テクニックやコンタクト・インプロヴィゼーション、そして太極拳などをバックボーンに独自の言語を開発している。(KIDFホームページより)

<ワークショップの、その後で>  
 私は普段、会社員として働いています。ですから、自らがダンスを体感するのはせいぜい年に数回程度。そんな自分にとって、毎年参加させて頂いている『京都国際ダンスワークショップフェスティバル』は、貴重な時間と場所だと感じています。かれこれ7 年ほど通っていますが、それでも毎回新たな発見があるので、ダンスって本当に奥深いんだなと思います。それと同時にヒトの身体がどれほど忘れやすいかということも感じますし、普段自分が暮らしている場所が、いかに身体に制約を与えているかにも気づかされ、ハッとするのです。このレポートでは、フェスティバルの後、いつもの暮らしに戻りつつある時間の断面から書いてみようと思います。

<余韻から気づく、規制のシビアさ>  

 京都での3 泊4 日の予定を終えて、愛知県へ。地元に到着すると、それまで自分が少し緊張していたことに気づいたり、疲労を感じたりするものですが、ダンス帰りはちょっと違うみたいです。バスターミナルにひとりで並んでいると、何となく右腕をゆっくり水平にあげたくなったり、聞こえてくるBGMに合わせて揺れたくなってくる。フェスティバルの会場なら、その衝動こそが大切で、そのまま動いていけば良かった。でも、日常空間で衝動に従えば、あっというまに「痛い子」「変な人」「危険、近づくな」になってしまうことに気づきます。でも、そもそも腕をゆっくり上げ下げするだけでそんな烙印が押されるなんて、シビア過ぎます。バス停では「ああ、変わった人がいる」くらいでしょうが、もし私の勤める会社(日本らしい企業の1 つです)で衝動をあらわしたら(急に踊りだしたら)、何が起こるかわからないくらいです(笑)。「痛い子」ですめばラッキーで、上司呼び出し必須、周囲には腫れ物にさわるような扱いで無視され、最悪は部署異動なんてことにもなりかねません。 フェスティバル会場から一歩足を踏み出せば、そんな現実が私には待ち構えていますし、1 年の大半をこんなシビアな規制の中で過ごすことになります。とは言え、せっかく覚えた動くことの楽しさや衝動も、やがて薄れて規制に馴染んだ身体に落ち着いていく…それが日常なのだなと思います。ちょっと、大げさかな?!

<身体の重さを感じること、緩めること>  

 フランチェスコさんのワークでは、身体の重さを感じることや、やわらかくほぐすこと、自然と流れていくような動きを学びました。不思議なことですが、自分の頭の重さや腕の重さを感じる、ゆったりとしたウォ-ムアップでは、冷凍庫に入れていたカチコチの身体を解凍するような温かさや、ほぐれていく気持ちのいい感覚を味わえました。全身が重いなんて感じることも多い日常ですが、身体の部位1 つ1 つの重さを丁寧に感じることで、全身が軽くなり、おもしろいなって思いました。

<流転していく身体>  

 フランチェスコさんの教えてくれる動きは、どれもすごく自然で力みがありませんでした。『え?そんな動きが出来るの?』とビックリする動きも満載なのですが、作意が感じらない自然さ。まるで身体の中に不思議な流体が注入されていて、その液体が動くままに踊っている感じです。なめらかに移動していって、すっと止まった瞬間に人間のカタチが造形される、そんな動きでした。とてもキレイだなって思いました。

<風通しのいい身体をいかにキープできるか>  

 ワークの中でフランチェスコさんが言っていた言葉で印象的だったのは「風通しのいい身体」。参加者の緊張した動きを見て言ったアドバイスです。この言葉を聞いて、私も自分の身体がギクシャクしていることに気づきます。身体に窓はついていませんが、目線を上げ、周囲をよく見て、向ける意識を自分の身体と同じくらい外にも向けてみました。これが風通しをよく出来たかどうかは確証が持てませんでしたが、身体が軽く、目が覚めるような感覚で動くことが出来ました。床を転がるときには床と接している部分にも意識を向けましたが、自分以外の環境にも目を向けながら動くことが気持ちいいなと感じていました。風が吹いて、余分なゴミをキレイに運び去ってくれる…そんな体験が出来ました。

撮影:下野優希
撮影:下野優希

 

 このワークを受けて、私の今年のフェスティバルは終了。ここからまた、日常に戻ったわけです。今はまだ、ダンスの余韻が身体に残っていて、会社の更衣室で人知れず踊ったりしています(笑)が、意識していないとまた、カチコチで規制に囚われた身体に逆戻りしてしまいます。今年こそは、手に入れた風通しのいい身体をキープしていたい、そんなことを思う私。…それにしても、フランチェスコさんの動きは気持ち良かったなぁ。

jpgArts&Theatre→Literacy 亀田恵子(かめだけいこ) 大阪府出身。2005 年、日本ダンス評論賞での第1 席受賞をきっかけにダンス、アートに関する評論活動を開始。会社 員を続けつつ、時々ワークショップに参加。アートやダンスを社会とリンクしたいと模索する日々。

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